お嬢様夏休みを満喫します!ーお嬢様、なぜご立腹で?ー

 相馬は早朝から摩耶に呼び起こされて相馬の部屋の前に立っていた。

「あの〜、摩耶さん。どうして急に…」

 摩耶は頬を膨らませて怒っていた様子だった、その後ろには奈々がニヤニヤしていた。

「どうしたもないですよ!どうして昨日の夜奈々ちゃんと出かけたんですか!」

 怒る摩耶の理由が分かった。

「いや、それはだな奈々が…」

「摩耶。この汚い男が無理やり私を連れ回したの聞いてはダメよ」

 奈々は摩耶を引き寄せて嘘を吹き込む。

「本当なの?相馬さん」

「いやいやいや違う違う、奈々が…」

「あら私が嘘をついてるとでも?」

 不敵な笑みを浮かべる奈々、明らかに相馬を嵌めようとしていた。

「相馬さん、奈々ちゃんを疑うなんて…」

「だから違うって、奈々が俺を連れ回したんだ」

 言い争う相馬と奈々、摩耶はその間でどちらが本当の事を言っているのか迷っていた。

「も〜〜!分かりました。どちらも疑うことなんて私には出来ません」

 突然、摩耶が言い争いを止めると精一杯の怒った表情なのかあまり怒った事がないのかあまり怖くなさそうな怒った表情で怒る。

「それに奈々ちゃんと相馬さんは仲良くしてください」

「あ、はい」

「嫌だ」

「奈々ちゃん!」

「…はいはい、分かったよ」

 奈々は意外にも気圧される。

「じゃあ一緒にお買い物行きましょうか」

「はぁ!?」「マジ!?」

 笑顔で買い物に誘う摩耶に驚きを隠せない相馬と奈々、しかし断ろうとしたが今の摩耶には逆らうと変わった事を提案されそうと感じた二人は仕方なく承諾するしかなかった。

 そして支度をした三人はエントランスに集まる。

「じゃあ、行ってきます」

 摩耶は摩耶の両親と奈々の両親に向かって笑顔で手を振る。

「相馬くん、摩耶と奈々ちゃんをよろしく頼むよ」

「僕からも奈々に何かあったら許さないからね」

 二人の父親は笑顔で相馬を見送るがその笑顔は殺気立って事件が起きれば消される程の威圧感を放っていた。

「あ〜、はい……」

 冷や汗ダラダラの状態で返事をするしかない相馬。

「大丈夫よ、パパ。この薄汚い男は一応使える男だから」

「まぁ奈々が言うなら…」

 奈々は相馬をフォローするつもりで言ったのか分からないが逆にプレッシャーとなり奈々の父親は睨みつけさらに追い込まれた相馬だったがなんとかホテルを出発する。

「そういや本当に俺達だけで大丈夫なのか?」

 少し歩いたあとに相馬はふと気になる。

「大丈夫です、いざとなったら相馬さんが守ってくれますもんね」

 摩耶曰く、喧嘩したから仲直りするため出掛けるという普通では認めないような嘘みたいな口実でまかり通ってしまい三人だけで出掛けることになった。

 摩耶は相馬が守ってくれると信じて疑わないが相馬にとってそれは半分嬉しいことだが半分プレッシャーとなり荷が重いと感じていた。

「…なぁ、本当に大丈夫なのか?」

 相馬は一応奈々に小声で聞く、相馬は何人かは見張りは付けているだろうと思っていた。

「本当は大丈夫じゃないけどね」

「でも見張りぐらいは付けてるだろ、昨日の奈々の時とは違ってちゃんと断って出てきたんだから」

「見張り?居ないわよそんなの」

「マ?」

 危機感というか恐れ知らずというかもはやお嬢様概念が壊れる程の警備等が穴だらけでよくそこまで無事に登りつめたのか不思議で不思議で鳩が豆鉄砲食らったようにキョトンとする相馬。

「あのね〜、昨日も言ったけど私達の場合は極力護衛などは付かせないの、普通に歩いていれば私達は普通の通行人に見えるの、そんな複数人周りを囲ませて歩くなんてただの的よ、本当に馬鹿ね」

