生臭い白(上)

「この話は、自分が心臓の音とズレてしまっていると思ってしまったのが始まりの物語。主人公になりさがった可哀想な少女の作り上げた幻覚に過ぎないけれど。」



あの子の大きな口に見入って、何も聞こえなかった。ただ、私の体が獣に貪り食われ無くなっていく振動を感じていた。

「ああ、そうか。」とあの子の手に納得し、左手の甲の皮膚に爪を立て、皮と骨の間を爪で少し擦った。

いつものように、みんなの左手の甲を指で押し摘んで浮き出るしわとよった皮をミテイタ。すると、だんだん顔の毛穴から熱いドロドロとした白い液体が溢れ出てきた。焦って急いでトイレにこもり悩んだ。ふと心臓が鎖骨の間まで上がって来ていることに気が付いた。私は、ほっとし確信した。トイレから出て、曇って薄汚れた鏡で自分の顔を見ると、白い液体は体の中に戻っていた。


身長は伸びなかったが、変化があったと言えば、元々心臓があった場所にやけに重たい石がある事だ。走れば中で揺れて、ごつごつ転がり落ち着かない。どうにかならないかなあ。あ、いっそ「埋めてしまえばいいんだ」そう思った時、隣の席のその子が、私の口の中に、鉄パイプのような物を力ずくで刺しこみながら淡々と言った。少し驚いたが、その子が白い手で押し込む様子をミテイタ。

家に着き、トイレのドアを何重にも鎖で縛りこもった。確実に心臓は上に押し出されている。鎖骨の間辺にいた心臓は、喉仏の下辺りまできていた。完全に喉にすっぽりとはまって、喉をせき止めていた。帰り道、息が泡ぶくのようだったのはそのせいだろう。不思議におもったが、もう1つの事に気づいた。石が元々心臓があった場所を埋め尽くしていた。私は「やっぱり埋めなければならないことだったんだ。」と思い、また毛穴から白い液体が溢れそうになった。でも大丈夫、心臓の隙間が埋まっているから。私は決意し、あの時より明確に確信した。


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