竜虎相博つ

 琴、三線の妖がやられたのを知って、鼓の妖は逃げ出そうとしていた。

 鼓の能力はあの二体に命令を下せる権限と、あの二体の下へと人間を送り込めるだけで、始末は二体がしてくれるはずだった。

 だのに揃いも揃って――

 一方は盲目の男と小さい女。

 もう一方は力だけに見える男と鼓の中で唯一の手練れと見ていた女の剣士。

 考えられる最悪の展開でも、琴だけやられる程度だったのに。まさか二体ともだなんて。

 逃げねば、逃げねば。ずっと遠くへ。あの方々の下へ。

 力を得るのだ。もっともっと、強い力を得るのだ。強い部下を得るのだ。そうして強くなって、より多くの人間の臓物を喰らうのだ。

 妖になって初めて、弱き者を虐げる快感。強い言葉を操る人間を簡単に殺せる爽快感。そしてそれらを喰らう満足感を知った。

 もっともっと殺したい、喰らいたい。まだ足りぬ、足りぬのだ。人の頃では味わえなかった喜びで以って、虐げられてきた過去に復讐する。

 そのためにはもっと、もっと、力が――

 鼓の妖は急速に速度を殺して後ろに跳ぶ。そのまま曲がり角を曲がった先にある窓から飛び降りるつもりだったが、危うく串刺しにされるところだった。

 代わりに脇に抱えていた鼓が斬られた程度で済んだ。が、同時に詰んでしまった。

「申し訳ありません、鬼道様。のがしてしまいました」

「仕方ありません。私が無理に斬り込んでくれと頼んでしまいましたので。少し調子も早かったですね。聴覚だけが取り柄だったのですが、申し訳ありません綴喜殿」

「い、いえ! 私が急いてしまったのです! 鬼道様のせいではございません!」

 マズい。この二人はマズい。

 琴が相手をした二人は怪我をしていた。膂力の勝負に持ち込めればまだ勝ち目はあった。

 だがこの二人は三線相手にほとんど傷を負っておらず、体力を消耗しただけだ。

 何より、盲目の男はもはや盲目であることなど関係ない体捌きの持ち主な上、腰の刀から感じるただならぬ妖気。そんな化け物を相手に、妖術を使うための鼓もなしでどうしろと言うのだ。

 殺される。十中八九、間違いなく。殺される――

「ですが仕留め損ねてよかったかもしれません。そこの妖殿。私達が何者かはすでにご存じかと思われます。あなた方の本拠地と幹部の人数、妖刀の名と能力。知っている範囲で構わないので、教えていただけないでしょうか。もし教えて頂ければ、それなりの処遇をこちらも考慮させて頂きます。いかがでしょう」

 仏のような微笑から出てくる甘い誘惑は、かつて自分を斬った妖刀の妖気とはまた違った形で誘って来る。

 命が助かる。今の自分にとってどれだけ効能のある薬か、彼はわかっているようだった。

 さらに言えば、彼には嘘偽りの類が一切通じない気がする。

 ずっと目を瞑っていることと、仏の微笑とが重なって、神仏的な存在に感じたのかもしれない。たった今揺れ動いている心も、これからつくかもしれない嘘偽りも、そうしようとしてることも、すべて盲目に見透かされている気がして仕方なかった。

 ここは正直に話して、保護してもらう方が自分のためか。己の保身のためならば、あのような狂った連中の組織あつまりなど――

「狂った連中の、なんだ?」

 振り返った妖の胸に、妖しき刃が突き刺さる。

 妖はそのままうつ伏せに倒れ伏して、突き刺された胸からまだ赤みを残した黒い血を流して動かなかった。即死、と綴喜は見たが盲目の彼はどう思うか。

 綴喜は彼の方を振り返ろうとして、やめた。

 止められた。背後から彼の手がそっと背中を触って、振り返ってはいけないよと忠告してくれた。盲目である彼もまた、自分と同じく目の前に現れた男の異質さに気付いているらしいと結論づけて、彼の忠告を素直に受け入れる。

