お嬢様お出掛けします!ーお嬢様、何か不満でも?ー

 学校生活も早1ヶ月が過ぎようとしていた。

「おはようございます相馬さん、ゴホッゴホッ」

「ああ、おはよう。大丈夫か?」

 摩耶は数日前から風邪をひいてマスクを付けていた、休めばいいものの当の本人は「大丈夫です」の一点張り。

 相馬は毎日のように心配しているため気が気でなかった。

「お前がもし休んでもノートはとっておくから大丈夫だぞ」

「お気遣い感謝しますが大丈夫です、ゴホッゴホッ」

 摩耶は喉を痛めガラガラ声で喋る度に咳払いをする。

 もはや喋ることが辛く見えるため相馬はできる限り喋らないことにした。

 そしていつも通りに学校へと向かうためバス停へと歩いて行った。

 バスの車内で相馬は摩耶に聞いた。

「お前、その体調で何かあったら親は怒らないのか?」

「言いますけど相馬さんがいるので大丈夫です」

「何が大丈夫だ、今すぐに休め」

「ダメですよ、そしたら相馬さんに負担を追わせてしまうじゃないですか」

「いや、今がめちゃくちゃ負担なんですが?」

「そしたら迷惑はかけません!」

「いやそういう意味ではなくてな…」

 相馬は唸る、摩耶は風邪気味ながらも元気な様子を見せるが時折咳払いをするため絶対に元気ではないことが分かる相馬。

「とりあえず明日は絶対に休め、今日も一応見とくがさすがに前より咳は酷いし顔色も良くない、まぁでも一番は今帰ってもらうことが一番だが…」

「嫌です」

「…と本人が言うから見る、けど無理はするなよ俺が困るしお前の両親も困ると思うからな」

「はい、ゴホッゴホッ」

 摩耶は笑顔を見せるが弱々しい笑顔だったため相馬はさらに心配になった相馬はスマフォを取り出した。

「学校ではもう友達は出来てるだろ、できる限りアイツらを頼れ、俺にはあまり関わるな、もし何かあれば電話でもメールでもすれば行くから」

 相馬はスマフォを操作しながら言うが摩耶は首を傾げる、相馬も何故摩耶が首を傾げたのか分からず同時に傾げる。

「お前携帯は?」

「はい?」

「いや、はい?じゃなくてコレは?」

 スマフォを指し示すが摩耶自身はなんの事かさっぱり分からない顔をする。

 相馬は「コイツ、マジか…」と呟いたのち聞いた。

「まさかお前携帯の存在知らなかったのか?」

「携帯電話ですよね?それなら家にありますよ」

「それは携帯とは言わない。それは固定電話だ」

「そうなんですか!」

 摩耶は驚く、対して相馬は肩を落とす。

「ちょっと待ってろ」

 相馬は環に電話をかけた。

『なんやワレェ!?こちとら忙しいんじゃい!!』

 耳に響く声で環はなんともオラついた言動で電話からでる、相馬は少し耳から遠ざける。

「環、残念な知らせだ」

『あぁん?』

「摩耶が携帯電話の存在を知らなかった…」

『……………マジ?』

「マジ」

 環の唖然とする声でその様子が目に浮かぶ相馬。

「俺が言うのもなんだが、前回の事があったにも関わらず携帯電話も持たせないなんていくらなんでもありえなくないか?仮にもお嬢様だぞ」

 相馬は電話をしながらちょくちょく摩耶を見る。

 摩耶は咳払いしながらも相馬が電話をしてる所をじっと見つめてる。

『まぁ、ね。そしたら今から両親に電話をかけてみる』

「ああ頼む」

 相馬は電話を切り摩耶に聞く。

