お嬢様勘違いが起きてます!ーお嬢様、それはまた違いますー

 朝、館前の門に待つツンツン頭でツリ目でいかにも悪そうな男子生徒の相馬だった。

「おはようございます」

 門から出てきたのは気品さと可愛いさ溢れる女子生徒の摩耶だった。

「遅い、早く行くぞ」

「待ってください相馬さん」

 早歩きする相馬にすぐそばまで小走りする摩耶。

「やめろ、近づくな」

「ダメですよ、傍にいないと」

「それはお前の事情、俺はそれに付き合うだけ、実際は関わりたくない」

 相馬は怒る、摩耶はどうしようと考える。

「相馬さん、私と関わるの嫌ですか?」

「あん?当たりまえ…うぇ!?」

 摩耶は泣きそうな顔をしてる。相馬は驚く。

「私、あの時相馬さんに助けられて本当に感謝してるんです、だから学校に行く他にも相馬さんと環先生には恩返しをしないといけないと思ってまして…」

「ちょっ、悪かった。泣くなよ」

 女嫌いの相馬だが流石に女の涙には弱い相馬。

「じゃあ傍にいてください…」

「うぅ…、分かった。けど少しだけ距離を離してくれ色々と勘違いされたら俺が困る」

「分かりました、相馬さんを困らせなければ傍にいてもいいんですね!」

「ああうんまぁ、そうだな」

 そういうことではない、と思う相馬だったが距離を置いてくれることに少しホッとしたが大した距離は開けない摩耶に結局困り果てる相馬。


 学校に着くと当然周囲の目が摩耶と相馬にいく。

「な、なぁ…、少しだけ離れてくれないか?」

 横を一緒に歩く摩耶に小声で言う。

「嫌です。別にこの距離なら迷惑ではないのでは?」

「そうなんだが…、周りの目が…」

「環先生は周囲の目は気にするなと言っていました」

「そ、それは違うことを言ったんじゃないか?」

「そうなのですか?」

「多分な、それより離れてくれ」

「嫌です」

「はぁ…」

 相馬は断固拒否する摩耶を諦め教室へと入る。当然クラスメイトの目線が相馬と摩耶に集まる。

「おはようございます」

 摩耶はクラスメイト達に挨拶をするが相馬はこっそりと自分の席へと向かう。

「おはよう摩耶ちゃん!」

「おはよう」

 クラスメイトの女子生徒達が摩耶に挨拶を返したと同時に相馬を睨みつける。

「お、俺は悪くねぇ…」

「皆さん私と相馬さん見てますね、どうしてでしょう?」

 摩耶は席に座りながら相馬に聞く、相馬は「お前のせいだよ」と言い本を読み始める。

「何の本を読んでるのですか?」

 ぬるっと摩耶が横から相馬が読む本を覗き見る。

「うおっ!?お前しっしっ、離れろ」

 あっちに行けと言わんばかりに手を振り摩耶を遠ざける、その行為を見ていたクラスメイト達はさらに相馬を睨みつける。

「お前達どっちだよ」と相馬は言うがただ睨むだけのクラスメイト達。

「あ、すみません忘れていました相馬さん」

「あん?何を?」

 摩耶はバックから綺麗に畳み込まれた制服の上着を取り出した。

「すみません、昨日返し損ねてしまいました」

「おまっ!バカっ!今ここで出すな!」

 その瞬間にクラスの男子生徒達が相馬の元へと集まり始める。

「お前、一体摩耶ちゃんに何をしたんだ?」

「てめぇ、タマちゃんの弟だからって何しても許されるとは思うなよ」

「相馬、お前男が好きとか言ってなかったか?あれ嘘か?」

 男子生徒達は殺意マシマシでゆっくりと相馬に近づく。

「待て!これには理由がある、とゆうかまだ上着だけだぞ!そんな事で…てかおい!俺一度も男好きとは言ってないぞ!」

 相馬は窓を開ける、そして昨日と同じ状況で相馬は窓から飛び降りて逃げる。

「逃げるなー!追えー!」

「相馬ーー!」

