お嬢様夏休みはお出かけします!ーお出かけなら近場だろ、違う?どこ?ー
もうそろそろ夏休みが始まる、学生のひとつの楽しみであろう長期休み、当然クラスの中は遊ぶ約束する人達がいる。だがある一人を除いて。
「……」
それは相馬だった。
相馬はあれ以降は普通に摩耶と登校しているがクラス内、学校内での噂は収まることはない、そのため自ら会話する人達は減り今では相馬から摩耶を離そうとする人達が多いが摩耶は様々な理由をつけては相馬の近くにいる。
「相馬さん、夏休みのご予定は?」
摩耶は相も変わらず話しかける。
「摩耶、学校では極力俺に話しかけない方がいい、変な噂が摩耶にまでかかるぞ」
顔を一切見ずに小声で注意を促す相馬。
「そうですね、それは正直嫌ですね」
苦笑い気味で摩耶は言う、その様子を見て少し残念に肩を落とす相馬。
「ド直球に言うな、少し傷つく」
「ごめんなさい、でも変な噂が立っても相馬さんが守ってくれますから」
「あのな~…」
最初の頃と変わらない純粋な笑顔で信用を置く摩耶に困り果てる相馬だったが最初と違って嫌な気持ちではなく悪い気分ではなかった。
「まぁいいか、約束したしな。予定は何もない、別にいれるつもりもない」
「そうですか、なら大丈夫ですね」
「何が?」
「いえ、じゃあ夏休みももちろん守ってくれますよね?」
「まさか…」
その言葉に嫌な予感がする相馬だった、案の定その予感は当たる。
「はい、お出かけしたいのですがいいですか?」
「マジか、いいよ構わない。日時は?」
守ると言った以上相馬は従うしかなかった。
「夏休み始まって初日からアメリカです」
「ん?あめ…なに?」
聞き間違いか相馬はもう一度聞いた。
「はい、アメリカにお出かけです」
「……………まじ?」
先程まで摩耶と顔を合わせることがなかったがアメリカと聞き驚き顔を見る。
「正しくはお父様とお母様がご友人に会いに行く予定でして、その間は私が暇になってしまうのでいつもはご友人のSPさんに付き添ってもらうのですがやはり気が重いというかなんというか、それで相馬さんが一緒なら楽しく過ごせそうかなと」
「まてまてまて、それ環は?摩耶と両親は?」
「既に環先生には伝えて『連れてけ~』と、お父様とお母様は私が連れていきたいのであればと仰っていました、お金に関しては大丈夫です。こちらが全額負担しますので」
「手際が良すぎる、さすがお嬢様と言った所……。なぜそこまで頭が回るのに常識までいかないんだ…」
頭を抱えつい口走るが摩耶には聞こえてはいなかった。
「何か言いました?」
「いや何でもない、摩耶がそう言うなら仕方ない、分かった。行く、両親にはしっかりと挨拶はしないとな…」
話は決まり相馬はアメリカに行くことになった。もちろん自家用ジェットに乗って。
夏休み初日、朝方出発する自家用ジェット、環は学校の都合上行けることが不可能だったため残ることになり相馬を見送る。
機内は操縦席に二人に摩耶と相馬に摩耶の両親が乗る。
「摩耶、本当にいいのかこんな男で。二度も問題を起こしてるんだぞ、それに二度目なんかは暴力行為」
「本当に大丈夫なの?一度家に招いた事もあったけど……」
信頼度は皆無、摩耶の両親は言いたい放題だったが相馬は何も言い返せずにただ姿勢を小さくすることしか出来なかった。
「大丈夫です、お父様、お母様。相馬さんは見境なく殴ってしまいそうな人ですが信用は出来ます」
「摩耶さん?それフォローになってません」
明らかにフォローになっていない発言に眉をひそめる摩耶の両親。もはや相馬にとってもどこをどう信用してるのか分からなくなってくる。
