お嬢様誘拐されてしまいます!ーお嬢様?どこへ?ー

 一日の授業が終わり摩耶は机を戻す中、相馬は颯爽と帰る準備をする。

「あ、待ってください」

「待たない!」

 相馬が帰る準備ができるとすぐさま教室から出て行った、それと同時に何人かの男子生徒が追いかけるように相馬のあとに続いた。

「遊び…でしょうか?」

 摩耶は相馬が遊びに行くためにすぐに出て行ったと思った。

「ねぇねぇ摩耶ちゃんこのあと遊びに行かない?」

 数人の女子生徒が摩耶に声をかけてきたが摩耶は少し考えたのち断った。

「すみません、今日は素直に帰らせてもらいます」

 摩耶は遊びに行きたいのは山々だったがまだ初日ということもあり先に帰ることを優先した。

 摩耶はそのあと一人でバス停に向かう。

「今日だけでも楽しかった、早く帰ってお父様とお母様に話さなくちゃ」

 摩耶は初日だけでかなり充実した一日を過ごしまだウキウキした気持ちがある中で両親に伝えようと一刻も早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。

 バス停にバスが到着して乗る、後ろの窓際の席に座る。

「本当に凄いところです…」

 摩耶は走るバスの中から建ち並ぶビル、行き交う人々、すれ違う車を見て感心していた。

 摩耶はずっと館の中で過ごしほとんどが庭の中までだった、大都市の様子は館から見える遠くの景色だけで摩耶は大都市自体に行くことに憧れていた。

「お出掛けしたいですけど学校に慣れてからですね」

 歩道を歩く人の買い物袋や綺麗にカッコよく洋服を着ている人達を見て少しだけ羨ましく思ったが辛抱した。


 バスは大都市を抜け摩耶が住む住宅街まで進み摩耶が降りるバス停で止まった。

「ここで降りるんでした、次はしっかりと財布も用意しましたから大丈夫です」

 摩耶は一人で自慢げに財布を準備してバス運賃をしっかりと払い降りた。

「あとは帰るだけです」

 あと少しで帰れることに摩耶はちょっとだけ喜んだ。

 帰り道軽い足取りで鼻歌をしながら帰る、途中で二人の中年男性に声をかけられた。

「ねぇねぇ、君今暇?」

「可愛いね?どこの学生?」

 摩耶は声をかけられた事に不思議に思わず笑顔で答えた。

「こんにちは〜」

 笑顔で答える摩耶に男性二人は軽く挨拶を返した。

「名前なんて言うの?」

 一人の男性が聞いてくる。摩耶は一切疑うことなく答える。

「はい、矢上 摩耶です」

 矢上と聞き二人は顔を見合わせたのち小声で話し始めた。

「おい、矢上ってあの矢上か?」

「さぁ、でも矢上に娘なんて居なかったような…」

「仮にこんなにも可愛い子だから別に矢上の野郎の子だろうと関係ないだろ」

「そうだな、それになんか俺達を一切疑ってない様子だし、チョロそうだな」

 二人は摩耶に向き直して話した。

「ねぇねぇ摩耶ちゃん、このあと何処かに行かない?」

「何処か、ですか?」

「そうだな〜、大都市の方にいい店知ってるからそこに行かない?」

「大都市ですか!!行きます!行きたいです!」

 摩耶は大都市と言う甘い言葉に簡単に誘われ釣られてしまった。

 男性二人は小さく「よしっ」と言い摩耶は男性二人に連れていかれハイエースにまんまと乗せられた。

「ーーはぁ、最悪、マジ最悪…、まさかここまで逃げ走るとは…、ん?アイツは…って!おい!待て!」

 相馬が息切れして疲れてる所に摩耶が男性二人に連れてられて大きい車ハイエースに乗るところを目撃して追いかけたが人が車に追いつくはずもなく車は大都市へと向かって走っていった。