「絶対に許さねぇ!」

 男子生徒達は相馬を追うために教室から出ていく、女子生徒達は摩耶に集まる。

「ねぇねぇ一体どうゆうこと!?なんで摩耶ちゃんがコイツ相馬の制服を?」

「はい、実は昨日私襲われてしまいまして…」

「襲われて!?」

「その後にお家に来まして…」

「家に!?」

「そのあとに忘れていきました」

 摩耶の言葉は全て重要な事を忘れて女子生徒達を勘違いさせた。

 そんな事も知らずに摩耶は昨日の出来事を思い出し相馬に感謝していた。

「相馬サイテーな奴だね」

「いえ、そんな事はないですよ。とっても優しくカッコよかったです。私が抱きしめても逃げずに最後まで傍に居てくれました」

 その言葉に女子生徒達は顔を赤め動揺した生徒や相馬を恨む声様々だった。

「え?うそ?マジで?相馬ヤバくない?」

「摩耶ちゃんが乱れるとか…想像つかない…」

「相馬の奴、絶対に許さない!」

 摩耶はその女子生徒達の様子に疑問を持たずに言葉を続けた。

「そのあとはずっと傍にいることになりました、感謝してもしきれないです」

 摩耶は笑顔で言うがその言葉でさらにおかしくなり始める女子生徒達。

「うぅ…最悪…。どうしてこんな…」

 相馬がボロボロになりながら教室に入ってくる。

「摩耶ちゃんといい関係になりやがって…」

「次はないと思えよ」

「男好きじゃなかったのが残念」

 相馬のうしろから続々と帰ってくる男子生徒達。

「お前ら…てか最後……」

 相馬は力尽きて倒れるがそれだけで終わりではなかった。

「ちょっと相馬くん、話があるんだけど?」

「はぇ?」

 顔を上げた先には女子生徒達が取り囲む。

「あ、これヤバい感じですか?」

「相馬く〜ん、摩耶ちゃんにな〜にやったのかな?」

 ニヤニヤする女子生徒だが完全に怒ってる様子で相馬は「終わった…」とだけ言い残しその場でボコボコにされた。


「最悪……」

 始まりのチャイムと同時に座る相馬に摩耶は驚く。

「えっと…、大丈夫ですか?」

「あぁ、ダメだ…」

 相馬は朝から力尽き机に倒れこむ。

「みんなー!おはよー!」

「「おはようございます」」

 そんな相馬とは裏腹に元気いっぱいの挨拶で入ってくる環。

「コラー!相馬!朝から寝てるなー!起きろー!」

 環は相馬が寝てると思い大声で相馬を起こす、相馬は「うるせぇな」と言い顔だけ上げる。

「よし、それじゃあ今日も一日頑張ろう!おー!あ、それと摩耶ちゃんこのあといいかな?」

「あ、はい」

 環は教室を出ていくと共に摩耶を呼び廊下へと出た。

「はい摩耶ちゃん、これ教科書ね」

「すみません、ありがとうございます」

 摩耶に手提げ袋に入った教科書を渡す。

「教科書がないと意味がないからね、それと昨日は本当にごめんね、いやごめんなさい。私がしっかりとしとけば…」

「いえ、大丈夫ですよ。本当は怖かったですけど相馬さんに助けてもらい感謝してます」

「そう良かった、摩耶ちゃんは相馬の事はどう思う?」

「どう思う、ですか?普通にカッコよくて頼れる方かと思いますけど…」

 環は摩耶からそれを聞き頭を抱えた。

「あー、摩耶ちゃん。それ簡単に他の人に言っちゃダメだよ」

「どうしてですか?」

「ありゃ〜、やはり分かってないか」

「???」

 摩耶の発言は明らかに誤解を生むものだったが摩耶はそれ自体に気づいてなく環は困ったが相馬ならいいだろうと整理した。

「とりあえず分からないこととかは相馬に聞くといいわ、あとは私の所に来てもいいから、そして最後に相馬とずっと一緒にいること。私がお願いするのはおかしいけど教師は辞めたくないからお願いしますね」

