1-36.36話「忍びよる巨岩戦隊」

 この回からOPのテロップが一部変更。プロデューサーが永井昌嗣→宮田知行、チーフ・ディレクターが落合正宗→岡崎邦彦に。また、制作担当からタツノコ側の横尾潔が外れ、由井正俊単独になる。『ジ・アニメ』1980年6月号の座談会でも、岡崎邦彦は「シナリオの段階から全部見ていけるのは36話くらい」だと説明していたので、このタイミングでの変更となったと思われる。

 そして、今回登場するオカモト竜馬は、満を持して山本優が追加したキャラクターである。それでは見ていこう。


36話「忍びよる巨岩戦隊」 1980年6月8日


 脚本     :山本優

 演出     :岡崎邦彦、秋山勝仁

 『アニメージュ』vol.24(80年6月号)では小浦英年

 作画監督   :松井栄


あらすじ


 ヴィクトールタウン近くにロバに乗った和服、日本刀の男がやってきた。マドクターが洞窟で作業をしているのを見つけると情報収集のために潜入する。ここはサイマドック(32話準拠)が指揮を執る秘密工場で、仕事が終わり次第作業員の捕虜は皆殺しにすることが決まっていた。潜入した男は謎の物体を堂々とスケッチし、声をかけた見張りのマドクター兵を峰打ちにしてお持ち帰り。彼が向かったのはサントーレだった。

 その頃サントーレでは、アンノンジーが避難民にタウン会議の結果が不調に終わったこと、花巻博士が仲間に加わったことを報告していた。そこにマドクター兵を持った謎の男が現れる。最初は誰か分からなかったダイゴだが、呼びかけられてようやく思い出す。カーペ・ヴィレッジ出身の幼なじみ、オカモト竜馬だったのだ。再会に盛り上がる二人。坂本竜馬の末裔を自称する竜馬は、サントーレの軍師になるためやってきたと言い、皆はずっこける。だが、竜馬は自分がサントーレの裏から侵入できたことを指摘し、警備を固めるよう早速進言する。

 毒魔殿では闘獣士カメルンドと岩で偽装した巨岩戦車が完成したことをバラスが報告し、毒魔大帝統は「巨岩の張り子を木馬に見立てサントーレの裏を攻めるがよい」とサイマドックに命じる。

 竜馬とヴィクトールタウンを見ていたダイゴは、竜馬が各地のタウンを巡って見聞した話に聞き入っていた。各地のタウン中枢にマドクターが入り込んでおり、世界征服を防げるのはサントーレしかないと判断してやってきたという竜馬にダイゴは固く握手を交わす。そこにレッド・ノーズが割り込んできた。今夜サントーレに危機迫るとの予言が出たというのだ。それに呼応するようにタウンの明かりが消えていく。

 竜馬のスケッチを見たダイゴはすぐ出撃しようとするが、竜馬は「後は天命を待つのみ」と制する。メカコン隊員はサントーレの周囲で待ち伏せ、竜馬はレッド・ノーズと共に洞窟に座っていた。予言どおり巨岩戦車は進撃し、待ち構えていたメカコンも押され始める。

 ピーチィの救援要請を受けて出撃したゴーディアンはガービンのフットミサイルで巨岩戦車の偽装をはがす。サイマドックが出撃させたカメルンドに攻撃されながらも三体を合体させたゴーディアンは、ミサイルで足を貫かれるなど苦戦するが、シャインシェルドをカメルンドの口に咥えさせ、ブリザード・アタックを甲羅のミサイル発射口から貫通させて巨岩戦車を巻き添えにし、白光剣で止めを刺した。

 勝利を喜ぶサントーレ隊の人々の中で、独りごちる竜馬。

「戦わずして勝利の喜びはないぜよ」

 こうしてサントーレに強力な助っ人がまた加入した。


解 説


 岡崎邦彦と連名演出の秋山勝仁はこれが演出デビュー作。当時グリーン・ボックス所属で、後半のローテーションを支える一人になった。その後様々な作品で監督を務めている。

 冒頭で竜馬が口ずさむのは「サーカスの歌」。オリジナルは1933年(昭和8年)松平晃のヒット曲だが、現在まで様々な歌手にカバーされている。

 今回のサイマドックの声優はたてかべ和也だと思われる。

 毒魔殿のシーン、毒魔大帝統が「太陽の東」と告げるがイントネーションがまんま「太陽のすかし」で視聴者は虚を突かれる。

 花巻博士は市民への顔見せにも出席せず、対話室で京太郎と話し込んでいたらしい。ラストシーンには顔が見える。緒方賢一の都合が付かなかったのだろうか。

 竜馬が捕まえたマドクター兵の処遇が語られてないのが気になる。シナリオにはあったのだろうか。また、新月という設定だが、ウカペは新月にカウントされないらしい。

 今回は松井栄作監回なので、作画は安定せず。ギャグシーン多めなので多少崩れても見ていられるが、初登場の竜馬は以降も「正しい顔が分からない」と風評被害を被ってしまう。他にも再合体シーンで空のままガービンを閉じたりとミス多し。

 今回はサントーレ砦至近での戦闘ということもあり、女子部隊が砦に設置されたドーム状の砲座に座っている。また、ゴーディアンの出撃もバンクのカートではなく、サントーレの顔の目部分から飛び出すという変則的なものになっている。

