第八話 仕合開始
「何買うの?」
「適当です」
入口から直接見えない奥の隅っこ、パック飲料コーナーを覗くと、姉の「ゆい」がスタンバっている。『まい』はそれを確認した。
「映画雑誌でも読んでて下さい」
「わかった」
『文由』は徐に雑誌を読みだした。片や、店の奥の隅っこでひそひそと作戦を立てる「ゆい」と『まい』。
「姉貴、どうする?始めるきっかけは?」
「そうねぇ、雑誌を読んでるわね。どこでもいいから他のところに誘導して。そこからあたしが雑誌を立ち読みするから。そんで、「あー!」って感じでスタートかな」
此処に来て物凄く冷静な首謀者の「ゆい」。
暫し時間が有ってから、
「『文由』さん、ちょっと来てくれますか?」
『まい』はレジ前のかわいいガムを見つけた体で「芳文」こと『文由』を雑誌コーナー付近に誘導。肩越しには雑誌を読んでいる「ゆい」が居る。『まい』はそっと目配せする。
「じゃぁ、このガム買おうかな」
ゆいはそのガムを手に取った。
「映画始まりますかね?」
「そうだね」
「映画の雑誌、買いましたか?」
「あ、そうだ」
『文由』は再び雑誌コーナーへ戻った。
「あら?」
仕合開始のゴングが今まさに鳴り響く。
「えー!『ゆい』ちゃんじゃん!何してんの?」
「たまたま。私が居ちゃ悪いの?」
「そ、そんな事は」
「『文由』さん、映画雑誌ありました?」
『まい』が雑誌コーナーの様子をわざとらしく伺いに来た。
「あら、かわいい彼女さんね?もしかしてこの前のお話の方?」
「う、うん。まぁね」
「映画見るって言ってたもんね。はーん、実現したんだ。よかったわね」
憮然とした顔で『芳文』に皮肉たっぷりで言い放つ。
「はじめまして、『まい』です」
「あら、あなたが『まい』さん?お話はちょいちょい伺っているわ。私は彼によく指名を受ける『ゆい』です。よろしくね」
「『文由』さん、指名って何のですか?」
『まい』は知ってるくせに白々しく『文由』に問う。
「い、いや、その、なんというか、ねぇ」
「ねぇ?って何よ。私に振らないできちんと自分で説明しなさいよ」
「ゆい」は強い語気で「芳文」に言い寄る。
「説明すると長くなるから後で話すよ」
「なによそれ。説明できないなら私からしようか?」
「ゆい」の怒号がコンビニ内にこだまする。
「そ、それも、どうかなぁ」
ミックスチームの容赦ない攻撃に堪え切れない『芳文』?『文由』?
「『文由』さん、よく分からないので説明して下さい!こんなんじゃ私だって納得できません!」
『まい』は声を荒立てて言った為、男っぽい声が多少漏れた。が、『文由』はそれどころでは無い。立ち見の観客も増えて来た。
「取り敢えず店から出よう」
おおっと、此処で両者リングアウト。三人はコンビニから出て行った。
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