 目の前に現れた男は髪も髭も羽織っている異国の外套すらもボサボサで、お世辞にも綺麗に整っているとは言えなかった。

 が、濁り切った中に唯一輝ける眼光がひたすらに鋭く、気を緩めた一瞬でこちらを殺せそうなだけの威圧感を放っていて、威圧的で異質で――彼を端的に表現できる語彙が頭の中にない。

 とにかく綴喜の本能が、この男は危険だと警報を鳴らし続けていた。それだけ目の前の男から得体の知れない、今までに出会ったことのない雰囲気を感じられる。

「まったく、とんだ大損だ。優秀な妖を回収して回るだけの簡単な役だったはずなのだが、来てみればすでに回収しようとしていた妖は、相まみえるは長年の宿敵にして怨敵たる壊刀団。とんだ損な役回り。そして俺では役不足。何故この俺が直々に、雑兵相手に手を下さねばならぬ」

 傲慢に過ぎる発言も当然とさえ思えた。それだけの力を奴と、奴の持つ妖刀から感じる。

 奴にはそれだけの力があると――力を得たのだと、肌を通じて頭が理解していた。

 しかし脳内を駆け巡る思考回路とは裏腹に、脳から送られる電気信号を受けた体は動くのが遅い。

 奴が振るう妖刀が目の前に迫り来ていることに気付いていても、体は対応が追い付かず、自身が死ぬ現実を直視したくないのだろう目蓋が視界を閉ざすことしかできず、目蓋の裏で妖刀に斬られて死ぬか、今まで戦って来た妖の姿を想像するばかりだった。

 だがどちらも起こらない。そもそも妖刀は体に触れておらず、目の前で止められていた。

 同時、綴喜は自分を抱き寄せて護っている腕の存在に気付く。見上げると、いつも見る仏の微笑がずっと近くで浮かんでいた。

「私も盲目の身、そして彼女もまだ若い。あなたも相当な使い手の様子。しかしあなたは目が見えて、それなりの場数も踏んでいるでしょうに、人を見定めもせず簡単に見切りをつけて、役不足だなどと。失礼なお人だ」

 妖気をまとった刀同士が火花を散らして弾け、はずみで互いに後ろに下がる。

 互いに傷はなく、妖刀による支配は受けていないし与えられてもいない。今の一撃で少女の首は落とせたはずだと怪訝そうに眉根を顰める男に対して、鬼道は仏の微笑を湛え続ける。

 だが今のは危なかったと、遅れて臆した彼の心臓が早鐘を打っていることに、彼の腕の中で気付いた綴喜は奴には悟らせまいと口を結ぶ。

 自分の命が今危機にあったことで自身も臆し、彼よりも小さな心臓が早鐘を打っていたが、それよりも鬼道の実力が奴自身と互角に近いのだと、奴に思わせたく我慢した。

 成功しているのか、奴は今の剣撃を弾かれたことを未だ訝しんでいる。

「貴様本当に盲目か? 随分と芸の凝った――器用貧乏という奴か。よくあの一瞬で入り込めたものだ。しかも自身と小娘を傷付けず、引く際にはあわよくば俺を斬らんと弾いて来た」

「お褒めの言葉どうも。団員からはよく、芸達者だと言われたものです」

「団員? 壊刀団の連中か」

 と奴は鼻で笑ってから言い放った。

「芸達者とは笑わせる。一体どの立場がそう言わす。貴様らの中に一人でも達人がいたのか? 俺は今までに五〇人近く貴様ら団員を斬り殺したが、一人として達人などいなかったぞ? どれこれも、命を無駄に捨てるばかりの無能ばかりよ」

