第5話 太陽の味

「おはよう。」

「あぁ、おはよう。蒼志、本当にお弁当作らなくていいんだな?」

「うん。松本コウキと購買で焼きそばパン買うって約束したんだ。」

「焼きそばパンか!あぁ……なつかしいなぁ!そうかぁ。そういえば父さんの」

「お金ありがとう!行ってきます!」

「あ、あぁ、いってらっしゃ」


──バタン。


「い。」

 外で三人のにぎやかな声が聞こえた。父は振り向いて遺影を見た。最高の笑顔だ。父も笑顔を返した。




 昼休み、

「しろうさぎ!行こか!」

松本コウキと翔馬が誘いに来た。蒼志は途中のノートをパタンと閉じ、

「うん!」

と通学カバンから財布を出して立ち上がった。購買は隣の校舎の一階にあり、すでに人だかりができている。


「残ってるかな?」

 背伸びして人だかりの隙間から売れ残りを確認するが見えない。

「大丈夫や!お前も座って待っとけ。」

 階段に座っている松本コウキが珍しく落ち着き払ってどしっと座っているのでしぶしぶ翔馬の横にちょこんと座った。


 五分もしないうちに目の前の人だかりが消え、空っぽの台の上に


「本日売り切れ」


と書かれたメガホンが置かれた。


「よし。」

 二人が立ち上がった。慌てて蒼志も立ち上がり、空っぽの台の前に行った。


「母ちゃん。連れて来たで。」

──え?

松本コウキと購買のおばさんの顔を交互に見た。


「コウキ!今みんな売れてしまったとこや。あぁ翔馬、久しぶりやなぁ。大きなったなぁ。あんた制服似合うわぁ。またご飯食べにおいでや。」

 言いながら体格の良い翔馬の横に隠れるように立つ、色白でひょろっとした蒼志に目をやった。

「あ。はじめまして。高山そう」

「母ちゃん、こいつがしろうさ」

松本コウキが割って入る。間髪いれずに、

「あぁ!あんたが蒼志やな。いっぱい食べや。おばちゃん家食堂やってるから今度食べにおいで。美味しいもんぎょうさん」

「母ちゃん!それよりはよちょうだい。腹減って死にそうや。」

 この親子は人の話を最後まで聞かない。

 あっけにとられた蒼志を見て翔馬が

「いつものことやで。似た者親子やろ。」

と笑いながら言った。


「はいはい。これや。どっさりあるで。はよ持っていって仲良く食べ。」

 とパンやおにぎりがたくさん入った袋を台の下から出し、空っぽの台の上にどすんと置いた。

「それにしてもあんたら、チビとごっついのんと、ひょろっとした三人組……あれ、何三人組やったかな。昔流行った本があったやろ、えぇっと、なんやったか……」

「母ちゃんありがとう!おい蒼志、行くで。」

と松本コウキが蒼志の腕を引っ張り歩き出した。

「あ、あぁ。え!お金!払ってない!いくら?」



「ええんや。母ちゃんが入学祝いや言うてたわ。」



 ラップを開けると肉たっぷり野菜少なめの焼きそばがパンから溢れ出た。焼きそばをパンに挟むなんて……と思っていたが、これが合う。少し甘めのパンに焼きそばのソースが染み込んで口の中でぱぁっと広がる。この紅しょうががアクセントになっていくらでも食べられる。

 唐揚げおにぎりも最高に美味しい。にんにくと生姜をたっぷりきかせたジューシーな唐揚げはやみつきになる味だ。

 入学祝いの焼きそばパンと唐揚げおにぎりを口に詰め込んだ。


「コウキ、ありがとう。美味しいよ。」


「え……。あぁ。うん。またお前の父ちゃんと食べに来いよ。」


「うん。絶対行く。」

「おう。……おい!翔馬!お前唐揚げおにぎりばっかり食うな!梅干し食うとけ!」

「えぇー。おばちゃんの唐揚げめっちゃ好きやんねんもん……。」

「俺一個も食ってないねんぞ!」

「じゃあ俺が最後の一個もーらいっと。」

「おい!しろうさぎ!お前!!」


 コウキの母ちゃんのおにぎりは太陽のような味がした。

 今度父さんを連れて行こう。

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