「やべぇ、アイツまじでバカかよ…、とりあえず環に言わないと間に合うかどうか…」

 相馬は走りながらスマフォを取り出し環に電話した。

『もしもし、相馬なに?私このあと会議なんだけど』

 環はすぐに電話から出て第一声が不満の声だった。

「やばい事になった、矢上 摩耶だっけか?アイツが今男二人に連れて行かれた、車だ。車のナンバーは…」

 走り去るハイエースに相馬はナンバープレートを見てしっかりと記憶していた。

『はぁーーーー!?相馬それ本気で言ってるの?』

 耳元で叫ぶ環、相馬は耳から離す。

「今追いかけてるけど間に合わない、そっちの大都市に向かった、ナンバーを見て場所を教えてくれ」

『かなりマズいわ、いや相当マズい。世間知らずにも程があるわよ…』

「いや単なるバカだろ」

『そうじゃないの!』

「あん?」

 驚愕する声に混ざる怯えた様子の環に相馬は不思議に思ったが『絶対に見つけて!私も探す』と環は言い電話を切った。

「クソっ!初日からこんな事になるなんて全てアイツのせいだ!ぜってーに許さねぇ」

 相馬は摩耶に不満を言いながら大都市に向かって走った。


 そのころ摩耶は男性二人に乗せられた車、ハイエースの中はうしろには大きな荷物が入るほど広かった。

「嬉しいなぁ〜、大都市」

 摩耶は車の中でも鼻歌をしていた。

 その様子を運転席と助手席に座る男性は「まさかここまでチョロいとは…」と言うが案の定摩耶には聞こえてなかった。

「どうする?」

「金目当てで誘拐したのはいいがここまで可愛い子が釣れるとは…、少しぐらいお触りしても大丈夫かな?」

「面白いね、ちょっくらそこら辺に止めてやっちまうか?」

「悪くねぇ、やろうぜ」

 男性二人の悪い会話に何も知らない摩耶。

 大都市に入ると車は裏の道へと入った。

「へぇ〜、ここにも色んなお店があるのですね」

 裏の道に入っても摩耶は疑うこともなくただ外を見る。

 段々と人通りも少なくなり最終的には人すらも通ることはない道へと入り途中で止まった。

「ここにあるんですか?」

「ああ、もちろん」

 男性二人は降りてうしろに来て摩耶の両隣に座る。

 この時に摩耶は不審に思い始める。

「あ、あの〜、お店と言うのは…」

「ここがいいお店だよ」

「あの、帰ります…」

「もう帰れないよ」

「きゃっ!ちょ…むぐっ!」

 男性は立ち上がろうとした摩耶の腕を掴み無理やり座らせたのち口を塞いだ。

「ダメだよ〜、知らない人について行っちゃ〜」

「一緒に気持ちいいことしようか摩耶ちゃん」

「んーー!うぅん!」

 摩耶は首を横に振り必死に声を出そうとするが塞がれて声が出せない、振り解こうとするが両腕は男性二人にがっしりと掴まれて解く事も出来なく男性の手は摩耶の制服をゆっくりと脱がし始め真っ白い下着が露わになりそしてついにスカートの下へと手が回り始めた。