 初めて見た。

 少なくとも、綴喜は初めて見る。

 盲目の鬼道が目蓋を開けた顔。目蓋の裏の、光を映さぬ真白の眼球。そして、真一文字に結ばれた一切の微笑を湛えない鬼道哀楽の怒りの表情。

 それら初めて見る者を一挙に見たせいか、綴喜は言葉も出せぬままに、見入るものではないだろうに見入る。

 目を開けた顔を見て改めて、女性も羨む整った顔立ちをしていると見入る。

 乱れる息遣いからして怒っているはずなのにどこか儚げで、とても静か。

 自分を放してくれた腕の力も優しくかったが、その内側で静かに燃える怒りの情炎を綴喜は彼の息から察し、口を挟まなかった。

「綴喜殿、下がっていてください。この人ばかりは許すわけにはいきませぬ。命を賭してあなたと戦った者達を侮辱した罪、人々を苦しめる罪と合わせ、償わせましょうか」

「俺に、罪を償わせる? やれるものなら、やってみろ」

 衝突する斬撃。高々と怒りの声音で以て吠える鋼の咆哮。

 初めとは比べ物にならない覇気と妖力が衝突し、互いの刃が擦れる度に閃光と化した火花が散る。左右の襖が吹き飛んで部屋を晒し、綴喜の軽い体も飛ばされて尻餅をついた。

 刀を振るだけで走る風圧、それに乗って弾ける妖気。幾度となく火花を散らしてぶつかり合う剣戟が、相手の命を斬り殺そうとしては阻まれて、返したと思えば防がれる。

 使い手の精神を蝕み、支配する妖刀を逆に支配し使いこなす双方の戦いは互いに譲らず、幾度の交錯を繰り返しながらも決定打どころか掠りすらせず、互いに相手の剣を受けて弾かれたときにも、傷の一つもついていなかった。

 凄まじい剣撃の応酬。

 盲目ながらに無傷の鬼道も無論凄いが、敵も相当の手練れらしい。

 綴喜も剣の腕に多少の覚えがあったものの、鬼道も敵も遥か逸脱した領域にいて、加勢しようと思ったことさえおこがましく感じてしまう。

 飛び込んだ瞬間、自分など両断されて終いだ。その光景を予見してしまったが故に、綴喜は飛び出せなかった。その判断が正しいというのは、なんと悔しい皮肉だろうか。

「不随の身でここまでやるとはな。その剣、独学か」

「生憎と盲目なもので、誰も教えてくださらなかったものですから。旅の道中、様々な剣術道場にて剣を聞いて盗んできたのですよ。お陰で流派も何もない我流ですがね」

 上から敵の刀を押さえ付ける。肩を敵の胸座に押し付ける形でどんどん押し、壁まで押し込むと刀を返して、防ごうとした敵の妖刀を踏み付けながら敵の喉を貫いた。

 やった、と綴喜は声を押し殺しながら喜ぶ。

 だが鬼道は即座跳び退いて、綴喜の側まで戻って来る。見ると、鬼道の意匠の胸元が真一文字に斬られていた。肌までは届いていなかったが、あのままでは致命傷だった。

 背後からでは、まるで何が起こったのかわからない。鬼道も理解し切れてはいなかった。咄嗟に気配を感じて反射的に跳び退いただけだ。助かったのは本当に偶然だった。

「ほぉ、よく躱したものだ。褒めてやる。今の不意打ちを躱したのは、おまえで二人目だ」

「なんとも、奇妙な能力をお持ちのようで。この機会をと狙っていたわけですか」

 男は突如、くく、と笑ってみせる。最初こそ静かだったが、徐々に気が狂ったかのように高笑いし始めた。まるでその四文字が、彼にとっての起動暗号だったかのように。

「虎視眈々とは的を得た表現だな……妖刀の名は、酔虎すいこ。能力は単純に言えば死からの蘇生。持ち主の体を囮に敵をおびき寄せ、油断したところに飛び掛かって喰らいつく。これが妖刀・酔虎の限定奥義、初手“遺留皮いりゅうひ”。虎は死んで皮を残すが、人が残せるのは功績のみなんて意味のことわざを、俺は裏切る。俺は死んで敵を殺す。功績と同時に敵の皮をも残す。それが俺の能力だ!」

 死んでも蘇生する不死身の能力。人の命を冒涜するにしたって、これ以上ないくらい悲惨な能力だ。

 自分が死ぬ瞬間だって、別に心地いいわけではあるまい。死の苦しみを何度も味わうなど誰だって嫌なはずだ。だのにこの男は、それこそ陶酔したかのように語ってみせる。

 彼の場合、妖刀に取り憑かれているというよりは酔わされていると言った方がいいのかもしれない。彼の常識と世間のそれとで、大きな歪みが生じているように見られる。彼の高笑いすら、虎になったが故の虚勢に聞こえる。

