疲れる人

 次はどこまで複雑なことができるかだな。


「一面を森に」


 別に口に出さなくてもいいことは分かったが、俺だって男子だし少しくらいかっこいいモノに憧れを抱く。俗に言う中二病を引きずっている高校生ということになる。まあ、それはおそらく一般的ではないかとも思うが。


「これは疲労を少し感じるな。そういえば条件を聞いていなかった。サタン!」


 数秒でサタンは俺の目の前に現れた。


「用件はなんだ」


 今日は忙しくはないのか不機嫌ではなかった。


「俺がもらった力を行使するときに消耗するものを教えてほしい」


「消耗するものか。ふむ、それは自身で見つけるがいい。我が全て教えてはつまらぬではないか」


「なにかヒントのようなものでもくれないのか?」


「ヒント……厚かましい奴よ。厚顔無恥とはこのことをいうのだろうが、まあ良い。強大な力に代償がともわないはずがない。あとは自分で考えるが良い。ではまた会おう」


 サタンは消えた。これではなにを消耗させるのか、リスクは何かが分からないではないか。


「そっちの方が楽しいのかな」


 自分で考えること試行錯誤すること、確かにそれは力を理解するうえでもこの上なく良いこと。だが圧倒的に情報量が少ない。一つ一つ確かめていくしかないのか。


「燃えてきたな。さっさと終わらせて目的を叶えるか」


 その日は少しだけ力を試して終わった。正直なところ、リスクを恐れていては何もできないが、力が普通のものではなく悪魔からもらったものであることを考えると、下手に打つと命が何個あっても足りない可能性がある。そんなわけで少しずつ試していくしかない。

 とりあえず今日は疲労感が強い気がする。


「……寝るか」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「兄貴ー、今度キャンプに友達と行くことになったで車出してよ」


「OK!」


「くれぐれも怖がらせないようにしてな」


 ある閉店した喫茶店の店内に釘を刺す修斗がいた。


「分かっている」   


「いや、そんな格好で言われても説得力ゼロなんやけど……」


 修斗の兄は店内にもかかわらずサングラスをかけていた。その上角刈りだし筋肉量も多い。正直、ヤのつく人たちに見えなくもない。


「そうだ、車を新しくしたんだが見るか?」


「へぇー、見せてよ」


 修斗は兄に喫茶店の駐車場に連れて行かれた。そこにあったのは、黒いセダンだっだ。しかも、国内最大手自動車メーカーが国際戦略の一環として作った高級ブランドのだ。新車だけにピカピカだ。これなら五人は乗れるが修斗は乗り心地とは違う意味合いで乗りにくいと感じていた。


「一体、どこからこんなええ車を買う金が出てくるんやろ……」


「ほうこの車の良さが分かるか」


「そりゃ、どう見ても高級車! ってつらしてるんやから分かるやろ」


 呆れ顔の修斗に満更でもない様子の兄。二人は対極的だった。


「これいくら?」


「ユキチが沢山飛んでいった。昔からやりたったから現金をディーラーに持っていって払ったが、札の重さを知った。ジェラルミンケースを満杯にすることはできないくらいの金額ではあったけど、具体的な数字は未成年が触れていいものではない」


 キッパリと言い切った。しかし、ジェラルミンケースに入れることのできるほどの量だったということだ。


「考えるのが嫌になりそう…… 本当どっからこんなん買う金が出てくるんやろ」


「それはな、弟よ。俺は人気喫茶店経営者だからな、それで稼いでいるのさ」


「いーや、絶対株や。そっちの方が百バー儲かってるはず」


 鋭い目線を兄に向けた。


「そこらへんは想像に任せるが、やるとしても投資にはあまり深く突っ込みすぎるなよ。知らないうちにやると身の破滅と精神の崩壊を招くし、成功してもおかしくなりかねん」


「そんなん言われても俺はやらへんし、第一そんなことどうでもええから」


 修斗はそんな! と嘆く兄を横目に喫茶店を出て行った。


「疲れた……」


 極度の精神性疲労を感じながらも横にある自宅へと歩く。足取りはゆっくりとしていて、玄関を開けてもただ今と言わずに部屋に直行した。


「眠い」


 そのまま修斗はベッドに転がった。


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