お嬢様事件に巻き込まれます!ーまたですか?お嬢様。え?違う?ー

 テストも終わり次にくるものは夏休みだけとなった、相馬は大きく欠伸をして席に座って本を読んでいた。

「ふぁ~、眠い」

 横の席では摩耶が数名の女子生徒と楽しく話している。

「もう慣れたかな…」

 相馬は摩耶の楽しむ顔を見て安心して本を閉じて机に突っ伏して寝ようとした時。

「相馬、相馬」

「あ?」

 一人の男子生徒が相馬の座る前の席に座って体を揺すり声をかけてきた。

「なんだよ」

「相馬聞きたいんだが摩耶ちゃんとはどういう関係なんだ、いつも一緒だろ。付き合ってるのか?」

 相馬はその質問をいくつも聞いてきた、そして大抵その後に言うのは決まっていた。

「いや付き合ってはいない」

「本当か?なら俺が告白しても大丈夫か?」

 テンプレだった、「付き合ってるのか?」と聞かれ「付き合ってない」と答えると「告白してもいいか?」と聞かれる、相馬はその質問ばっかりだった、なぜ許可制なのか疑問に思ったが聞くのもめんどくさかったため聞かないでいた。

「いいんじゃないか、てかお前この前玉砕したんじゃなかったか?」

 聞いてきた男子生徒は一度摩耶に告白したが見事に断られた男子生徒だった。

「まだ諦めきれなくてな~、それに前はまだ生活に慣れてない、と言われただけだったから今度は…」

「そりゃなぁ…、どうせ失敗すると思うけど」

「やってみなきゃ分からないだろ、見てろよ相馬。俺が摩耶ちゃんと付き合ってお前と突き放してやる」

 男子生徒は相馬を指さして宣戦布告をするが相馬にとってはどうにでもなれという感じだった。

「はいはいご勝手に、寝る」

 相馬は机に伏せ寝た。

 一限、二限共にちょくちょく寝ては起きて寝ては起きての繰り返しをしながら相馬は授業を受けた。

 休み時間、相馬は睡眠が曖昧もあって少しだけ不機嫌だった。

「相馬さん」

「あぁ?」

 摩耶が呼ぶ、相馬は不機嫌ながらも返事をした。

「なんか不機嫌ですね、どうかしました?」

「お前には関係ないだろ」

「大丈夫ですか?」

 摩耶は心配して近づいてくる、相馬はその時だけ少ししつこく感じて咄嗟に怒ってしまった。

「関係ないて言ってるだろ!」

「す、すみません…」

 摩耶は相馬が怒ったことに驚き席に座る。瞬時に相馬は自分のしたことに気づく。

「あ、いやごめん悪い。なんか怒って…」

「いえ私の方から一方的でしたので…」

 相馬と摩耶の間に無言の空気が漂う、相馬は席を立ちトイレに向かった。

「ああ~もう、何やってるんだ。俺が悪いのに……クソっ!」

 相馬はトイレの個室で一人で自分を責めていた。

「仮にも勉強を教えてもらった立場だぞ、あんな態度はさすがにダメだろ…」

 いくらお嬢様であれいち女の子に対して一方的に言ってしまったらどんな人であれ嫌われるのは当然だと思った相馬。

「……謝るか…」

 深呼吸をしてトイレから出て教室に戻る、席に座る前に摩耶の近くで小声で言う。

「さっきは悪かった…」

 摩耶は小さな声で「大丈夫です」と言ったがまだ不安そうな顔をしていた。

 昼休み、摩耶と相馬の間に微妙な空気が流れていた。

 女子生徒は普通に摩耶の周りに集まってお昼を食べる、その間に摩耶はちらちらと相馬を見るが相馬は女子生徒もいることもあって話しずらい雰囲気になり食堂に行くことにした。


 食堂では生徒で溢れていたがなんとか席を見つけて座る。

「はぁ~、本当に悪いことしたな~」

 相馬は自販機で飲み物を買って罪悪感に悩まされながら飲む、するとお盆の上にうどんを載せた環が来る。

「珍しい、相馬がこんな所にいるなんて…」

「環か、奇遇だな」

「呼び捨てはやめなさいと言ってるでしょ、摩耶ちゃんとはどう?てか大丈夫なの?」

 環は相馬の向かいに座り割り箸を割って食べ始めながら聞く。

「まぁ他の生徒と食ってるからお昼休みは大丈夫だと思う」

「ふぅん、あっつい!!」

 びくっと体を震わせる環、相馬は自分の飲み物を環に渡す。

「相変わらずの猫舌だな」

「うっさい、ひぃ~いたいいたい」

 環は渡された飲み物をごくごくと飲む、相馬は無意識にため息が出る。

「その様子からして何かあったね」

「分かるか?まぁ隠してもしょうがない、たしかにあった」

「そりゃ分かるわよ、んで何があったの?」

「あぁ、俺が一方的に怒っちゃってなそこで気まずい空気になっちまった」

 相馬の言葉に吹き出し笑う環。

「あっははは!そりゃ相馬が悪いわね、ちゃんと謝ったの?」

「笑うことじゃねぇだろ、一応謝ったけどなんかなぁ雰囲気が改善されないとか、まぁ別に構わないけどアイツはちらちら見てくるし、う~ん微妙だな」

「へぇ~」

 ニヤニヤする環、相馬はその姿に腹が立つ。

「環、何か分かるのか?」

「さぁね~」

 もったいぶる環。

「クソ野郎」

「あ、そんな事言ったら点数引くぞ~」

「はぁ!?せけぇ!てか教員がやることじゃねぇ、鬼!あくぶへぇ!」

 相馬の言葉に環は超強力なゲンコツを振るう。

「言っていい事と悪い事があるぞ~」

「ごめんなざい…」

 苛立ちを見せつつも笑顔でいる環に痛みでまともに顔を上げることが出来ない相馬は謝る。

 結局、理由は聞けないまま環は後片付けを相馬に任せて戻っていく、相馬は後片付けをしてから教室に戻る。

 しかし、戻るとそこには摩耶の姿はなかった、トイレだと思い席に座る。だがもう少しで昼休みが終わりそうになっても一向に帰ってくる気配がなく心配しはじめた相馬は男子生徒に聞いた。

