箱入りお嬢様恋愛を始めます!ーお嬢様、大丈夫ですか?ー

水無月 深夜

お嬢様学校へ行きます!ーお嬢様乗り過ごしはいけませんよ!ー

 これはとある広大な敷地にとある豪華な館に住む箱入り娘ならぬ全く世間を知らないまま

 とてもとても可愛らしく育てられたお嬢様のお話とそれに振り回されるごく普通の一般男子のお話。

「お父様!お母様!」

「あら?どうしま…、あら可愛い」

「おぉ、よく似合ってるぞ」

 朝から元気な声量で朝食が済みお茶を飲んでいる二人の目の前に制服姿で現れたのは…。

「けど摩耶、本当に大丈夫なの?」

 矢上 摩耶。容姿端麗…、過ぎるほど綺麗な長い黒髪に制服姿で程よい大きさの左胸の上に桜の花を象ったピンバッチに程よい膝上のスカートに白いソックスを穿いて両親の前に来てくるくると回り喜んでいた。

「大丈夫だよお母様!」

「でもねぇ…」

「まぁ摩耶も年齢的に高校生だからな、それにずっと家の中で学習させてるだけじゃダメだからな。だが期間はきっちり高校生まで、高校生生活が終わり次第跡継ぎの引き継ぐための新たな仕事をやってもらうからな」

「はい!」

 摩耶は今まで館内で様々な勉強をしてきた、それはこの館、矢上家の跡継ぎをするためだった。しかし高校生になる前に父親が外の事を知るためにたった三年間のみ普通の学校に通わせることにした。しかしごく一般として通うため自分の身分までを隠す事も含めた。

