第二話 酔いに任せて誤送信

「Q」を出た後、にやにやしながらトークを「まい」に送信する。しかし、それはさっきまで鼻の下を長くして一緒に居た「ゆい」に送信している事を「芳文」は知る由もない。

「こんばんは、「まい」ちゃん。いま何してるの?」

キンコーン、「ゆい」のスマホに「まい」宛てのメッセージが届いた。しかしこんな真夜中に「今働いてます」などと返信できる筈もない。

「こんばんは。「文由」さん。いまレンタルした映画観てました」

大嘘。「嘘も方便」とよく言ったものだ。

「へー、何の映画?」

<むむ、どう答えよっかなぁ>

「恋愛ものです」

「題名は?」

<う~ん、ベタなやつにしよっか>

「102回目のプロポーズです」

「あ~、主人公がトラックに轢かれそうになるやつね。俺も観たよ。恋愛系をよく観るの?」

「そうですね。映画評論家のLilecoさんには負けますけど」

「そりゃそうだよね。「まい」ちゃん、おもしろいなぁ。切り返しが」

<まぁ、お仕事上のスキルだけどね>

トークのラリーがいい感じになって来たと判断した「芳文」は、酒の勢いを借りて

ここぞとばかりに「まい」を映画に誘う展開に踏み切った。その時、ばつ悪く電話が掛かってきた。

<なんだよ~!今いい所なのに!!>

腐れ縁の友人、稲本からだった。

「毎度。これから呑みに行かねぇか?」

「俺はもう呑んで来たよ。今ちょっと立て込んでんだよ。またにしてくれ」

「何だそれ。家でも建ててんのか?」

「そんな訳ねえだろ。切るぜ」

「つれねえなぁ」

強引に誘いの電話を切った。「芳文」にとってこんなチャンスを逃す訳にはいかない。 しかし、電話に出たせいでスマホの画面が切り替わり、LIKEの接続が一旦切れてしまった。芳文はトークの相手を選択し直した。だが、誤ってキャバクラ嬢の「ゆい」を選択した事に気づいて居ない。

「『まい』ちゃん、じゃぁ今度映画でも行こうよ」

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