ワイルドスピリット 2

はすき

第1話 30歳

「はっぴばーすでい、でぃーあ、リーク〜♪」

はっぴばーすでい、リーク〜♪

最後にしめて、俺にロウソクを消させようとする。

ほら!ほら!消えちゃうから!


…ふう〜…


おめでとー!!

拍手が起きる。俺の同僚だったやつの1人虚しいパチパチが部屋に響く。

「はあ〜…30にもなってお前にしか祝って貰えない俺って…。」

「なんだよ〜俺じゃ不満なのかよ〜。」


あれから2年が経った。

俺は何もめでたいことなく30になり、結婚も出来ていない。

こいつは親に結婚を急かされたとはいえ、彼女すらいなかったくせにあっという間に結婚した。

「リク〜そろそろ俺にもお前の彼女紹介してくれよ〜。」

「別に嫌とかじゃないけど、あいつ忙しいんだよ。」

「苦労してようやく手に入れた彼女だろ?どんな子なんだよ〜。」

「どんなって…まあ…普通にかわいいよ。」

「お前…本人に"フツウ"にかわいいとか言うなよ?」

だめなのか。あ、めっちゃかわいいって言えばいいのか?

「な!な!どう告白したの?」

「ええ…それは言う必要ないだろ。」

「そう言わず!俺リクが女にどんな感じで喋るか知りたいんだよ〜。」

聞いたら聞いたでふーんとか言うくせに。

「いーの。それは内緒。」

「くそ〜羨ましいぞ!」

「お前には嫁さんがいるじゃねえか。」

「…いるけど〜。」

けど?

「変わった奥さんでさ。」

「どんなふうに?」

「それは内緒〜。」

お前も内緒するんじゃねえか。

「まあお互い色々あるっていうことで。」

「そうだね〜。」

新しい仕事にもだいぶ慣れてきた。

俺らしくなく、普通に事務をしている。

「お前の会社って、お前の知り合いの会社だっけ?」

「そう。事務員。」

そうか〜と言いつつまあよかったじゃん、と付け加える。

「彼女とはどっか行ったのか?お祝いとかで。」

「ああ、都合がなかなか合わないから昨日遊園地に行ったよ。」

「遊園地!?リクが!?ウケるんだけど。」

何が言いたいんだよコラ。

「俺だって恥ずかしいよ。あんなとこ。みんな若いしキラキラしてるし。」

「うわあ、なんか本当に想像できない…リクが彼女と遊園地とか。」

「うるせえな。仕方ねえだろ。あいつが行きたいって言うんだから。」

「写真とかないの??」

ウキウキ、といった感じで目を輝かせる。あんまり見せたくねえんだよな。彼女の写真とか。リアクションとかコメント求めてねえし、かと言ってあ、そうみたいに流されたら見せるんじゃなかったとも思うし。難しいんだよこういうことは。

「ほらよ。」

あいつが熊のキャラクターの耳を付けてる写真を見せる。俺もこの時ネズミの耳を付けて一緒に写っていたが、とてもじゃないが恥ずかしくてズームした状態で見せる。

「へえ〜いいね。」

シンプルなコメントで安心する。おしゃべりなこいつのことだから顔がどうとか、俺には不釣り合いだとか余計なことをつらつら言いそうなものだと思ってしまった。

「ありがとよ。」

「リクにはもったいないね!笑」

黙れ。しばくぞ。

たしかにあいつは可愛いし、俺にはもったいないことくらい1番よくわかっている。

「ねね、もうしたの?」

「ああ。」

「あ、さすがですね。もうやることばっっちりやってるね。」

「黙れよ。」

「やっぱ可愛かった?」

興味深深に前のめのりで聞いてくる。ケーキのクリームつくぞ?

「…ケーキのクリームついたぞ。」

言わんこっちゃない。

「うおっほんとだ!」

必死でクリームを拭き取る。

「てか、話題逸らしたでしょ〜。」

「逆になんでそんなこと聞きたいんだよ。お前だって散々女としてきただろ。」

顔が固まる。…?俺なんか変な事言ったか?

「奥さんがさ、してくれないんだよ。」

「…。」

「えっちょっ何か言ってよ。」

「え、いや…なんでこれまた。というか、それがさっき変わってるって言ってたやつ?」

「んー…まあそうなんだけど。」

「お前がなんか地雷踏んだんじゃねえの?」

俺え!?と驚く。お前しかいないだろ原因があるなら。

「ええ…なんか言っちゃったのかな。」

「聞いたことないのか。なんでしてくれないか。」

「んー…直接バシッとはないけど。しよ?って言ったらいつも遠回しに、ああ…やめときましょ?って可愛く首傾げられちゃう。」

「可愛いとは思ってるのな。」

「そりゃあね。だけど俺もう5回くらい誘ってるぜ?」

「ん…持病とか?腰が痛くて動きたくないとかあるんじゃないのか?」

「持病かあ…それなら分からなくもないけど聞いたことは無い。」

別に全然構わないのだが、俺の誕生日なのにこいつのお悩み相談会みたいになっている。

「リクはさ、彼女としたいときどう誘うの?」

「俺から誘ったことは無いよ。」

「はっなんだこいつ。」

心底恨めしそうな顔をされる。そんな憎悪に満ちた目を誕生日に向けられるこっちの身にもなれよ。

「基本俺が彼女にキスしたり体触りまくってるとしたいって言われる。」

「おまっ…ほんとにきたねえやつ。」

こんな大人にはなりたくないやい、

と手をぶんぶんする。

「え、それはさ、どういう状況なわけ?」

"彼女の欲求が止まらなくて〜"

シーンとした空気のなか、つけてるテレビの深夜番組、インタビューで冴えない男がこう喋る。

「…彼女の欲求が止まらなくて〜…?」

「それはこの冴えない男でしょ。リクの話をしてんの。」

「俺は…んーなんだろ。遊びます、彼女部屋きます、お茶飲みつつ2人で座ります、ハグしてキスして触ります。」

同僚は口をぽかーんとさせる。

「あの…お茶までは分かるけど、ハグまでの展開はむちゃくちゃですね。」

「そんなことないぞ?座ってるの見てるだけで触りたくなる。だからお前も奥さんのこと触りまくればいいじゃねえか。」

「俺が殴られちゃうよ!!」

うわああん、と泣く。酒が入ってるからって泣くなよ…。

しばらくするとようやく泣き止み、同僚のスマホに通知が来る。

「…あ、奥さんから。」

「おう、早く見てやれ。」

「…今日…煮物を作ってあります。早く帰ってきてね。だって。」

「いいじゃねえか。煮物。今日は帰ってやれ。」

「今日はお祝いじゃんか。」

そう言われた後に今度は俺のスマホの着信がなる。

「もしもし?」

「もしもし!今から時間空いたんだけど、会いに行ってもいい?」

「…いいぞ。」

「やった!今から行くね!!」

「あぶねえから車出すよ。今どこだ。」

「えっとね、もりさんの最寄駅、南改札!」

「じゃあ出口で待ってろ。すぐ行くわ。」

電話をすっと切ると聞いていた同僚がこちらを見てくる。

「…つーことで、お前帰れ。」

「俺の扱い辛辣すぎんか!?」

「今から彼女とイチャイチャするんだよ。お前邪魔だから。」

「はいはい〜、俺は奥さんの煮物があるもんね〜。」

「ちゃんと奥さん触りまくるんだぞ。」

30同士がする会話じゃなかったが、こうして俺たちはお開きにし、お互い大事な人の元へ行くことにした。


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