「そう……なのか?」

 意外と相馬がイメージしていたのと違いなんか腑に落ちず悩む。

「やっぱヴァカね」

「おまっ、なんかその下唇噛んだ言い方ムカつく」

「さぁね〜」

「お前が普通の女だったら殴っていたわ!」

「あんた女をそんな軽々しく殴るなんてサイテーね!」

 小声で話していた二人だが段々と口論になり瞬く間にヒートアップする。

 当然、摩耶もそれに気づく。

「二人共何してるの!」

「いや奈々が…」「いやこの男が…」

 同時に相手を指さす相馬と奈々。

「全く〜、分かった。じゃあ二人が仲良くなるように手を繋いで歩きましょ」

「マジ?」「ふぁっ!?」

 ありえない提案に摩耶は相馬と奈々を手繋がせようと急かす。

「ま、摩耶…私が悪かった、だからやめよう、な?」

 焦りに焦ってる奈々は必死に断るが摩耶は「ダメ」の一点張り。

「摩耶、それは危険かもしれない。俺が奈々と手を繋いだら摩耶を守れない」

 咄嗟に思いつく言い訳の相馬、しかしそれがさらに最悪の自体を招く。

「ん!それなら私は奈々ちゃんと逆の手を繋ぐ」

 摩耶は奈々とは逆の位置に相馬の横に来ると相馬の手を握る。

「ままま摩耶さん?」

 急な事で逃げる動作が遅れてあっけなく手を握られる相馬、女嫌いというのもあり体が震え始める。

「あれ?相馬さん寒いですか?じゃあ…」

 握っていた手を離して次は腕にしがみつく。

「これなら温かいと思いますよ」

 良いことをしてると思い微笑む摩耶。

「ちょちょ、ちょーー、摩耶何してるの?」

 奈々が摩耶を相馬から引き剥がそうとするが摩耶は離れずさらにしがみつく力を強める。

「ダメです、奈々ちゃんは相馬さんと手を繋いでください。私も相馬とくっついていれば危険な事は起きませんから」

「そ、そうだけど……」

 完全に名案だなと自慢げに言う摩耶だが摩耶は奈々の方を向いていたため気づいてなかったが奈々は気づいていた、そして相馬を指さす。

「…ソイツ、気絶してるよ」

「え?」

 摩耶は相馬の顔を見ると相馬は白目を剥いて立ったまま気絶していた。

「そ、相馬さん!?」

 驚く摩耶だが既に意識はどこかへ飛んでいた。

 そして気がついたのか目が覚める相馬。

「ん、起きたか?」

 目の前には奈々が見下ろしていた。

「奈々、ここは……ハッ!」

 まだ薄らとした意識だったが相馬は後頭部にあるほのかな温かみと柔らかさに気づく、奈々が膝枕していたことに、

「ーーやばっ!」

「あ、おい!」

 急いで起き上がる相馬だったがその勢いでおでこをぶつける相馬と奈々。

「いっ、てぇ…」

「お前馬鹿か…いてて…」

 おでこを抑えながら起き上がる相馬。

「ごめん、てかなんでお前が膝枕を」

 周りを見渡すとどこかのショッピングモールで吹き抜けのベンチにいた。

「摩耶に言われたんだよ、悪いか?」

「そうか、摩耶は?」

 ベンチに座っているのは相馬と奈々だけ、周囲には大勢の人が行き交って賑わっていた。

「飲み物を買いに行った」

「悪い、なんか俺が迷惑かけたみたいで…」

 謝る相馬だが鼻で笑う奈々。

「ふん、女に弱いのか?」

「まぁな、弱いと言うより苦手なんだ」

「苦手、そりゃ珍しいわね」

「姉にとことん弄られ、ボコられ、そして嫌いになった」

 相馬の嫌いになった理由を言うと奈々は笑い出す。

「あはは、やっぱ馬鹿だね」

「こればっかしは何も言い返せないわ」

「なるほどね〜、でもなんで摩耶の隣にいるの?」

 最もな質問、しかしその答えは決まっていた。

「摩耶を守るため」

「ふぅん、摩耶を守るためね〜、そんな状態で守れるの?」

 疑い深く聞く奈々。

「そんなのこれから慣れていく」

「…なるほど、じゃあライバルだね」

「ライバル?なんの?」

「さぁ〜ね〜」

 嘲笑う奈々、深く聞こうとしたが摩耶が飲み物三つ抱えて帰ってきた。

「あ、相馬さん。大丈夫ですか?」

「大丈夫、悪いないきなり気絶して」

「いえ、何も無くて良かったです」

 ホッとして安堵の表情を浮かべる摩耶。

「これもらい〜」

 奈々が摩耶が抱えて持ってきた飲み物一つ奪い取る。

「あ、奈々ちゃん。先に相馬さんに選ばせてあげないと」

「な〜に言ってるの、この薄汚い男はそこら辺のドブ水を飲ませときゃいいのよ」

 蓋を開け飲む奈々だが開けてしまったものはしょうがないと思った摩耶は二つ手に持ち相馬に差し出す。

「どちらがいいですか?」

「こっちでいい、ありがとうな摩耶」

「いえいえ〜」

 相馬は飲み物を受け取り蓋を開ける、摩耶は相馬の横に座る。

「…まあこれぐらいなら大丈夫か…」

「?、何か言いました?」

「いや何でもない。飲み物ありがとう」

 距離を置こうとしたが気絶した相馬を運び飲み物まで買ってきた摩耶に対して失礼だと思い少しだけ我慢して再度お礼を言った。

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