「お前、初日にあんな事件が起きたにも関わらず本当に大丈夫なのか?」

「正直まだ怖い所はありますけど相馬さんと一緒なら大丈夫です。ゴホッゴホッ」

 摩耶は笑顔を見せるが相馬は「それとこれは別だろ…」と言う。

 環の電話を切って間もなく相馬のスマフォが鳴った。

「ん、どうだった?」

『あ〜、なんかね〜。凄く言いづらいんだけど…』

「なんだ早く言え」

『忘れてた、らしいよ』

「は?」

『忘れてたのと携帯電話を持たせる事を考えてなかったらしい』

 大きくため息を吐く。

『それでね、今週の土日に私と相馬、それに摩耶ちゃんの3人で買ってきてほしいとお願いされたの、ご両親はお偉いさんと会議らしいから無理だって…』

「コイツの親はバカなのか?」

『そうは見えないけどね〜、まぁそうゆう事で摩耶ちゃんにも伝えといて、じゃあ教室でねバイバイ』

 環からの電話が切れる、相馬は再び大きくため息を吐く、そして摩耶に聞いた。

「お前を含め両親は本当にあの矢上家か?」

「本当ですよ〜、ならまた家に来ます?」

「いやいい…」

 もはや相馬にとっては矢上家はそうでもない家系なのかと思ってしまう程だった。

「一応お前の携帯は今週買うことになったから」

「本当ですか!」

 摩耶は相馬の距離を一気に詰める。

「近づくな!色んな意味で危険だ」

 相馬は摩耶を追い払う、摩耶はそれに従い距離を戻す。

「すみません。ゴホッゴホッ」

 風邪気味と合わせて謝る摩耶に少しだけ申し訳なく思う相馬。

「悪かった、でもあまり近づくな」

「はい」

 そして二人はバスを降りて教室へと向かった。


 教室内のクラスメイト達はすでにそれぞれの話すグループが出来てあり一部を除いて摩耶と相馬に集まるのは決まった人だけだった。

「おはようございます」

「あ、摩耶ちゃんおはよ〜。げぇ相馬まだいるの?」

 摩耶の挨拶に元気に返す女子生徒、隣の相馬を見るとわかりやすい態度をとる。

「あーはいはい、仕方ないだろ。一緒の通り道なんだから」

「摩耶ちゃんに手を出したらぶっ飛ばすからな」

「わかったわかった」

 相馬は軽くあしらい自分の席に座る、すると男子生徒数人が相馬の周りに集まる。

「なぁなぁ摩耶ちゃんとどうなった?」

「うるさい、邪魔」

「全くそうゆう態度だと摩耶ちゃん離れるよ」

「勝手に言ってろ」

 相馬は本を取り出し読み始めると同時に教室内を観察する。

 摩耶と相馬はいい意味での人気者だがその反面よく思わない人達もいる、相馬はその事を男子生徒達から聞いた。

 そして案の定、摩耶をよく思わない女子生徒が現れた。それは教室の前の方で摩耶を入ってくるなり睨みつけるように見ていた。

 摩耶はそれに気づいてないが相馬には気づいていた、しかし何かする事はないため相馬自身も動かないでただ観察してる。

「…めんどくせぇな」

「ん?何か言ったか相馬?」

「いや何でもない」

 相馬は本を読み始める、数分後チャイムが鳴り授業が始まった。


 お昼休み、当然のごとく摩耶は相馬の机の上でお弁当箱を広げる。

「お前、他の女子と食えよ」

「そうしたいのは山々なんですが相馬さん他のクラスメイトさん達から『ぼっちさん』と言われてるらしいので一緒に食べてきな、と言われました。ところで相馬さん『ぼっちさん』とは何ですか?ん〜、おいしい〜。はい相馬さん、あ〜ん」

