お嬢様新年です!ー新年だけどなんか暗いですねー

 一年の終わりが近づく12月30日。相馬と環、そして摩耶と奈々は大都市、住宅街から遠く離れた土地にある墓地に来ていた。

「相馬さんここは?」

 摩耶が心配そうに相馬に聞く。

「ここは俺と環の親がいるんだ」

「親がいるの?んじゃあ親はここ一帯の管理者なの?」

 奈々親がいると聞いて墓地を見渡すが管理者がいると思わしき建物がなくどこに親がいるのか疑問に思った。

「ここだよ」

 相馬と環が墓石の前に立ち止まる。

「…このお名前は、笠原って相馬さんの…」

「そうだよ、俺と環の親はここにいる」

「あっ、ごめん何か変な事言って」

 咄嗟に謝る奈々だが気にしてない相馬と環。

「いや大丈夫」

「私達のお父さんとお母さんは一年前に交通事故で亡くなっちゃって、相馬の高校が私が教師を務めてる所に決まったあとの話。今の家は私だけになって相馬は叔父と叔母の方へ預ける予定だったんだけど相馬は私の所に残ったの」

 花を丁寧に添えながら相馬と環の両親の話をする。

「お母さんとお父さんに毎日のように喧嘩をしていた相馬を叩き直したの、そして高校に入学する前に必ず仲直りすると私と約束したその日に交通事故でね、結局仲直りは出来なかった…」

「そうなんですね…」

「両親と喧嘩ねぇ……」

 奈々が呟く傍ら摩耶はちらりと奈々を見た。

「正直後悔はしてる、けどいつまでも死んだ事に嘆いていたら何も進まない」

 相馬と環は墓石の前でしゃがみ手を合わせて目を閉じ数分経ったあと立ち上がる。

「今は楽しいそれだけでいい。俺が言うのはおかしいと思うけど二人とも両親を大切にしろよ」

 相馬がそう言うと摩耶は返事して頷くが奈々は何も言わなかった。

 31日、その日は摩耶の館に相馬達は居た。

「話があると言われたから来たけど一体何の話だ?」

 相馬と環、そして奈々はクリスマスに来た時とは別の部屋に摩耶に案内されて応接室らしき部屋で椅子に座って待っていた。

 すると部屋に入ってくる摩耶の両親と摩耶。

「こんにちは、先日はありがとうございます」

 相馬と環は立ち上がり頭を下げ挨拶とクリスマスの時のお礼を言う。

「別に構わない。今日話したいのは相馬くんと摩耶の今後についてだ、特に三年生卒業後」

 向かい合って座る摩耶の両親に緊張が走る相馬と環。

「本来であれば卒業後はこちらで取り決めるはずの結婚相手だが摩耶がこの学生生活の中で男性と付き合いたいとなれば意見を尊重するのだが何分一人娘ということもあり慎重に選びたいのが私達の本心です」

 摩耶の父親は丁寧に説明をする。

「はぁ、そうですよね…」

 分からなくもない気持ちに相馬と環は納得する。

「そちらの親と話し合いたいのですがいつ会えますかな?」

「あ〜、え〜と…」

 環は言葉に詰まる、交通事故で亡くなったと話すことは簡単なのだが実際自分の口から言うとなると話しずらくなる。

「お父様、相馬さんのご両親は一年前に交通事故で亡くなってしまって…」

「これは申し訳ない、まだ心の傷は癒えてない事に無神経な事を聞いてしまって」

「あ、いえ大丈夫です。ただ両親が今は居なくて叔父と叔母だけなんです」

「叔父と叔母ですか、なら話は…」

「言葉を遮るようですみません、叔父と叔母はもう高齢でして相馬の今後については私持ちとなっています。ですので両親の代わりとまでいきませんが相馬の今後については私と話す形になるんですよね、すみません」

「なるほど、分かりました。正直話がすでに通じてるのである程度は助かります。では率直に聞きます。もしこのまま摩耶の気持ちが変わらないのであれば相馬くんはこちらで引き取らせて貰ってもいいですか?」