「行ってきまーす!」

 摩耶は両親が見送る前で軽く手を振り館を出た。

「…あなた本当に大丈夫?」

「正直、後悔してる」

「そうよね、あの子は凄い純粋過ぎて真っ直ぐにしか進めない子だから疑うことをしないし世間を全く知らずに育ててしまったから本当に心配だわ…」

「ま、まぁ何かあればすぐに辞めさせる」

 両親が摩耶を見送ったあとに心配の声しか上がらなかったが摩耶はそんな事は微塵も知らずに学校へと向かう。

 摩耶が住む館は学校がある所より少し遠い住宅街の所で学校は大都市の所にある。そのために住宅街から大都市へ向けて出ているバスを利用するためバス停へと向かう。

 スクールバッグを両手でしっかりと持ち学校がある大都市へと向かって歩いていた。

「ふんふ〜ん♪ あ、おはようございます!」

 犬の散歩をしている男性に明るく挨拶をする、男性はにこやかに一礼してすれ違う。

 挨拶はしっかりとするように言われた摩耶、それをしっかりとするが行き交う人全てに挨拶をする。

 摩耶は館の前の正門を出る時に周りを確認して出てきた、それは周りの住民達も摩耶の存在を知らないため、館の人だと思われないために確認して出たのだ。

「あ!そういえば……うん?あれは同じ学校の人かな?」

 摩耶は何かを思い出したがそれより先に摩耶の前を歩く同じ学校の男子制服を着た生徒が歩いていた。

「おはようございます!」

 摩耶は小走りにその男子生徒の横につき挨拶をする。

「おわっ!び、びっくりした〜」

 男子生徒は制服が乱れツンツンした頭にツリ目でいかにも性格が悪そうな見た目をしていたが摩耶は疑う事すらせずニコニコしていた。

「同じ学校の生徒さんですよね?」

「あ、あぁ…」

 男子生徒は一度摩耶の顔を見たがすぐに顔を逸らした。

「ふふん…」

「……」

 ニコニコする摩耶、男子生徒は逃げるように歩き始めた。

「あ、ちょっと!」

「……」

 男子生徒は止まらず歩く、摩耶は横に並んで歩く。

「な、何だよ…」

 横を歩く摩耶に聞く。

「いや〜、カッコイイな、と思っただけです」

 摩耶は笑顔で言う、男子生徒はその笑顔とその言葉で顔を赤める。

「ば、バカじゃねぇの?」

 男子生徒は小走りでその場から逃げるが摩耶も追いかける。

 結局、バス停まで一緒に来てしまった。

「クソっ、お前一体なんだよ」

 バス停には摩耶と男子生徒しかいない、男子生徒は摩耶を怒鳴りつける。

「え?私?私は矢上 摩耶です」

「矢上?あの矢上か?」

 "あの"と聞かれ摩耶は一瞬だけドキッとしたが冷静に答えた。

「違いますよ、私は"普通"の矢上ですよ」

「なんだ違うのか…、というか朝から何だよ」

「私は挨拶しただけですよ?」

 摩耶は首を傾げる。男子生徒は摩耶が言った言葉に何も不思議に思わないのか疑問になったが言わなかった。

「まぁいい、離れてくれ」

 摩耶との距離はそうでもないが男子生徒はしっしっと手を払い摩耶を遠ざける。

「どうしてですか?」

 しかし、摩耶はさらに距離をつめる。

「ちょ!ちょっ!頼むから離れてくれ!」

 離れてくれと言うが逆に男子生徒が離れる。摩耶は不思議そうに見る。と同時にバスが来る。

 男子生徒は急いでバスに乗り込み後ろの窓際に座る。しかし摩耶は男子生徒の横に座る。

「ちょっと!席まだ空いてるだろ!」

 小声で摩耶に言う。バス内はまだ席は空いている、しかし摩耶は動かず男子生徒の横に座る。

「ごめんなさい。実は私ちょっと学校の場所が分からなくて…」

 摩耶は館から出たのはいいが学校の行き方が分からずにいたがちょうど前を歩いていた同じ学校の男子生徒を見つけずっと追いかけていたのだ。

「はぁ?分からない?」

 男子生徒は自分が行く学校の場所も分からない奴を初めて見て驚き呆れた。だが摩耶は何かを期待するような眼差しで見る。

「……なんだその目は?」

「ただちょっと案内してほしいなぁ…と思っただけです」

 普通に言えよ、と思った男子生徒。

「案内する必要はないだろ、勝手にうしろからついてくればいい話だろ」

「あ!そっか〜なるほど〜」

 摩耶は納得して手を叩く、男子生徒はため息混じりで「コイツはバカだ」と摩耶に聞こえない程度の小声で言った。


 バスは住宅街を抜け大都市へと入った、立ち並ぶビル群、行き交う多数の車、多くの人々が歩く歩道。

「凄い!凄い!こんなに大きいんですね!」

 摩耶は男子生徒の前に身を乗り出し窓から外を見る。

「ーーッ!ち、近い!離れろ!」

 男子生徒は目の前で窓の外を眺める摩耶に言うが摩耶は「?」と不思議に思う。

「いやもう席変われ!」

 摩耶と男子生徒は席を替わり摩耶は窓際の席になった、その間に男子生徒は真逆の窓際の席に座り間がかなり空く。

 バスは次々とバス停に止まり人が乗ってくる、その中にも摩耶と同じ制服姿がいる、最終的には満員になった。

 そしてバスは摩耶が行く学校の前に止まる、男子生徒は何事もなく降りる、しかし摩耶は学校前に着いたことに気付きもせずまだ窓の外を見ている。男子生徒はその摩耶を見て見過ごせなかったのか近くに行く。

「おい、着いたぞ」

「あれ!?もうですか?」

 摩耶は慌てるが男子生徒はその一言だけ言ってお金を払いバスから降りる、しかし摩耶が一向に降りてこない。ふと振り返ると摩耶はいそいそとスクールバッグの中から財布を捜す。うしろには誰も待ってはいなかったがバスの運転手が少し困っていた。

 男子生徒はまた呆れる。

「いいよ、俺が払う」

 男子生徒は摩耶のバス運賃を払い摩耶は驚きつつもバスの運転手に「すみません、ありがとうございました」とお礼を言って降りた。

「すみません、財布が見つからなくて…」

 摩耶は謝りつつもまだスクールバッグの中を探す。

「いいよ、ほら行くぞ」

「あっ!ありました!」

 摩耶はスクールバッグの前ポケットから猫柄の財布を取り出した。

「お前なぁ…」

 男子生徒は頭を抱える。

「えっと…、すみません一万円しかないのですが…」

「ーーーーーーー!?!?!?」

 摩耶はバス運賃のお返しをしようと財布を開く、財布の中は猫柄の可愛い財布とは裏腹に万札の札束でぎっしり詰まっていた。男子生徒は驚愕して声すらも出なかった。

「一万円じゃ、足りませんか?」

 摩耶はそう言って一束を出す、しかし一万円と言うがその束はもはや数十、百万近くの束だった。

「ば、バカっ!お前しまえ!その札束!」

 男子生徒は無理矢理に札束を財布に戻す。

「でも〜…」

「でもじゃねぇ!金はいいから、早く学校に行くぞ」

 もはや男子生徒の頭の中には摩耶を「バカだがもしかしたら金持ち?」の印象になった。

 学校に着くが摩耶はピッタリと男子生徒の横を歩く、男子生徒は歩幅を変えてもそれに合わせる摩耶。

「お前、いつまでついてくる?もう学校に着いたぞ」

「そういえば私、教室が分からなくて…」

「お、お前……、本当にこの学校なのか?」

 男子生徒は驚きどころがもはや疑いレベルでよろめく。

「確か…なんとか員室でしたっけ?そこに案内してもらえますか?」

 なんとか員室まで思い出せるなら職員室は言えるだろうと思った男子生徒。

「職員室だろ」

「ああ!そうです!職員室でした!」

「…こっちだ」

 男子生徒はもうどうにでもなれという気分で摩耶を案内する、しかし距離は置く。だが摩耶は詰める。といった謎の繰り返しを続けながら職員室に向かう。


「……失礼しましたー」

 男子生徒は摩耶を職員室に送り届け職員室から出ていった。

「貴女が矢上 摩耶ちゃんね」

「はい!」

 摩耶は椅子に座る物静かで黒縁メガネの女性教師の前に立つ。

「私は貴女の担任の笠原 環。みんなからはタマちゃんて呼ばれてるからよろしくね。お父さんから話は聞いてるわ、矢上家の一人娘て事もね」

 学校の職員、校長全ての教師は事情を全て知っていた、それは一応父親の心配から監視の目を置く名目として。

 摩耶は入学式には出ずに授業開始初日からの登校となっていた。

「一応ね、お父さんから摩耶ちゃんは普通の生徒と同じ扱いはするように言われてるけど…、やっぱ写真で見るより可愛いわね」

「いえ全然…」

「そんな事を言っちゃて〜」

 摩耶は可愛いと言われて謙遜するが顔にはとても喜んでいるかのように笑顔だった。

「とりあえず先に教室に案内しちゃうね」

「はい」

 環は摩耶を案内するべく職員室から出て教室に案内した。

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