「あれ?でも大丈夫です!相馬さんは必ず私を見つけて助けてくれるので!」
ふんすと自慢げに言う摩耶、その様子を見て摩耶の父親は相馬を手招きして近くに呼び寄せたのち肩に手を回して耳元で囁く。
「正直、お前に任せることはあまりしたくないのだが環先生の話を信じることにする。だが今から行くところは普通である反面、危険もある。だから絶対に目を離すことはないように。もし無事に帰れたら実力を認めよう」
「そ、そうですね…、分かりました。最善を尽くします」
威圧の籠った言葉に今まで以上に気を張らなければならないと思った相馬は何度も頷いた。
そしてアメリカの空港に着いた瞬間に窓の外から見えるリムジンに高級車にスーツを着た多くののSPが立っていた。
「うっわ…、すげぇな」
「何言ってるんですか、アメリカでは普通ですよ」
「いや日本でも普通じゃないんだよなぁ、てか自家用ジェットの時点で…、いやいい」
相馬は深く考えるのをやめた、摩耶から目を離さないことだけに集中した。
機内から降りるとリムジンから摩耶の両親と同じくらいの年齢と豪華な衣装を着飾った、男性と女性が出てくる。
「久しぶりだな、何年だ?」
サングラスを掛けた男性は摩耶の父親と握手をする。
「二年ぐらいか?」
摩耶の父親は思い出しながら言い握手をする。
「久しぶり~、変わらないね~」
派手な装飾のドレスの女性は摩耶の母親と抱擁を交わす。
「そっちも変わらないね~」
摩耶の母親もそれに応じる。
「お久しぶりです。奈々ちゃんのお父様、お母様」
摩耶は両親の横に並び男性と女性に深く頭を下げる。
「おお!摩耶ちゃんか!大きくなったな!」
「え!?摩耶ちゃん!!大きくなったね~、前回来なかったから約十年近く会ってなかったよね~」
男性と女性は摩耶の姿に驚き再会を喜んでいた。
「ふん、摩耶相変わらずだね」
すると遅れてリムジンから降りて摩耶の前に立ったのは摩耶より少し身長が小さい女の子だった、身長が小さいが態度が大きかった。
「奈々ちゃん!久しぶり~…。変わんない?」
「はぁ!?私はこれでも伸びたのよ!!馬鹿にするんじゃないわよ!!…ん?そのうしろにいる薄汚い男は?」
「うすっ…、初対面で!?」
唐突に飛び火する相馬。
「ああ相馬さん、こちらは真上さん。お父様が昔からのご友人です、仕事はアメリカを主に、そしてこの子は奈々ちゃん。私の同級生でお友達です」
摩耶はそれぞれ紹介する。
「お友達ぃ?馬鹿じゃないの?私とあんたは友達じゃないですぅ」
小さい女の子 真上 奈々はトゲトゲした性格で毒を吐く。
「うわ~、典型的なウザさ…」
相馬はついつい言葉が漏れる。
「あん?なんか言った?」
「いえ何も…」
だがたまたま声が小さかったため奈々には聞き取れてなかった。
相馬は奈々の両親に頭を下げたのちリムジンに乗る。
両親達はそれぞれ仕事やプライベートの話で盛り上がる。
「奈々ちゃん、最近はどう?」
摩耶は奈々に話しかける。だが奈々はそっぽを向く。
「別に、普通よ」
「じゃあ今はどうしてるの?」
「さっきと変わらない質問じゃない?馬鹿じゃないの?」
「そうなの…、う~ん」
なかなか質問に答えてくれない奈々に悩む摩耶、相馬は横から耳元で摩耶に質問する。
「なぁ、摩耶この奈々て子相当性格悪くないか?」
「そう?奈々ちゃんは優しいけど…」
「おい、そこの薄汚い奴。摩耶に近寄るな」
「悪ぃ…」
相馬は軽く謝り少し摩耶と距離を置くが謝り方に不満があったのか奈々が怒る。
「口が悪いわね、摩耶。その男どうしたの?道に落ちてたの?それとも空に浮かんでた?」
「コイツ~……」