 摩耶は恥ずかしさ所か恐怖でいっぱいになり涙が零れ始めた時。

「おいっ!開けろ!」

 外から男の声が聞こえた。それは摩耶にも聞き覚えがある声だった。

「あぁ?誰だよ」

 男性は車の外を見ようとドアを開けた瞬間に拳が飛んできた。

「ごへぇ!?」

「いた!摩耶!」

「相馬くん!」

 そこに居たのは走りすぎて制服がかなり乱れた姿の相馬だった。

「てめぇ、ぶっ殺してやる!」

 男性二人は車の外に出て相馬の前に立った。一人は相馬に殴られ鼻血を出していたがまだピンピンしていた。

「女の前だからって調子乗ってんじゃねぇよ」

「悪いな、調子には乗らないタイプなんで、これは俺の決めた事でもある。困った人がいれば必ず助ける。たとえそれが女だとしても…」

 相馬は拳を前にしてボクシングスタイルで構える。

「へっ、誰が拳なんか使うかよ、今はコレで十分なんだよ」

 男性二人が銃を取り出し相馬の頭に銃口を向ける。

「銃とか…、はっ、それ自分が弱い事を証明してるだけじゃねぇか、男なら拳で十分なんだよ」

「てめぇ…、後悔するなよ」

 男性二人は銃を撃つ、相馬は弾を避け二人に殴りとアッパーを決めそのまま意識が落ちる二人。

「…ふぅ、男の癖に武器なんか使うからだ」

 相馬はやっと一息ついて呼吸を整える。

「相馬ーー!摩耶ちゃんは?」

 遠くから聞こえるサイレンの音と共に走ってくる環。

「環ありがとう、なんとか間に合っ…」

 相馬は環の方を向いて摩耶の無事を言おうとした時に背後から抱きつかれる。

「あ、ありがとう…ごじゃいますゅ……」

 泣きながらお礼を言う摩耶、その抱きしめる力は強く恐怖から解放され安心したかのようにまたさらに強く抱きしめる。

 だがその思いとは裏腹に相馬は鳥肌が立つ。

「わ、わわ、悪い摩耶。離してくれ…」

「いやです…、こわいです…」

 相馬はそれでも逃げたい一心だが離れようにも離れる事ができなかった。

「はぁはぁ、本当によかった…、摩耶ちゃん大丈夫?」

「環先生ぇ…」

 摩耶は相馬に抱きつきながらも環を見る。

「本当によかった…、ごめんね摩耶ちゃん。あぁ〜やっちゃったよ〜。教師の仕事終わった〜」

 環は環で別の理由で泣きそうになる。

「全く…、どうしてこんなバカな奴なんだ…」

「えぐっ…、じゅみません……」

 摩耶は相馬を見て謝る、相馬は摩耶のある事に気づき制服の上着を脱ぎ摩耶の上から被せた。

 摩耶はなぜ相馬がそんな事をしたのか分からなかったが相馬の一言で気づく。

「わ、悪い下着がみえ…てる…」

「はっ!?す、すみません」

 摩耶は相馬から被せてもらった上着で必死に下着を隠す、スカートの方は問題なかったがその場でしゃがんだ。

 それと同時に警察官が数人走ってくる。

「警察です、大丈夫でしたか?」

「まぁなんとかね、生徒の方も無事でした、ウチの優秀な弟によってね」

「無事で安心しました、後日色々とお話聞くことになりますのでよろしくお願いします」

 警察官は頭を下げる、環も頭を下げる。

「さてと、帰りましょうか…と言っても報告もといこればっかりは言わないとダメだよね〜」

 環は頭を抱える、相馬は学校の始末書の事かと思ったが数十分後に驚く事となった。


 日が沈む夕刻時に環の車で後部座席に相馬と摩耶三人である所に向かった。

 そこは豪華な館前の門だった。

「おいおい環、ここって矢上家だよな?なんでここに?」

「あー、相馬悪いわね。そこの隣にいるお嬢さん、摩耶ちゃんは実は矢上家の一人娘なんだよ」

「えっ!?」

 相馬は摩耶を見る、摩耶は相馬の腕を掴みながらすやすやと寝ている。

「マジ?」

「マジ」

 声を上げる所がまさかの相馬は真逆で最悪だと思い超長いため息が出た。

「うん?お家ですか?」

「着いたよ、それとお父さんとお母さんに話があるからいいかな?」

「はい〜、分かりました」

 そして車から降りて門を入り館へと向かった。

「お父様、お母様ただいま帰りました〜」

 まだ寝起きということもあり言葉がゆらゆら揺れている感じだがドアの前でそう言うと奥からバタバタと音を立てドアを開ける両親。

「帰ったか摩耶…って環先生と、摩耶の横にいる男は?」

 環は苦笑いしながら軽く頭を下げる、摩耶の横、それはずっと腕を掴まれてる相馬だった。

「環先生いかがなされました?」

「いや〜、あはは…、すみません!初日から問題が起きてしまいました!」

 環は頭を上げたあと再度思いっきり頭を下げる。

 摩耶の両親は首を傾げるが館の中に案内して客人の間へと入れた。

 摩耶と摩耶の両親、その反対に座る環と相馬。少し重々しい雰囲気に包まれる。

「で、環先生。話とは?」