 環はクリスマスのあとに話はある程度相馬から聞いていた。摩耶とこのまま付き合い卒業後も一緒に居るとなると相馬と環は離れ離れになってしまうことは話していた。

「…本当なんですね」

 心苦しそうな声で答える環。

「はい、こちらの跡継ぎの事もありますので相馬くんにはその手伝いとして摩耶の伴侶となります。ですがそれはあくまで今の状態が続けばの話です。摩耶が今後問題又は別れたとなればこの話は無くなります」

 考える環は相馬の方を向き聞いた。

「相馬はどうしたい?」

 唐突に聞かれて困る相馬。摩耶とこのまま付き合って環の元から離れるのは相馬にとっても辛いことだった。

「俺は摩耶と付き合いたい、けど環とは離れたくはない」

 それが相馬の答えだった。環はずっと子供の時から相馬を可愛がっていた、その事は相馬自身知っていて環には感謝するものがあった。

「ふむ、まあ今はそう答えることは出来る卒業が迫ると同時に選択肢が絞られると考えていた方がいい、では私はこれで…」

 相馬の答えが気に食わなかったのか摩耶の父親は席を立ち部屋から出ていく。

「すみません、夫は家系を大事に思う方なのでそれを絶やさない為にも摩耶を一番として考えているので、すみません」

 摩耶の母親が謝るが環も謝り始める。

「いえこちらこそすみません、親が子供を大切に思うのは分かっています。私も両親が私と相馬を大切に思っていた事を聞いていましたので…」

 摩耶の母親は部屋を出ていく。残る相馬と環に摩耶と奈々。

「本当にすみません、巻き込んでしまって」

 摩耶が頭を下げ謝る。

「摩耶は悪くないよ、俺が優柔不断なだけかもしれない、けど決められない。摩耶とは離れたくないし、環とも離れたくない」

 相馬は一番悪いのは自分だと話す。

「でも、どうしたら…」

「じゃあ、説得すれば?」

 悩む三人に対して奈々は突然言い出す。

「説得と言ってもどうすればいいの?」

「説得がダメなら力技。相馬あんたのお得意な奴でしょ」

「得意って、そんなもんじゃないだろ」

「はぁ、本当にバカね。力技って言うのは摩耶のご両親に立派な所を見せればいいのよ、簡単でしょ」

「…なるほど」

「けどそれだけじゃお父様は動かないと思う」

「摩耶、昔の摩耶はもっと明るく元気で何事にも純粋で突き進む子だったでしょ、なら今することは悩むことじゃないでしょ」

「奈々ちゃん…」

「はぁ、相馬は知らないけど摩耶は相馬に一緒に居たせいか昔と変わったね」

 ため息を吐き呆れた口調で話す奈々、段々押されて悲しそうな顔をする摩耶。さすがに言い過ぎだと思った相馬は止めようとした。

「おい、奈々…」

「ごめん言い過ぎた。頭を冷やしてくる」

 奈々は軽く謝り部屋から出ていった。

「摩耶、大丈夫か?」

「はい大丈夫です」

 相馬は摩耶に近づき心配する。

「一体どうしたのかしら奈々ちゃん」

「分からない、どうしたんだ?」

 相馬と環はなぜ突然怒ったような口調で話したのか分からなかったが摩耶はその理由が分かっていたが相馬と環には言わなかった。

 そして1月1日、新年を迎えるがその空気は重く、相馬と環の家には奈々が帰ってこなかった。

「なんか新年明けたのに暗いね」

「そうだな…」

 相馬と環はただ呆然とソファーに座りテレビを観ていた。

「ま、考えていても仕方ない。とりあえず卒業が近くなったら考えよう」

「そうね、まだあと二年もあるし」

 気持ちを切り替える二人、しかしまだ完全とはいかなかったがすぐに決めることではないためとりあえず今は深く考えることを止めた。

「さて、新年は楽しく過ごさないとな」

「そうね、でも奈々ちゃんは…」

「帰ってきたら怒るんじゃなくて楽しく笑顔で迎えてやろうぜ、アイツ絶対に驚く」

「それは面白そう、いいね」

 奈々が帰ってくることを楽しみに待ち、相馬と環は新年の挨拶を交わしたのち相馬は摩耶と電話をしたあと今後についてとりあえず保留する事となった。

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