「お前は知らなくていい、そして地味に俺に食わそうとするな」

 相馬は女子生徒の視線に気づく、女子生徒は摩耶と相馬を見てニヤニヤしていた。

「悪いがトイレに行ってくる」

「お手洗いですか?なら私も…」

「お前は大人しく食ってろ」

「はい」

 相馬は席を立ち上がり教室から出てトイレに向かった。

「ふ〜、本当に疲れる…」

 用を足しに来た訳ではなくただ単に落ち着くためにトイレに来た相馬。

「よっ、相馬珍しいな」

「あん?えっと〜、誰だっけ?」

 相馬に声をかけてきたのは相馬とは違い凛々しい姿でなんとも真面目そうな男子生徒だった。

「ド直球に言うかそれ…、ほら委員長の塚原だ、塚原 誠人まこと

 相馬は周りのクラスメイト達の名前は多少なりと覚えていたが急に思い出そうとすると思い出せなかったが言われて思い出した。

「あ〜、誠人か。何の用だ?」

「摩耶ちゃんの事なんだがな…」

「なんだ?早く言え」

「その〜、好きになってしまってな…」

「……………………あっそ」

 そのままトイレから出て教室に戻っていった、トイレから相馬を呼ぶ声がしたが聞かないフリをした。

 教室に戻るとすでに摩耶はお昼を食べ終わっていたが相馬は気にしなかった。

 午後の授業も終わり家へと帰り、摩耶の風邪も大分良くなったあと日曜日に摩耶と共に携帯を買うために門の前で待っていた。

「おはようございます、環先生。相馬さん」

 門を開け綺麗な着こなしをした摩耶が出てきた。

「おはよう摩耶ちゃん。私服可愛いね〜」

「おはよう」

 環は摩耶の私服を褒める、対して相馬は何にも言わずただ立っていた。

「すみません、わざわざ私のために…」

「全然気にしてないよ、ね?相馬」

「俺は気にしてないが環がめちゃくちゃ気にs……ごはぁ!!」

 相馬の横腹に思いっきり拳が飛んできてその場に蹲る。

「そ、相馬さん!?」

「大丈夫だよ摩耶ちゃん、ほら行こう。こんな奴はほっといて」

 環が自分の車に摩耶を案内する。

「い、いいんですか?」

「いいのいいの、ほら行こう」

 相馬を心配する摩耶をよそに環は無理やり車に乗せ相馬を置いて出発した。

「く、クソ野郎……」

 脇腹を抑えながらゆっくりと立ち上がり事前に向かうところを聞いていた場所へと歩いていった。


 大都市にある携帯ショップに相馬はたどり着き中へ入る。

「あ、遅いよ相馬」

「て、てめぇ……」

 環は摩耶と一緒に座っており少し怒り気味に遅れてきた相馬を怒った。

「もう決まったよ」

「あー、はいはいじゃあ帰るか」

 環の横に座り腑に落ちない相馬だったが用が済んだことを聞きさっさと帰ることを促した。

「全く、せっかくの日曜日でせっかく摩耶ちゃんも家から出てるから何処かに出かけようよ」

「めんどくさ」

「そんな態度だといつまでたっても女の子にモテないよ」

「関係ない、そもそも女嫌いになったのはお前のせいだ」

「サイテー、こうなったら今日一日付き合ってもらうから」

「はぁ?なんでそうなる」

「携帯貰ったらさっさと行くわよ」

「クソ野郎…」

 携帯を受け取ったあとに隣のショッピングモールに強制的に連れていかれた相馬、摩耶は少しだけ申し訳なさそうだったが環は気にせずに連れ回した。


 お昼を含め、洋服などショッピングモールを端から端まで歩き回ってる途中、環のスマフォが鳴った。

「はいもしもし?、え〜本当ですか、いやそれ明日どうにかなりません?今?……分かりました、今行きます」

 環は残念そうにスマフォを切る。

「ごめん相馬、摩耶ちゃん。仕事が急に入った、ちょっと試験の事だってさ」

「あー、そういや試験近いもんな」

「試験?」

「いわゆるテストだ」

「テストですか、へ〜」

「だから相馬、あとは頼んだ!」

「え?環、待てよ」

「ごめん待てない!じゃ、また明日ね摩耶ちゃん!!」

 環は急いでその場から走り去った、摩耶はなんとなく軽く手を振る、そして摩耶と相馬だけになった。

「マジかよ…」

「どうしましょうか?」

「う〜ん、まだ時間は二時過ぎか…、どうする帰るか?」

「あ、はい、そうですね…」

 摩耶は相馬の言葉に少しだけ悲しそうに反応する、相馬はそれを見て少しだけ考えたあとに言った。

「そういやお前はゲーセンとか行ったことあるか?」

「げーせん?とはなんですか?」

「説明するより行くか」

「は、はい…」

 相馬は慣れた足取りでショッピングモール内にあるゲームセンターに案内した。

「す、凄い…」

 摩耶は目を輝かせた。