 少なくとも、綴喜にはそう聞こえていた。だが鬼道もまたそう聞こえたのだなと、綴喜は彼が漏らした独り言から察した。

 興奮しているらしい敵には、まったく聞こえていない――まるで張子の虎のようだ、とは。

「虎は千里住って千里還ると言う。虎にはそれだけの体力があるという例えだが、俺にもそれだけの体力と生命力がある。そして俺が斬った妖にもまた、千里を駆けるだけの力を与える」

「――! 綴喜殿、離れられよ!」

 先ほどの攻防で襖が飛んでいたことに、まさか助けられるとは。わざわざ襖を開けるような手間をかけていては、今の一撃を躱せなかった。

 それでも綴喜を庇いながらとなると、無傷とはいかなかったが。

「鬼道様!」

 綴喜の声色と体を走る痛みから、相当に深い傷だと判断する。

 刃物で斬られたよりは、獣の爪で抉られたような感覚。先ほどの妖刀使いの言う通りならば、先ほど奴が斬り捨てた妖が、より強力な力を得て立ち上がったのだろう。

 不幸中の幸いというべきか、庇う際に自然と利き腕とは逆の左腕を差し出す形となったので、万全とは言えないものの、刀は触れる。

 ただしこの状況で不死身の妖刀使いまで相手にするとなると、状況は酷く危うい。

 妖の方に気を向けていれば、より早く対処できたものを。敵もそうさせまいとこちらを挑発したのだろう。

 やられた。盲目とはいえ、目の前で虎を野に放つような真似を見過ごすとは。

 妖からはもう、先ほどの怯え切った震え声など聞こえもしない。

 呻き、唸る声は猛獣――いや、化け物のそれだ。本物の虎と対峙していても、ここまでの気迫を感じないだろう。

 と、鬼道は己を鼓舞するために強く胸を叩いた。

 体から血が流れ出ていくごとに、事態が悪くなっているように感じてしまったからだ。

 血と共に己の生気まで抜け出ているかのようだ。出血が酷いようで、意識がうまく働かない。盲目の分よく働く耳も、耳鳴りを起こし始めた。

 それでも弱気になるなと、なってはいけないと自分に言い聞かせる。

「どんな弱い奴も、虎になってしまえばこの通りだ。例え偽りの強さでも虚勢でも、一時的にでも他を圧倒できるだけの力が与えられるのならそれはもう獣。我が刀は、そうして殺してきた者達を何人と喰らって来た。特におまえのような、気位の無駄に高い剣客の肉をな!」

 獣が吠える。突進して来た。ここは綴喜だけでも逃がそうとして――

「鬼道様に近寄るな獣風情が!」

 先に、綴喜が動いていた。

 らしくない乱暴な言葉を使い、自分を庇うために腕を伸ばして空振りした鬼道と彼に向かって走る獣との間に飛び込んで、眉間に刀剣を突き立てる。

 妖刀に与えられた生命力故か、獣は眉間を貫かれながらも暴れて抵抗する。

 が、それこそ敵の策略だった。

 本当の狙いは鬼道ではない。鬼道を言葉で挑発し、追い詰め、傷付きもすれば誰が奮闘するのかさえも見抜いていた虎の目は、綴喜を手駒にする機会をそれこそ、虎視眈々と狙っていたのだと気付いたときにはすでに、彼は鬼道の側を横切っていた。

「おまえも酔え。そうすればその似合わぬ言葉遣いも、似あう獣となろう」

(間に合え――!)