「その隣、男子生徒が着る制服の上着を摩耶が上から羽織ってる事から察するにその男子生徒が何かやったのか?」

 摩耶の父親が相馬を睨みつける、相馬は首を横に振る。

「お父様、違うのこれには理由が…」

 摩耶が止める、相馬も摩耶の言葉に頷く。

「すみませんお父さん、摩耶ちゃんがつい先程に誘拐に会って……」

「ゆ、誘拐!?」

「誘拐だと!?」

 両親は驚き立ち上がる。

「でもウチの弟、相馬が助けたんです」

 環は相馬を見る、相馬は頷く。

「まぁでもこんな問題起こしたら私は辞職します、さすがに矢上家に迷惑どころかまた何かをやってしまいそうなので…」

 環は泣きそうな顔で言う。

「いやその必要はない、摩耶を辞めさせるだけの話だ」

「お父様!」

「摩耶、問題を起こしたらすぐに辞めさせる話だよな?」

「それは…」

「えっ!?いやでも流石に初日で〜…」

 いくら教師全員が知っているとしても初日に来て辞めていくなんてクラスメイト達からしたら納得どころかそれこそ騒ぎになるだろうと思った環。

「ならどうする?」

 摩耶の父親の一言で空気が重く沈黙になる。

「あ、なら相馬くんがずっと傍にいるってのは?」

 沈黙を破った一言は摩耶の声だった。

「はぁ!?」

「えっ!?」

 驚く摩耶の両親と相馬。

「いや〜、あの時の相馬くんカッコよかったし、それに隣の席だし、いいかなって…」

 摩耶は照れながら言う。

「摩耶…、本気で言ってるのか?こんなガラ悪そうな男だぞ?」

「摩耶、ダメよ。こんな性格悪そうな男」

「ちょっ!そこまでド直球に言う?確かに見た目は悪いけどさぁ…」

「あ〜あ、見た目が仇となってるわね相馬」

「環!!」

 先程までの重い空気が一変して空気が軽くなるが摩耶の父親はいまだに認めることはしなかった。

「悪いがウチの娘は一人娘である以上この跡継ぎでもある、無理な話だ。辞めさせる」

「お父様!相馬くんって凄いんだよ、三階から飛び降りるし、友達がいっぱいいるし、さっきなんて銃の弾を避けちゃうんだから」

 摩耶は学校には行きたい事を伝えるために相馬の凄い事を伝える。

 相馬は摩耶が必死になって伝える様子が恥ずかしく見え「やめてくれ…」と言ったが摩耶はそれでも止まらなかった。

「ーー分かった、摩耶。お前がそこまでこの相馬という男を信用するならば止めない、だが一つだけ条件だ、この相馬と常に一緒にいることだ。それでいいならば通ってもよい」

「本当ですかお父様!!」

「いや待っ…」

「それで行きましょう!お父さん!大丈夫です、ウチの弟は何でも出来るので!」

 相馬が止めに入ろうとしたが環に遮られた。

「やったー!」

 摩耶は無邪気な笑顔で喜び飛び跳ねるが環と相馬の目もありすぐに止め恥ずかしくなる摩耶。

「それじゃあ私達帰りますので…」

「明日からまたよろしくお願いします、環先生。それと相馬で合ってるかな?」

「い、いや〜待ってほ…ぐぇっ!」

「はい、本当に今日は申し訳ございません、以後しっかりと気をつけ摩耶ちゃんは相馬に任せますので安心してください」

 摩耶の両親が頭を下げ、摩耶も下げる。相馬はまた止めようとしたが環に無理やり頭を下げられ強制的に決まってしまった。

 館から門を出ていくのを見送る摩耶とその両親、摩耶は笑顔で手を振る。

「あ!制服返すの忘れてた、明日返そう」

 摩耶は相馬から制服の上着を借りていた事を忘れて着たままだった事に気づき明日返す事にした、摩耶はまた学校に行けることに喜んだ。


 しかし、その反面環の車内では。

「環!マジで言ってるのか!?」

「マジのマジ」

 相馬が環に向かって怒鳴っていた。

「あーもう、最悪!摩耶が誘拐されるまで俺ずっと走ってたんだぞ!てかアイツお嬢様じゃねぇか!なんで教えてくれなかったんだ?」

「グチグチ五月蝿いね、でもよかったじゃないこれで女嫌い治す時だよ」

「治さなくていいよ!最悪!」

「相馬は昔ね、性格が悪すぎて私が徹底的に鍛え直した結果。女嫌いになっちゃったからね〜」

「本当だよ〜、こんな見た目に反して凶暴凶悪過ぎる女、どこ探したっていないぞ」

「またそんな事を言うと軽くぶっ殺すわよ」

「怖ぇ…」

 環の弟、相馬は環によって鍛え直されたあげく女嫌いになり女を避けていた。だが環はその女嫌いを治そうと今回の件をいい事に摩耶ちゃんに協力してもらおうと思った。

 しかし、摩耶自身は全く持って世間を知らないため今回の事件が起きた、相馬にとっては女嫌いな上にめちゃくちゃ訳ありお嬢様がずっとついてくる事に不安と心配しかなく困り果てた。

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