お嬢様授業を受けます!ーお嬢様教科書を忘れるー

 立てば芍薬、座れば牡丹歩く姿は百合の花の言葉のように摩耶は廊下を歩けば周りの人達、先輩だけではなく同学年から注目の的だった、それは美しい歩き方はもちろん、とてつもない気品溢れるオーラに可愛い顔ときている。注目されるのは当然だった。

 しかし、摩耶はその目線に嫌でも気になる。

「あの〜、環先生…」

 摩耶は困り前を歩く環に小声で呼ぶ。

「ん?どうしたの?」

「私達、注目されてませんか?」

「達?あー、いやみんな摩耶ちゃんだけを見てるのよ」

「えっ!?」

 摩耶は驚く、環はふと摩耶の両親の言葉を思い出した。

「(あー、そういえばかなりの箱入り?世間知らず?とは言っていた気がするなぁ…)」

 環は曖昧ながらも思い出した、摩耶はみんなに見られていることにかなり驚き、困惑していた。

「ま、まぁ気にしないで…」

「いいんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫」

 環は摩耶の手を掴み教室へと向かう。

「ここよ、一年A組。ここが摩耶ちゃんの教室」

 環は三階の一室、一年A組の教室の前に着きドアを開けた。ほとんどの生徒が摩耶を見る。

 摩耶は困惑したが見覚えのある顔が見えた。

「あ!」

 教室の端の方で本を読むバス停から職員室まで案内してくれたツンツン頭の性格が悪そうな男性生徒が静かに座っていた。

 摩耶は大きく手を振る。それに気づいた男子生徒。

「げっ!? なんでお前が!?」

「一緒の教室だったんですね!でもなんで教えてくれなかったのですか?」

 摩耶は男子生徒に近づきながら色々と質問をする。

「し、知らねぇよ。てか近づくな!そこで止まれ!」

 男子生徒に言われてピタリと止まる摩耶、しかし今にも飛びつき質問責めをしそうな顔をする摩耶。距離的には机二個分しかないが男子生徒は今にも逃げる準備をして窓を開けていた。