『間に合います。だって、私のご主人様ですから!』

 盲目故に見えはしない。だがおそらく驚いていることだろう。綴喜も敵も、獣と化した妖も。

 ただ一人、鬼道だけは安堵した様子で元の微笑を取り戻す。

「文字通り間一髪、と言ったところですかね。お陰で助かりました」

『だけど、ごめんなさい……また、私』

「謝ることなどありません。むしろ、よく応えてくれました」

 怪物は悲鳴を上げながら再び倒れ伏して、真っ黒に染まって液体となり、崩れ落ちる。

 怪物の体から変わったものだと思うと汚く感じて下がった綴喜は、どこか嗅いだことのある匂いがすることに気付いて嗅ぐってみる。

「墨、汁……?」

「それが貴様の刀か」

画竜がりょうさんと申します。とある刀匠より、大和撫子の黒髪のようだと褒められた刀身が自慢の、私の愛刀です」

 鬼道の刀が妖刀であることは、団員ならば周囲の事実。

 だが能力を使用している場面を見るのは初めてで、名前を聞くのも初めて。

 刀匠が称えた美人の髪のような艶やかな黒の刀身が美しく、妖艶と言った意味合いの雰囲気を醸し出していて、今までに綴喜が遭遇した妖刀とは違うように見える。

 それこそ、今目の前で猛威を振るう妖刀とは、まるで違う。

「竜と虎が相まみえたわけか……くっくっく、さてさてその名は伊達か酔狂か」

「伊達も酔狂もあなたの方では? 酔って狂って、自分が大きく見える夢を見ているだけでしょう。縁側で寝るのは気持ちいいですから、そんな夢だって見ますよね。

「゛あ?」

 肩で風を切って跳び掛かり、空を裂く刀で首を刎ねようと振り抜く。

 真横に立っていた柱が両断され、隣の部屋まで斬撃が届いて壁を抉り斬った。

 が、血を吐いたのは男の片目だった。力の限り振り斬った一撃を躱した鬼道の刀が、男の片目を下から斬り裂いて、先の妖の体のように墨汁に変えて弾けさせたのだった。

 先ほどまで、高い気位が化けたくらいに傲慢に満ち満ちた言動で振舞っていた男が情けないくらいに痛みを訴える悲鳴で呻き、片目を押さえて後退する。

 人生で初めて受けた傷だと言わんばかりに、信じられないと己の体から滴る血を受け止めた手を震わせながら見つめて、徐々に呼吸を乱していく。

 その様は、汚い言葉を使ってもいいのなら、滑稽だとさえ綴喜も思った。

「あなたの妖刀が酔った虎を作り上げるなら、私の愛刀はその虎を猫に戻す。あなたの言葉を借りるなら、これが私の愛刀の限定奥義。名は、そうですね……“欠染かきぞめ”。とでもしておきましょうか。『画竜点睛を欠く』という言葉から生まれたこの力で、あなたの酔いを醒ましましょう」

「こ、の……こんのおぉぉっ!!!」

 次の瞬間、突如として大量の妖が奴の背後から現れた。

 奴自身、何がなんだか状況を理解できていない様子だが、奴の仲間か何かが窮地を知って時間稼ぎのために放ったのだろうことは、妖の群れの奥から聞こえてくる会話で想像できた。

「放せてめぇ! 俺を誰だと思ってる!」

「困りますよ、猛捕たけとり様。貴方様の役目は使える妖怪の回収。こんな意味もない戦闘で深手を負って、なんと言い訳するのです?」

「ふざけるな! この北庵治きたおうじ猛捕が言い訳などするなどと思っているのか! 放せ! 奴と決着を着ける!」

「決着はまたの機会に。すでに他の四天王は集結済み。あとは貴方様だけなのです。あまり我儘ばかり言われているとその口、塞がれてしまいますよ」

 それ以降、会話が遠のいていくのと妖の群れがうるさいのとで段々と聞こえなくなって、北庵治と叫んでいた男は連れていかれ、決着は先送りとなった。

 その後は篝、狛村と合流してこれら妖を退治。四人は無事、本部へと帰還。

 北庵治猛捕を始めとした四天王なる幹部を中心とした組織の存在が見え始めたことを報告すると、他の仲間からも次々と組織に関する情報が集まってくるようになった。

 鬼道との決着を望む北庵治の怨念か、それともただの偶然か。

 ともかく江戸初期から長きに渡って続いてきた妖刀と壊刀団の戦いは、二人の戦いからおよそ半年――一八六八年元日に、決着の時を迎えることとなったのだった。

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