第5話 それら

「…。」

夕への連絡をどうしようか。

朝。昨日の電話のことが気になっている。ならないほうがおかしいが。あれは…喧嘩か?喧嘩…か。か?

窓からさす光で目覚めたが、外にはやかましいくらい雀も鳴いていて、お前ら絶滅しそうなんじゃないのかよと少し恨めしくなった。


不穏な空気とは


Google先生に頼る。30にもなってそんなこともわからない訳じゃなくて、本当はわかっているけど、あれが不穏な空気だったとか、別れの危機だったとか。思いたくないだけなのは自分が1番よくわかっている。

あまつさえ嫌な夢にうなされた。静かに静かに涙を流す俺がいて、その雫が頬に伝うのを感じで起きる。目が覚めると忘れていたかのように周りの酸素を勢いよく全て取り込み、全身の細胞に送らせたことを確認すると、瞳孔をかたまらせていたようで、忘れていた瞬きを続いてする。やがて二酸化炭素を周りに掠れたまま排出をする。あ、俺は人間なんだ。と思った瞬間だった。完全に寝ぼけている。

「ゆう…。やあ。ゆう。よお…。」

無理がある独り言だ。無理やり や ゆ よ にする。


結婚したくない 理由


Google先生。頼むぜ。

…でも、だいたい予想はついている。

でもそういったことは相手のプライベートというか、踏み込んではいけないところで、知り合って1年の俺が聞いちゃいけないのとの気がしている。

「なあ…ルーサー。ちょっと聞きたいんだけど。」

「なんだ。」

「すまん…なんでもない。」

人を起こしといてなんでもない、なんて非常識にもほどがあるし、俺は今までそんなことしたことなかったが、どうしてもこれはひとりで考えて、考え抜かなきゃいけないことだ。


以前夕の部屋に行ったことがある。デート中に忘れ物したと部屋に戻って行ったときに、中々戻ってこないからどうしたと思って部屋の玄関が開けっ放しになってるのをいいことに俺が許可もなく入ってしまった。

それに夕が気づき、ものすごい勢いで焦られたことがあった。その直後俺が見てしまった"それ"に気づき、猛烈に泣いてしまうものだから俺も焦ってしまい、宥めるのに必死だったのを今、思い出した。強烈な出来事すぎて、俺の中で忘れなくてはいけないと思い、忘れていた。


診断書 診察券。病院の名前が書かれている。右端には、酒井夕様。

沢山の薬。


一人暮らしが慣れていなく、あまり片付いていない部屋の1部に溶け込んでいたそれらは、自分で見る分には生活の1部だが、俺には絶対見られたくなかったようだった。見なかったことにしようと思っていたのだが、それから目をそらす瞬間を見られていた。

いつも適当なノリで笑顔が多い彼女の、焦った顔。絶望した顔。

俺はぶっちゃけ職業上、男にだまされた女とか、失恋で心が壊れてしまったような女を見てきたが、自分の彼女がそういう顔をすると思わなかった。

夕が元彼と別れてからそんなに経っていない。そういうこともあって、出会った時からそういう可能性も無きにしも非ずと思っていたから、そんなには驚かなかった。ただ、こいつの体を労わってやろうとか、内緒にしたいなら黙っていようと思っていた。

それが、こんなにも傷つけることになるなんて。電話も切られてしまったし。次なんて切り出せばいいのかわからない。早く会った方がいいのか、会わない方がいいのか。俺もわからない。

答えは雫の中に落ちて代わりに心の中に墨汁のような黒い雫が入ってきた。


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