「はい、色々とありがとうございます」

「じゃあね〜、勉強頑張って〜」

 環は軽く手を振り廊下を歩いて行く、摩耶も手を振り返したのち教室の中へと戻る。

「相馬さん相馬さん」

「あん?なんだ?」

「環先生から教科書を頂きました!」

 ふんすとドヤ顔で謎に自慢する摩耶。相馬はその様子を見てため息を吐くと同時にまた机に伏せる。

「勉強頑張ってな〜、俺は疲れた寝る」

「もう〜、なんか反応ないのですか?」

「はいはい、普通普通」

 軽くあしらう相馬に摩耶は頬を膨らませる。

 そして一限始まりのチャイムが鳴り担当の先生が教室に入ってきて授業が始まった。

 摩耶は事前に色々と勉強していたため授業はそう難しくはなかったが怠けることもなく姿勢良くして授業に取り組んだ。


 お昼、摩耶はバックから花柄の風呂敷に包まれた弁当箱を出した。

 相馬は授業中に何度か先生に起こされたがそれでも寝ていたためお昼になった事も気づいてなかった。それに気づいた摩耶は椅子だけ移動させ相馬の座る机横に移動してお弁当箱を置いた。

「相馬さんお昼ですよ」

 摩耶は耳元で相馬に言うが相馬は起きない。

「相馬さ〜ん」

 起こす気があるのかないのか摩耶は静かな声で囁くが起きない。

「どうしましょう…お昼なのに起きないなんて…」

「やめなよ摩耶ちゃん、相馬に近づくなんて危ないよ」

 女子生徒の一人が摩耶に向かって笑いながら言う。それを聞いた周りのクラスメイト達も笑うがそれでも起きない相馬。

「お昼は食べないといけませんのに…、相馬さんが悪いんですからね」

 摩耶は相馬の頭目掛けて優しくグーで叩く、するとむくりと起き上がる相馬。

「なんだ〜、せっかく気持ちよく寝ていたのに…お、お前!?なんで近くに!」

 相馬は真横にいる摩耶に驚きできる限り距離をとる。

「相馬さんお昼ですよ」

「お昼?あー、俺はいらない。あっちの女子と食ってこい」

「ダメですよ、私と相馬さんは常に傍にいないと」

「そこまで!?いやいや学校にいる時は大丈夫だろ」

「ダメです!ほらお昼終わっちゃいますよ」

 摩耶は相馬を手招きで呼ぶ、助けることが当たり前だがここまで懐かれてしまうとは思わなかった相馬にとっては助けた犬に懐かれてしまった気分でため息が出る。

 だがしかしため息どころの話ではないと相馬は気付かされた。

「はい、相馬さん。あ〜ん」

 なんと摩耶が自分の弁当から唐揚げを相馬の口に運ぼうとしていた。

 クラスメイト全員が摩耶の行動で一斉に相馬を睨む。当の本人は何も気にしてなくただ相馬を待っていた。

「はぁ!?なんだよコレ!」

「お母様の手作り唐揚げです」

「いやそう聞いてるんじゃない!」

「なんですか?」

「おま、普通に他の人にそれやるか?」

「お母様が美味しいものは他の人にあげるとさらに美味しくなるわよ、と言っておりましたので…」

 摩耶の言葉に相馬は頭を抱える。

「お母様ーー!!そこ教えてやれよ」

 叫ぶ相馬。

「ちゃんと教えてくれましたよ」

 普通に笑顔で答える摩耶。

「違う!そうじゃない!ちょっとこっちに来い」

 相馬が摩耶の腕を掴み三階と二階の階段踊り場まで連れてきた。

「摩耶、悪いんだが少し俺との距離を考えてくれ」

「距離ですか?一応考えています」

 摩耶はキョトンとした顔で答える、相馬はため息しか出なかった。

「あのな摩耶、男と女で付き合いもない男女があの距離といい、弁当を食べせる行為は普通はしない」

「しない?」

 相馬はまだ理解しきれてなさそうな摩耶に一つだけ違う質問をした。

「摩耶、質問だが男女が付き合う意味は知ってるか?」

「はい、もちろん。それはつまりお互いが好きって事ですよね?」

 当然の答えが返ってくる。

「じゃあ一応聞くが俺の事を好きか?」

 相馬は恥ずかしながらも聞く。

「好きです!」

 透き通るような天使の笑顔。