奈々の言葉にこめかみに血管が浮き出るほどイライラし始める相馬。
「ちょっと奈々ちゃん、それは言い過ぎ。相馬さんは私の命の恩人よ、今は訳あってここに連れてきたの」
「ふぅん、摩耶は常識しらずだからその男に変なことを吹き込まれないようにね」
「やだな~、常識あるよ~」
否定して笑うがこの時だけ相馬と奈々の思った事が一致した「それはない」と。
「ま、今日はこのあとは食事会があるんだけどその男は入れないように」
「え?ダメなの?」
「当たり前でしょ、馬鹿なの?多くの財閥の方々がお見えするのよ、そんな薄汚い男を入れるなんて考えられない」
「じゃあ…」
「ダメなものはダメ、犬じゃないんだから…」
「う~、相馬さんごめんなさい、今夜はお食事会があるの、けど色々な方々が集まるから、その~…」
摩耶は相馬に向かって頭を何度も下げる。
「気にしなくていいよ、その中にいれば摩耶は絶対に安全だろ、それにそこのクs…奈々さんがついていれば大丈夫だろ」
相馬にとってはずっと付きっきりでいるのには無理があったため少しでも気休めする時間がほしかったため奈々に押し付けようとした。
「おい、今さっきクソと言おうとしたな、クソ野郎」
咄嗟の言葉に危うく言ってはいけない言葉を発してしまう所だったが逆にその言葉を普通に発言する奈々。そしてその発言と共に見下すような目付きに加え殺意のこもったオーラが漂う。
「いやいやそんな…」
危険なオーラを察して謝る相馬。
「覚えておけよ、ぶっ〇してやるかな、絶対に」
「………ヒェ」
奈々は相馬の目と鼻の先まで人差し指を突きつけ今にもそのまま片目を潰す勢いの言葉と共に予告される。
「もう奈々ちゃん、そんな言葉はいけないよ」
「摩耶。こんな男は危険よ」
「も~、奈々ちゃん」
「ふん!」
奈々は腹を立ててそっぽを向く、摩耶は相馬に「ごめんなさい」と謝るが相馬は摩耶が悪くないため「気にしてない」とだけ言う。
リムジンはニューヨーク市のタイムズスクエアの最高級ホテルの前に止まる。
「さて、時間は少しあるから準備しようか、女性方は上層階、男性はその一階下だな。相馬くんちょっとこっちに」
摩耶の父親が各自指示したあとにリムジンを降りるが相馬だけを残す。
「相馬くん、今日の夜は悪いが部屋に居てくれないか、聞いてるとは思うがお偉いさんが大勢くるからさすがにそれ以外の人物がいるとなると少しな…」
「気にしないでください、連れてきてもらった身でもあるので指示には従いますし、問題は起こしませんので」
「悪いな」
摩耶の父親は申し訳なく相馬にお願いする、それほど大切な集まりであることを理解する相馬は従うほかなかった。
「相馬さん、荷物は…」
ドアを開けて摩耶が呼ぶ。
「あー、自分で持つ。それでは失礼します」
相馬は父親に頭を下げ降りる。
そしてフロントから鍵を受け取り各自部屋に向かう。
相馬は部屋に入るなりふかふかのベッドに横たわる。
「やば、気持ちいい」
予想以上の気持ちよさに眠気に襲われる、しかしスマフォが鳴る。
「ん、誰だ」
鳴ったのはメールだった、それは摩耶からだった。
「『初日から申し訳ございません、それに奈々ちゃんの言葉本当にごめんなさい』、特に気にしてないからいいとして、あの奈々とか言う女はさすがに怖すぎる、あんな子が摩耶と同級生とか考えられないわ、まあいいや返信は大丈夫だ、とだけ伝えれば」
相馬は返信して再びベッドに横になる。すると緊張から解放されたのか段々と眠気が強くなり目を閉じる。
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