「俺が子供の時に親とか連れてきてもらったからな、こっちだ」

 相馬は摩耶をクレーンゲームに案内する、中には黒い猫の大きなぬいぐるみがあった。

「可愛い!」

「やってみるか?」

「はい、でもどうやって?」

「ここにお金を入れてやるだけだ」

 クレーンゲームの説明して摩耶は財布からお金を取り出しプレイしたが初めてでなかなか思ったように出来ず苦戦した。

「難しいです…」

「最初はな、ちょっと貸してみろ」

 摩耶に代わり相馬がプレイするとすぐに取れ猫のぬいぐるみが相馬によって取り出し口から出てきた。

「ほら、やるよ」

「え?いいんですか?」

「いや俺が猫とか合わなすぎる、だからお前にやる」

「す、すみません。ありがとうございます…」

 摩耶は恥ずかしながらも猫のぬいぐるみを受け取りしっかりと抱いた。

「どうだ?」

「はい、とても可愛いです」

 摩耶は静かに微笑む。

 そのあとにまた少しだけゲームセンター内を回ったあとに休憩するためにフードコートへ行き空いた席に座る。

「どうだ?少しは満足したか?」

「はい、とても」

「全く、何かしたいのならしっかりと言え」

「気づいていたのですか?」

「まぁな、てかお前は顔に出る」

「すみません…」

「謝るな、少し休んだら帰るぞ。環は先に帰ったから近くのバス停でバスに乗る」

「はい」

 相馬はスマフォを取り出す、摩耶はその様子を見たのち自分のスマフォを取り出す。

「あ、あの…」

「ん?」

「操作が全く分からなくて…」

「あぁ、てっきり忘れていた。教えてやるよ」

 相馬は摩耶のスマフォを見ながら丁寧に隅々まで教えたのち自分の携帯番号なども登録させた。

「携帯電話、凄いですね」

「お前の頭が時代遅れなだけだ」

「酷いですよ、ただ知らなかっただけです」

「あーはいはい、ほらそろそろ帰るぞ」

 相馬は立ち上がったが摩耶はそれを止めた。

「あの、せっかくなのでさっき教わった写真撮りませんか?」

「いや遠慮する」

 相馬はキッパリと断る、撮ることに何にも不満はないがそれがクラスメイト達に知られたら面倒臭いとすぐに察したため。

 摩耶は「ダメですか?」と悲しそうな顔で相馬を見る。

「ダメ」

「相馬さん、さっきしっかりと言えと言いましたよね?」

「うっ…」

 先程の発言を摩耶は思い出したかのように言う、相馬はその一言が心に突き刺さる。

 摩耶は特に問い詰める様子もなくただ言っただけに過ぎなかったが相馬にとってはとても痛い一言だった。

「わ、分かった一枚だけだ」

「やったー!」

 摩耶は慣れないスマフォを片手に相馬と並ぶ、相馬はできる限り距離をとろうとするが。

「相馬さん、離れないでください」

「分かった分かった、貸せ」

 慣れないスマフォで中々撮らない摩耶に苛立ち始め相馬が摩耶のスマフォを持ちすぐに写真を撮った。

「ありがとうございます。これ友達と喋りますね」

「頼む、それは秘密にしてくれ」

「?、なんでですか?」

「それはお前と俺の秘密だ」

「秘密、いいですね。分かりました」

 相馬は苦し紛れの一言で自分を責めたが摩耶は嬉しそうにする。

 そして近くのバス停からバスに乗り相馬は摩耶を門の近くまで送り届ける。

「今日はありがとうございました」

 摩耶は深深と頭を下げる。

「あぁ、じゃ帰るから」

「はい、また明日会いましょう」

 摩耶は手を振る、相馬は軽く手を振り家に帰る。

 帰り道で環と会う相馬。

「中々いい雰囲気じゃん」

「お前一体いつから?」

「え?ずっとだよ」

「はぁ!?仕事は?」

「ないよ、嘘」

「お前!」

「せっかく二人っきりにしたんだから感謝してほしいな、相馬の女嫌いを治すのと摩耶ちゃんに色々知ってもらう機会だったから」

「それなら他の誰かに任せろよ」

「それだといいんだけどね、これはどうも仕方ないことだよ」

 環は舌を出して笑う。

「はぁ?」

 すると相馬のスマフォから一通のメールが送られる。

 そのメールは摩耶からだった。

 メールには今日のお礼を含め、二人で撮った写真と猫のぬいぐるみの写真だった。

「全く…、もう慣れてるじゃねぇか…」

「お、いいね〜、取ってあげたの?」

「おまっ!」

 横から覗く環に相馬は殴りかかるが環は軽やかに躱す。

「待てよ!」

「弟が姉に勝てるわけないじゃない、ほらかかってきなさい」

 環は挑発するように笑いながら逃げ、相馬は追いかけ家に帰った。

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