買い物1
「君のお兄さんは本当に何者?」
「俺の兄貴はただの喫茶店のマスター兼投資家や」
「それを聞いたも、尚更普通の人には見えないよ……」
「大丈夫や、それが普通の反応だから。今はそんなこと気にしないで買い物を楽しもうや。兄貴のことよりもそっちのほうが大切や」
修斗はあきらめた様子で言ったが、俺もそう思う。
「さてと最初に行くのはあそこにするか」
俺が指さしたのはキャンプ用品がたくさん売っているように見える店だ。ここなら最初に行く店としては合格だろう。二人も今日中に買い物が終わればよいと考えていたのか、特に考えるそぶりも見せないで店に入った。
「見ため通りの店だな。ここならいろいろと買えそうだ」
「そうだね。こんなにたくさんあるとは思わなかったよ」
悠里も満足するような店のようだ。店先にはテントが売っている。値段は……うん、見なかったことにしておきたい。いや、これだけが高いと信じたいものだ。少なくとも高校生がおいそれと買うことができる代物ではない。
「まったくテントって高いよね。きっと修斗君のお兄さんなら買うことができるんだろうけど」
「まあ、あんな高級車買うくらいやで買えるやろうな」
乾いた笑いを見せた二人。どこかはかなげで目からは光が失せている。悠里がこんな顔をするとは思いもよらなかった。ここはどうやら精神衛生上きわめてよろしくないところであるようだ。ならば、速やかに退避するのが吉というものだろう。
「オホン、少し奥に行ってランタンとか当初の目的のものを見に行こうぜ」
「え、ええそうね。ここは危険よ。私たちをおかしくする場所」
「怖い場所やな」
俺たち三人はその場を退避した。別の場所にはシェラフが売っていたが、ここも見ることは避けたいが値段だけは確認しないわけにもいかないのでそこをちらりと見てみる。
「うん、俺たちには無理だな。無理しないで布団でもしこうか。そちらのほうがよっぽどいいな」
「値段も大体わかってはいたけどお店で見るともっと高く見えるよね」
「せやな。これについては前に話していた通りにことを進めよう」
ここも真剣に見ることはなく、過ぎ去り小物を見ることにした。
「これなんかおいしそうじゃないか」
俺が手に取ったのはレトルトのカレー。やはりキャンプと言えばこれだというものだと思っている。これを食べずしてどうするかというのが俺の持論だ。それが共通するかは俺の前にいる二人の反応を見れば分かる。
「まあ、確かに美味しいとは思うけどレトルトのカレーならスーパーに売っているのでもいいと思うんだけど……」
そっちだったか。多分この状況はあの何でもオミトオシと言っていそうなサタンでもわかるまい。修斗に至ってはそうだなと反応も薄い。どうにも感覚の共有は出来なかったようだ。なぜだと考えるのは無粋なのだろうか。
「君がいいなら別にいいんじゃないのかな。ただ、キャンプの日に食べるものはじっくりと決めようね。こういうのはみんなで納得しないと美味しく感じないだろうから」
確かにそれはそうだ。カレーのみならず、何かを押し付けるのもよくないということだな。そして俺たちはまた小物探しに戻った。この調子でいけば目的は今日中に果たすことができそうだ。
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