買い物3
「俺は今日恐ろしいものを見た気がするんやけどそれは気のせいなんかな……」
「あー、現実と想像の区別はきちんとつけたほうがいいぞ。少なくとも俺はそう思うけどな。第一、肉体的・精神的にも修斗はほとんど傷ついていないじゃないか。その程度で弱音を吐くなよ」
思わず鼻で笑ってしまった。悠里はトイレに立ってこの場にはいない。それが修斗の思考が少しおかしくなってしまっている原因なのだろうか。
「おまたせ。それじゃ行こうか。そうだ、二人ともお昼は私に任せてくれない?」
悠里が昼食場所の提案をしようとしている。どんな店なのか楽しみだ。おしゃれにイタリアン? それともがっつり中華かあるいはラーメン屋。さて、どれだろうか。
「パスタ屋さんなんだけどね、値段も良心的で量も多く、さらにはおしゃれ。学生のためにあるようなお店なんだよ」
そんな店があるとは。俺もいろいろな飲食店に行っているけどそんなよさげな店を知らないなんて勉強不足だ。猛省しなければならない。
「気になるなあ。そこに行ってみよ」
修斗も先ほどとは打って変わって上機嫌になった。本当に調子のいいやつだ。見ていてもはっきりしすぎているほどだ。これは単純とでもいうべきなのだろうか。それとも別の言い方があるのか。あれ、今日はキャンプをするための小物を買いに来たはずなのになんで、こんなにその目的を忘れそうになるんだろう。
「満也君、いくよ。早くしないと置いて行っちゃうからね」
悠里が俺の手を引いてきた。引っ張る力が強いのか少し痛い。こんなこと昔もあった。確か、小学校に入学するかしないかの時だった。こんな風に引っ張られたり、引っ張ったりして遊んだな。懐かしい。もう戻れはしないあの頃に思いをはせて今を生きていく。
なんだこのポエムっぽいのは。文章にしたらおそらくこっぱずかしいことになるぞ。決めた、これは絶対に口には出さない。
「何を口に出さないのか?」
しまったこの部分だけ言葉に出ていたのか。不覚」
「いや、昔の恥ずかしいことを思い出しただけ」
悠里はそうなんだと言い理解してくれたようだ。助かった。これ以上深く聞かれたら答えるしか道がなくなるかもしれなかった。そうなったら、ひたすらに辛い。
「ここなんだけどね」
悠里が足を止めたのは The Pasta という名のまさしくパスタ屋以外の何物でもない店で
外見はずいぶんとおしゃれだ。壁にはレンガが張られている。
「これ見かけはずいぶんと高そうなんやけど、本当に安いん?」
「それは自分の目で見ればいいわ」
悠里はメニュー表を手に取り修斗に渡した。修斗はそれを開くと、これはうまそうだと言う。
これはいいと写真をみて判断しているようで、まだ値段は確認していない。そして次の瞬間、に修斗は自身の目を疑ったのだろうか。目をこすった。というか、それをするほどに安かったのか。
「これは安いぞ。見れば分かると思うで」
修斗は俺にメニュー表を渡した。悠里は笑っている。
「えーと、これは量も多そうだ。で、値段は……これは安いな」
「でしょ!」
悠里はそらみろと胸を張った。悠里の言う通り、確かに安い。どうしてこの値段でできるとは少し不思議だ。いや、不思議はないか。多売薄利という考え方もあるし、まあ、味も確かなら別に気にすることもないだろう。
「さ、今は珍しくすいているけど、すぐに混むと思うから」
中に入ると、それなりに広い。席もたくさんあるが、もう満席に近い。それで悠里はすいていると言った。それだけでこれが人気店だと分かる。これは期待ができそうだ。
君との契約 藤原 @mathematic
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