 今回フットミサイルの連射シーンがあり、片足に4発まで内蔵していることが確認できる。

 本来デリンガーの技であるブリザードアタックを今回はガービンのまま披露。31話に続いてマグナムバンチ無しで放っている。デリンガーより炎っぽいのも特徴。

 35話から必殺白光剣を披露する際、背中から剣を取り出すポーズが追加されているが、 『冒険王』80年5月号の図解によれば白光剣のパーツ射出口は肘部分のはず。どうなっているのだろう。

 サイマドック、カメルンドをメカルンドと言い間違える。

 サオリにデレデレの竜馬に対抗してか、バリーもサオリの肩に手を置いて親密さをアピール。

 今回の巨岩戦車の設定画は「スーパーロボットマテリアル」等に掲載されているが、髑髏マークの付いた工事車両の設定画は載っていないのが残念。

 ED、前回の「チビヒケ博士」の代わりに「オカモト竜馬 古谷徹」が追加。


 追記


  今回山本優のシナリオを入手したため、本編との違いについて解説したい。

 まず大きな相違は、冒頭の「サーカスの歌」を口ずさみながら登場する竜馬のシーンがないこと。絵コンテ以降の追加だったのだろうか。また、闘獣士カメルンドの名前は「カメルンバ」だった。

 シナリオでは竜馬がサントーレに連れてきたマドクター兵はスケッチを咎められた兵ではなく、サントーレの裏手から忍び込もうとしていた兵だった。

 ダイゴと竜馬の再会シーンでは、サオリに照れる竜馬のシーンがない。また、竜馬がカーペ・ヴィレッジ壊滅を語るシーンで神父に育てられたことに触れている。

 Bパートにあるダイゴと竜馬、レッド・ノーズ(シナリオではレッドノース表記)の会話はシナリオ前半にある。他にも前半はシーンがかなり入れ替えられている。

 マドクターの巨岩戦車、シナリオでは4体あり、四軍でサントーレに進軍する予定だった。また、この作戦は『毒魔黙示録第8章の1』とシナリオに書かれていたが、本編では使われなかった。

 竜馬の作戦、シナリオではメカコンの主力は奇襲に備え外で待ち伏せ、メカコンが優勢になるまで基地を開かせないというものだった。

 シナリオでは対話室で京太郎と話す花巻博士のシーンがある。ここで京太郎はプロジェクトXの真実についても語ったらしい。

父の声「花村(原文ママ)博士……私はあなたとこうしてお会い出来て百万の味方を得た思いです。だが、人々の動揺をいたずらにかきたててはならない……あなたの胸にそっと……」

ヒゲチビ(原文ママ)「心得えた。この上はあなたの手とも足ともなりますぞ」

緒方さんがアフレコに参加できたらこのシーンはあったのだろうか。もったいない。

 そしてこのシナリオ最大の相違が、アレン・ダレンのイベントがあったことである。本編でもダルフの側にいるシーンが1カットあるが、シナリオではおびえるアレンが『ゴーディアンの側に行きたい』と立てこもっていたサントーレの扉を開けようとして竜馬に制されるシーンがあった。戦闘終了後、アレンはしばらく食料班に回るようバリーに命じられる。竜馬はアレンの心情をおもんぱかった。

たたかいには向くやつと向かない奴がいる。許してやっちゃれダイゴ。人はときどき恐怖でみさかいのないことする時がある」

ラストのナレーションもシナリオではこのイベントを受けての物だった。

「斗いの恐ろしさは強怖(恐怖の誤り?)という大きなかたまりとなって人の心をおしつぶしてしまう。銃をもつものにも持たぬものにも……。今、サントーレの人々が斗っているのは、マドクターの銃だけではなかった」


今回の名言


 「生きるか死ぬかは神様だけが知っちょる」(竜馬)


 「静かなること宇宙の闇の如く、時待ちて動かざる事岩の如く」

 「未明を期して地獄の炎となって怒り狂え」(毒魔大帝統)


こぼれ話


 オカモト(岡本)竜馬は山本優がジェロニモ16世と共に追加したキャラで、(『アニメージュ』vol.23(1980年5月号)の特集で早くも取り上げられている。キャラ設定画もここで公開されており、ダイゴに世界的視野を教えるために登場させたと山本優は語っている。「風貌、人柄、すべてダイゴよりひとまわり大きいかれは、ダイゴとどうかかわるか、ぼく自身、楽しみなんです」

 この特集ではダイゴを作るためのキーキャラとして竜馬、ジェロニモ16世、クリント、ゲン爺さん、サオリ、大滝京太郎、トロス・クルスが挙げられている。


 また、竜馬の声優が古谷徹に決まるまでにはかなり苦労したようだ。『ジ・アニメ』Vol.7(1980年6月号)のスタッフ座談会では、岡崎CDが「あれは声優さんがうまいと、かなりいい役になるんだがなあ……」と悩んでおり、宮田Pが「土佐弁を喋ることだけじゃなくて、芝居の上でも、表面的にはトボケた感じだけど、裏にピリッとした何かがある難しい役どころだからねえ……」と説明している。古谷徹は土佐弁とは縁がないと思われるので、どうやって習得したかは気になるところである。


 『ジ・アニメ』Vol.8(1980年7月号)では、放送予定欄の質問コーナーで竜馬の生い立ちについて山本優が回答している。竜馬はカーペ・ヴィレッジの修道院で育てられた孤児だが、中学生になった頃に旅に出てしまったのだ。ダイゴとはそれ以来の再会ということで、ダイゴが戸惑ったのも無理はない。

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