第2話 12歳の

「まあ。素敵なご夫婦ですね。」

そう言われるのがずっと夢だった。

将来は、素敵な人と結婚して、子供を連れてディズニーランドに行く。でも、子供はすぐ欲しいとかじゃなくて、しばらくは旦那さんと過ごしたい。

そんな夢も儚く散りゆくものですけども。

「月〜。」

「はあい。」

最近友達は彼氏をつくった。

「今開けるわね。」

ショートヘアの素敵な彼女さん。

まだ高校生なんだよな〜と思っていたらあっという間に大学生になって、あっという間に恋人を作った。

話を聞くと、同じ大学とかじゃなくて、12歳も差がある人と恋人みたいだった。

「今日はね〜、チーズケーキ作ってきたんすよ〜。」

「え!本当!?私チーズケーキ大好き!」

最近友達はよく笑うようになった。

彼氏さんの話は全くと言っていいほど聞かない。恥ずかしいんだって。

「ねえ、ベイクドとレア、どっちが好きだった?」

「私はベイクドが好きよ!」

「そか!よかったっす〜、私が作ったのベイクドなんで、以心伝心すね〜。」

知ってるのよ。本当はベイクドもレアもどっちも作ってきてくれてて、右側からこっそりベイクドだけ出してくれたこと。

「インスタントっすけど、コーヒーも持ってきたんで、一緒に飲みやしょ。」

「あら!嬉しいー!ではでは。」

そうなると私の役割はセッティングだも思い、テーブルセッティングをする。

チーズケーキを皿に器用にのせてもってくる。

「彼氏さんも好きだったりするの?チーズケーキ。」

「あ、ああ…まあ…。」

照れくさそうにいやはや…とする。

フォークを出そうとして台所に向かうと彼女のバッグに写真付きのストラップがついている。

「…これ、カップル写真?見ていいかしら。」

「あ、いや…恥ずかしいんでやめてくだせえっす。」

彼女は急いで駆けつけてきて鞄をさっと取り上げる。走る速度がうさぎなみに速い。

「見られたくないならつけてくるなって話なんすけど、うっかり外すの忘れてて…。」

「そんな、いいのに。怒ったりしないから気にしないで。」

私の言葉にほっとしたようにあ、んじゃ…すいやせん…っと鞄を遠くのほうに置く。

「あの…今更だけれど、なんて呼んだらいいかしら…?私のことは月って呼んでくれてるわよね?」

「そうっすね〜…。夕で大丈夫っすよ。」

「夕…分かったわ。」

沈黙が続く。彼氏さんのことから話題を逸らしたかったから変えたものの、女の子を呼び捨てにしたのって、アメリカにいた時以来でなんだか緊張してしまう。

顔が赤くなっているのに気づいて呼び捨て、慣れてないんすか?と聞いてくれる。

「えと…アメリカにいたとき以来で…。」

「そうなんすか、それこそ好きに呼んでくれていいっすよ!」

一応年上なのにこんなことで動揺しているのが恥ずかしくて更に顔を赤くする。

「わあ…ストロベリームーンってやつすね。」

「す、Strawberrymoon?」

私の発音の良さに驚いて固まっている。

「流石帰国子女っすねえ…。」

「それを言うなら夕ちゃ…んっんん、夕は、色んな知識があるから…すごいわ。」

志望していた大学も受かっちゃったし。県外の大学に行っているのでなかなか会うのが難しいかと思われたけど、結構頻繁に帰ってくるみたいで私ともちょくちょく会ってくれる。

「月。私この間元彼に遭遇しちゃって。」

あら、という驚きに筋肉を使ってしまって、声までは喉を塞ごうとする。

「普通に話しかけてくるんすよ、ありえなくないっすか。」

「よ、用件は…?なんだったのかしら。」

「んー…なんか、普通に。話したかっただけみたいす。」

不思議な方もいるものね…。何があったかは知らないけど、夕ちゃんが傷ついたのに…。

「でも…ちょっと嬉しかった自分もいて。あのまま話せなくなっちまうのは嫌でしたし、ちゃんと幸せになったんならよかったっすよ。」

…夕は今は恋人がいるから大丈夫かしらね。過去にとらわれなくても。

「月は恋人作らないのか?」

「作らないって訳じゃないの。単に…まあ…最近失恋みたいな大層なことじゃないけど。色々あって。」

「そうかあ、月ならいい人見つかるよ。」

お世辞でも嬉しかった。夕はほんとのことしか言えない。良くも悪くも。

「ぬ、お世辞じゃないっすよ?あたしは嫌なこともしょーじきに言っちまうからね。」

「わかってるわよ。」

夕の12歳年上の彼氏さんはこういう正直で飾り気のないところが好きなのかもしれない。

気がつくと夜になっていて、今夜も晴れ晴れとした昼とは裏腹にわびしげな月がぽっかりと暗闇に穴を開けていた。



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