「あら?相馬。知り合いだったの?」

「環!なんでコイツが?」

 環は摩耶の横に来て男子生徒に聞いた。

「丁度よかった、摩耶ちゃん、この子は笠原 相馬君。私の弟だから相馬君の隣が摩耶ちゃんの席ね」

 弟だから隣の席というなんとも無理がある言い分。

 笠原 相馬。笠原 環の弟、全くもって似ているところがないが正真正銘の弟。

「Why!? 意味が分からねぇ、というか環!俺が女嫌いを知ってるだろうが!」

「ええもちろん、けどね言ったでしょ。ちゃんと環先生かタマちゃんと呼びなさいって、罰としてしっかりと摩耶ちゃんに色々と教えてあげること」

「…はい」

 環はニコニコしていたが怒りのオーラが漂っている。相馬はそれを察知してただ黙って従うしかなかった。

 そして環は摩耶を相馬の席に座らせて職員室に戻っていった。

 摩耶はさっそく相馬に色々と聞こうとしたがそうはいかずに教室内の男女関係なく生徒が摩耶の周りに集まり始め質問責めされた。

「凄い可愛い!え?こんな子始業式にいた?」

「やばっ!可愛すぎて死にそう」

「名前なんて言うの?」

「どこに住んでるの?」

 摩耶は一度に周りからとんでくる質問に困りなんて返せば分からなくなっていた。

 今にも泣きそうな摩耶。助けを求めようと横にいる相馬を見る。それに合わせ相馬は摩耶とは逆の方を見る。

「……だじゅけてくだざい」

 摩耶の助けを求める声に相馬は仕方なく一言だけで済まそうと摩耶の周りの生徒達に言おうとしたが。

「あ、そういえば相馬。たしか今日の朝この子と一緒のバスに乗っていたよな、しかもなんか彼女みたいにくっついていたよな?」

 一人の男子生徒が相馬に言う、相馬は「バカっ!それは…」と説明しようとしたが遅かった。

 摩耶の周りの生徒は目の色変え相馬を見る。

「相馬、あなたこの子とどういう関係?」

「相馬、女嫌いは嘘なのか?」

「相馬、死んでもらおうか?」

「相馬、てっきり男好きかと…」

 重なる批判の声や殺意の増した声、相馬は殺気を感じ取る。

「ちょっと待て!これには理由がある!てか、おい!最後!俺は男好きじゃねぇよ!!」

「相馬、悪いがちょっとだけツラを貸せよ」

 男子生徒達が相馬に近づく相馬は事前に窓を開けていたためそこから飛び降りた。

「あ!おいコラ!」

「クソっ!時間がねぇ追えー!」

「野郎!」

 男子生徒は朝のチャイムが鳴る前に急いで相馬を追いかけ教室から出ていった。

 残ったのは女子生徒と摩耶だけになった。

「え…え〜〜。どういうこと…?しかもここ三階…」

 摩耶は先程の出来事に全くついていけず唖然としていた。

「相馬の事は男性陣に任せればいいか、悪いことは言わないけど摩耶ちゃん相馬と付き合うのは止めときな〜、性格悪いから」

「はぁ…、悪いですか、けど学校まで案内してくれましたけど…」

「案内?意外ね、あ!そういえば摩耶ちゃんは入学式に来てた?なんか居なかったような…」

 摩耶はそれを聞かれ話題を変えるように違う話をした。

「あ!すみませんお聞きしたい事が…」

「ん?なに?」

「皆さん本当に仲が良いですね、もしかして全員顔馴染みとかですか?」

 摩耶はそう聞くと女子生徒は顔を見合わせてから笑い始めた。

 摩耶は何か笑うことを聞いたのか?と思った。

「違うよ〜、全員入学式に初めて会ったばかりだよ、中には顔馴染みもいるけどほとんどが初めてだよ」

「ではどうして仲が良いんですか?」

「それはね環先生、タマちゃんが入学式が終わったあと私達のクラス全員呼び出してそこで強制的に仲良くなるように言われ、簡単な自己紹介や全員でゲームをして仲良くなったんだよ」

「『君達仲良くなれー!』とか言ってたよね」

「あはは、あの時のタマちゃんは私達より凄く楽しそうだった」

「相馬が弟なんて全くの正反対だよね」

「だね〜」

 女子生徒は入学式にあった事を思い出しながら話しお互いに笑っていた。

「へぇ〜、凄い出来事だったんですね〜」

「うんうん、ところでさぁ〜……あれ?名前を聞いてなかったね、名前なんていうの?」

「あ、すみません。私矢上 摩耶と言います。よろしくお願いします」

 摩耶は名前を言い頭を下げる、たったその動作だけでも気品がある。

 その姿だけで女子生徒は圧巻どころか再び笑い始めた。

「摩耶ちゃんなんかお嬢様っぽいね、けど雰囲気からして気品があるのと可愛い」

「いえ、私はお嬢様ではなくただの一般人ですよ…あはは…」

「本当はお嬢様だったり?」

「あはは…」

 ニヤニヤして聞いてくる女子生徒に苦笑いする摩耶。

 するとチャイムが鳴った、女子生徒は「またあとでね〜」と言いながら自分達の席へと戻っていった。

 そして相馬を追いかけて行った男子生徒も続々と戻ってきて最後に相馬がボロボロになりつつ戻り自分の席に座ったあとそのまま突っ伏した。

「あの〜、相馬さんでしたっけ?大丈夫ですか?」

 摩耶は恐る恐る声をかける、相馬は顔を上げずに「ああ…、大丈夫」とだけ言い手をひらひらさせた。

 摩耶は心配そうに相馬を見つめる中、元気よく教室に入ってくる環。

「みんなーおはよー」

「「おはようございます!」」

「さっきも連れてきたけど矢上 摩耶ちゃんがウチのクラスメイトになったからよろしくね〜、事情等は色々と聞きたいと思うけど女の子だからそこはね!とりあえず朝の朝礼始めて楽しい学校生活にしよう!おー!」

 物静かな雰囲気の環だが見た目とは裏腹にテンションが異様に高い女性教師、それに合わせるクラスメイト達。

 摩耶はその様子を見て楽しくなり学校に来てよかったと思った。


 ほどなくして授業が始まった、摩耶は授業の準備をしようとしたがあることに気づいた。

「ない……」

 教科書全部忘れたのだ。

 元気に登校したのはいいが肝心の教科書を忘れ困った摩耶は横を見る。

「あん?なんだよ」

 しっかりと教科書とノートを机の上に置き先程まで突っ伏していたが意外にも回復が早く本を読んでいる相馬がじっと見てくる摩耶に睨んだ。

「すみません、きょうか…」

「嫌だ」

 キッパリと断られる摩耶。

「そこをなんとかお願いできませんか?」

「嫌だ、無理だ、近づくな」

 相馬はキツく言うが摩耶は少し悲しんだ顔をしたが何かを思いついたかのようにバックを漁り始めた。

「ーーこれでどうにかなりませんか?」

 摩耶は財布を取り出し相馬に見せる。

「あ、おい、金使って脅すのか?」

「いえ脅しではなく交渉術です」

 財布を開け札束を出そうとする摩耶、その目は至って普通だが相馬からしたらもはや恐怖でしかなかった。

「分かった分かった見せる、というか貸す」

 相馬は教科書を摩耶に渡すが摩耶は断った。

「いえ、それだと相馬さんが教科書を見れなくなってしまうので…よっと」

 摩耶は机を動かし相馬の机にくっつける。

「待て!なぜそうなる?」

「見れなくなったら困るじゃないですか」

「まぁそうだが…、分かったけど少し机を離せ」

「ダメですよ、教科書が落ちちゃいますよ」

「じゃあ少し離れてくれ」

「それじゃあ私が見れないです」

「じゃあ俺が離れる」

 相馬は限られた机の範囲内でできる限り摩耶との距離をとる。

 しかし相馬はある事に気づいた、それは周りのクラスメイト達が相馬と摩耶を見ていることに

「あー、やば…」

「???」

 相馬は再び危機を感じた。だが摩耶はなんの事かさっぱり分からなかったが授業は始まった。

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