 相馬はその笑顔で消されそうになるが耐える。だが相馬はその好きがどの程度が確認しなければならなかった。

「摩耶、その好きはどのくらいだ?」

「どのくらいですか、大好きってことですか?」

「いやそう…なんだがなぁ……」

 相馬はさらに恥ずかしくなる。

「こ〜ら、そこで何をって相馬と摩耶ちゃんじゃない」

 二階から上がってきた環、ちょうど踊り場で話している摩耶と相馬に出くわす。

「環、どうしてここに?」

「環と呼ばない、二人を呼びに行こうとしたのだけれど…、相馬女嫌い治ったの?」

「あん?」

 環の言葉に相馬は不思議に思う。

 相馬が摩耶の腕を掴んだまま話していた事に環は指摘していた。

「うわっ!?悪い!」

 相馬は驚き摩耶の腕を離し距離をとる。

「治ってなかったのかい、まぁいいわ。昨日の件で色々と話があるから職員室に来てちょうだい」

「あ、ああ」

「はい」

 摩耶と相馬は昨日の誘拐の件で環に連れられて職員室の隣、会議室へと入った。

 中には警察官二人と校長、そして環と摩耶と相馬が向かい合って座り昨日の件で色々と事情聴取をされた。


 結局、事情聴取は放課後までに渡り警察官二人が会議室から出て帰って行った。

「お疲れ様です、いや〜本当に良かった。特に相馬くんには感謝しかありませんな」

 校長が相馬に感謝する、相馬は「どうも」と一言だけ言い頭を軽く下げる。

「さすが環先生の弟ですな」

「あったり前ですよ、ウチの自慢の弟ですから」

 環は笑いながら言うが昨日まで辞めるか辞めないか極限の状態だったとは言わない相馬は苦笑いする。

「では私はこれで、相馬くん頼みましたよ」

「はぁ…、分かりました」

 校長は会議室から出て行った。

「ねぇねぇ相馬。踊り場で何の話をしていたの?」

 環はすかさず相馬にお昼の時間に踊り場で何の話をしていたか気になり話題をふる。

「は、はぁ?今その話をする?」

「気になるんだもん」

「いや環には関係ない話だ」

「ちぇ〜、仕方ない。摩耶ちゃん相馬と何の話をしていたの?」

 相馬がそっぽを向くと環は軽く舌打ちしたあとに摩耶に聞く。

「そうですね、相馬さんが私が好きかどうかを聞かれました」

 摩耶は躊躇いもなくすんなり答えた。

「ちょっ!お前!」

「へぇ〜、そんな話を〜、で?で?どうしたの?」

 環はニヤニヤしながら相馬を見る、そしてさらに摩耶から聞き出す。

「私は好きと言いました…」

「おぉ〜大胆だね摩耶ちゃん」

 環はニヤニヤしながら相馬の脇腹を突っつきながら見る。

 相馬は頭を抱える。

「はい、ですが環先生も好きですよ」

 摩耶は続けざまに言う、しかし環はその言葉を聞いて嬉しかったがふと気になり一つだけ質問した。

「摩耶ちゃん、聞いていい?」

「はい、なんでしょうか?」

「私と相馬を好きなんだよね?」

「はい」

「じゃあクラスメイト達は?」

「みんな仲良しでとてもいいクラスです、みんな好きです」

「あ〜、なるほどね。残念だったわね相馬」

 環は理解して何度も頷く、相馬は環が聞いたことにより少し気が晴れたが反面、少しもどかしい気持ちになる。

「ちげぇよバカ!!はぁ…、めっちゃ複雑な気持ちだな」

 相馬は女嫌いだが別段、恋というものを知らないわけではなかったが自分の弁当を他人に食べさせる行為に摩耶はその事を知った上でやったのか気になっていたが環が聞いたことにより摩耶にはその気などはなくただ単に友達として好きでやった行為であるという事だった。

「相馬、頑張ろうか」

 環は相馬の肩に手を置く。

「はぁ?だから違うから!」

「じゃ、あとはよろしく〜」

「環!」

 環はスキップしながら会議室を出ていく、のちに摩耶と相馬も誰もいなくなった教室へと戻り、誰かが閉めてくれたであろう摩耶のお弁当を持ち帰り二人でバスに乗り帰った。

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