ゆいとまいのお仕置き道中

イノベーションはストレンジャーのお仕事

第一話 「ゆい」と「まい」

「ゆいちゃんおもろいわ~」

舞台はと或る繁華街にあるキャバクラ「Q」。今宵も暇と金の余った輩が『高級でない高級酒』を喰らってわんやわんやと騒いでいる。

「ゆいちゃんの好きなタイプは~?」

などと稚拙な質問が各所で繰り広げられている。

「そうだなぁ~、優しい人!」

稚拙な質問にはそれなりの答えが返ってくるものである。

『ゆい』はこのキャバクラでNo.1を争う売れっ子キャスト。然程美人という訳ではないがスタイルが良く、ドレス映えする体型。気さくなトークとその笑顔で今夜も次々と輩たちをばっさばっさと斬りまくる。

当然、「ゆい」目当ての輩が多いので指名も多く入る。『芳文』もその「ゆい」フリークの一人である。今夜も「ゆい」を指名して『高級ではない高級酒』でべろべろになっている。しかし「芳文」はそこそこ真面目で、礼儀を弁えている方である。「ゆい」もその事を感じ取っており、他の輩と一線を引いているのも事実である。

「ゆいちゃん、ちょっと相談に乗ってくれないかな?」

「なに、どんな事?T大学の試験問題以外は大抵答えられるよ!」

まずまずの切り返し。

「あのさぁ、LIKEで知り合った『まい』ちゃんって娘がいるんだけど」

「うんうん」

「親しくなりたいなぁと思ってるんだ」

「そんで?」

「ゆい」は冷静な顔で平然と受け答えている。が、「ゆい」は内心「やばっ!まさか」と思っている。実は「まい」という名はSNSアプリであるLIKEの「ゆい」の裏アカウント名で、「ゆい」は「まい」という名前で『文由』と言う相手とLIKEで最近やり取りしていた。恐らく『文由』なる人間は『芳文』の事なんだろうと悟った。

「掴みはどういう感じがいいんだろ?」

「うーん、そうだなぁ。やっぱさもさもだと引くよね~。軽い感じがいいんじゃないかな?その「まい」って娘と知り合ってどのくらい経つの?」

「最近だよ。何か話の展開が「ゆい」ちゃんと似てるんだよね~」

<げ!やっぱり私の使ってる裏垢の話だ!ま、そりゃそうだわな。「まい」は私なんだから>

まさか、ここで自分の口説かれ方を自分で言うなんて事は思いもしていない。

「ふ~ん。じゃあまずはお近づきなれるようにトークのラリーを続けて実際に会えるようにしないとね」

<あれ、アドバイスこれでいいの?ま、無難な口説かれ方を教えておこうかな>

「そうだね。俺頑張るよ」

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