「なぁ、アイツは?」

 相馬は摩耶の机を指して聞く、男子生徒は思い出す仕草をしたあとに答えた。

「ああそういや相馬が帰ってくる前になんか三人組とどっか行ったよ」

「三人組?」

 相馬の頭であの三人組が思い浮かんだ、すぐさま三人組がいつもいる席を確認すると案の定居なかった。

「あの野郎…」

 相馬は追いかけるように教室を飛び出る、男子生徒が「授業は~」と背後から聞こえたがそれどころではなく相馬は廊下を走り摩耶を探した。


 その頃、摩耶はあの三人組に連れられて誰にも寄り付かないであろう別校舎の女子トイレに居た。

「あの~、私に何の用でしょうか?」

 摩耶は自分の状況に把握してなく単に用事があるために連れてこられた程度しか思ってなかった。

 しかし、その態度にさらに苛立たせる三人組。

「本当にうぜぇな、可愛いからって…」

「なんだ?作りかそれ?」

 口調からして段々と理解し始める摩耶だったが三対一でもありましてやこの時の対処なんて知らない摩耶にとっては初日にあった事件と同様に恐怖に陥る。

「え、えっと…、ごめんなさい。何か気に障ったのであれば謝ります……」

 謝ることしか出来ない摩耶、だがその行為すらも苛立たせることでしかないが摩耶にとっては分からなかった。

「チッ、本当うぜぇ、謝って済む話じゃねぇし」

「あの男はどうかわからねぇが他の男子共に色目使ってんじゃねぇのか?気持ち悪いんだよ」

「お嬢様気取りですか?はん、マジうぜぇ」

 罵倒する三人の内一人が掃除用具からバケツを取り出し水を溜め始める。

「本当にごめんなさい、私気をつけますので…」

「逃げんなよっ!」

 摩耶は逃げようとするが残った二人が腕を掴み逃がさずに壁に叩きつけ尻もちをつく摩耶。

「きゃっ!」

 摩耶は立ち上がろうとするがもはや恐怖で足はすくみ立ち上がることが困難だった。

「その気取った顔、洗い流してあげるよ」

 水を溜めたバケツを摩耶の上からひっくり返す、ずぶ濡れになる摩耶はもう言葉すら出なかった。

「あははは、いいザマね」

「水も滴るいい女てか、それは男かまぁどうでもいいけど」

「一年だからって舐めんじゃねぇよ」

 三人が三人共笑う、そして摩耶を置いて去って行こうとする三人組。

「はぁはぁ、声がした、ここか……」

 出ていこうとする三人組の前に来たのは相馬だった。

「摩耶はいる……か…」

 相馬は奥でずぶ濡れになって座り込んでいる摩耶を見つける。その姿を見てこれ以上ない怒りが込み上げた。

「おい、お前らがやったのか?」

 相馬は三人組が通り抜けないように立ち聞いた。

「はぁ?私たち以外に誰が、てかここ女子トイレ」

「邪魔、どいてくれない?」

「変態じゃん」

 三人組は笑い、相馬を罵倒してまで立ち去ろうとする。

「そうか、先に言う。謝れば少しは手加減はしてやる」

「はぁ?謝る?誰に?」

「謝るとか私たち悪い事してないよ」

「良いことをしたんだよ」

 全く謝る気配がないことを理解した相馬は「クソ野郎」と言った瞬間に一人の首を絞め上げる。

「かっ…かはっ!…ちょ、はな……しぬ」

「お、おい!お前殺す気か?」

 一人が相馬の腕を掴み離そうとするが絞め上げる手は段々と力が入る。

「馬鹿が、謝れば殴りで済んだものを…」

 相馬は三人を睨みつける、その目はもはや獣を殺す目だった、そして一人が怯え逃げようとした所を相馬は逃さずに足を引っ掛ける。

「逃げようとしてるんじゃねぇ、お前達も摩耶に同じことをしたんだろ、なら逃げるな」

「ひっ!」

 首を絞められて気絶する女子生徒、その手を離したのち腕を掴んでいた女子生徒を突き飛ばし、足を引っ掛けた女子生徒の前にしゃがみ胸ぐらを掴む。

「イジメなんてクソみたいなことをしてるんじゃねぇよ、殺すぞ」

 その言葉の重みと今にも殺そうとするかもしれない恐怖からスカートの下から水が漏れる。

 そして次に相馬は腕を掴んでいた女子生徒の前に立つ。

「お前には殴りでいいか、本当であればそれだけで済むはずではないが…」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「イジメた奴がイジメられてる奴の言葉なんて聞くか?聞かねぇよな、なら同じだ」

「ひぃっ!本当にごめんなさい!もうしません」

「だから最初から謝っとけば…」

 相馬はしゃがみ胸ぐらを掴み拳を振り上げた所でうしろからその拳を止める。

「相馬さん……」

 止めたのは摩耶だった。摩耶の顔は赤く腫れ上がっていた。

 相馬はその顔を見て拳を下げたのち立ち、自分の制服の上着を摩耶に着せて女子トイレから出て行った。

 その後、イジメとして片付けられた。三人組は相馬の暴力行為によって大号泣しながら大いに反省した。相馬は退学にはならなかったが数週間の自宅謹慎を命じられた。

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