買い物2
「あ、これなんていいんじゃないのか?」
「そうね。これもいいよね」
俺が手に取ったのはカレーではなく、木のマグカップだ。悠里が持ったのは木彫りだが俺が持ったのとは形が少し違う。俺のより悠里のカップのほうが小さくかわいらしい。
「じゃあこれ買っていこうか。あんまり買いすぎてもダメだしね。そう考えると小物を買うとは言ってもあまり買うものはないんだな」
「そうなんだけどね、今回は買い物そのものを楽しむことも目的の一つなんじゃないかって私は思うんだ」
「せやなあ、でもそうすると荷物運びで来てもらった兄貴には少し悪いなあ」
「修斗の兄貴なら笑って許してくれるさ。一応、心の広い人ではあるんだから」
「一応ってつけるあたりにお兄さんのイメージが表れているわね」
別にウソを言っているわけでもないし、いいとは思う。悠里だって俺を咎めたいとかそうは思っていないはずだ。だって、笑っている。
「兄貴のことはそれくらいで勘弁してくんなまし」
「くんなましっていつの言葉だよ」
本当にいつ・誰が使った言葉なんだろう。後で少し調べてみよう。辞書に載っていたら中々にすごいけど。
「こうして笑って会話しているのはいつ以来かな。なんかすごい久しぶりな気がする」
本当に買い物も友達との会話も楽しいと思ったのは事件以来初めてかもしれない。そもそも楽しいって何だろう。俺にはまだわからないし、これからも理解できるとは思わない。悠里にも修斗にもましてやサタンにも聞けることではない。
「君は君のままいてくれたらいいんだよ。ね、満也君」
「俺のままか…… また難しいことを言うんだな悠里は」
「難しいことなんて言っていないよ。私は単に、君が動きたいように行動すればいいって言っているんだから。それは難しいかもしれない。でも矛盾はしないよ。だってさ、人間には足があり頭がある。動くためにあるものじゃないか。それがあっても行動しないというのは怠惰だよ」
悠里の言わんとしていることも何となくは分かるけど、俺のやろうとしていることは明らかに人の道に反する。それを知っても変わらないでいてくれるだろうか。
「ゴホン!」
咳払いが聞こえる。これは修斗のだ。ということは……!!
「いやあ、ごめんごめん。少しばかり考え事をしていてさ、気にするなよ」
「そうだよ、修斗君の考えているようなことはないと思うよ今はまだね」
「けっ! 俺はどうせ恋愛とは縁がないんや。もう恋愛をしている奴ら何て消えてしまえ!!」
これはひどく汚い叫びだ。俺もああはなりたくない。というか、そもそもコイツは何を勘違いしているというのか。俺と悠里がそんなに恋仲に見えたというのか。修斗の目はどうしてしまったのか。それとも彼女ができないのが悔しくて思考が暴走してしまっているのか。現因なんてわかるわけがないか。これは本人にもすごく聞きにくいことだしな。
「俺は絶対に認めへんからな……」
「はぁー、これ以上何か言ったら、地獄に落としてあげるから楽しみにしておいてね」
やばい、これは悠里の最後通告だ。これ以上何かを言ったら命の保証はない。
「わ、わかった。そんな物騒なことはせんといて」
修斗は悠里の気迫に負けたのか大人しく従ってくれた。これで地獄を見なくて済んだわけだ。よかったな修斗。
「これでやっと買い物に戻れるな。何分かしかたっていないのに凄く長い時間を過ごした気がするな」
実際、ほとんど悠里の気迫のせいでここまで長く感じたのだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます