ゼラニウム
「お前ってさ、いつも幸せそうだよな」
不意に、休み時間に隣の席の彼が言った。本当に突然だったから、私は目を丸くしてしまう。
「へ?」
「いや、だってさ。いつもニコニコしてんじゃん? なんか幸せそうにさ?」
そう言って彼は、机の上に広げた教科書をにらみつけた。あぁそうか。次の時間はテストがあるもんね。それなのに私が余裕そうにニコニコしてたから気になったのだろう。
“いつも幸せそう”
そう彼は言った。それはそうだ。私はいつも幸せだ。
「うん、幸せだもん。いつも」
「テストあるのにかー? ノーテンキな奴」
彼は頬杖をついて私をじっと見た。目が合って、私はニコリと笑みを返す。
でも、私だってテストがユーウツじゃないわけじゃない。幸せになるには、幸せになるべく絶対条件があるわけで。そしてそれは、私の場合。
「……なんかお前の笑い、移るんだよな」
「えー? そうかな?」
「そーだよ。なんか変な力あるだろ?」
「ないよー」
「いや、あるって」と言いながら、彼は白い歯を見せて笑った。それを見て、私はまた笑う。
私の場合は──彼が隣で笑ってくれること。
「そーいえばさ」
「うん?」
「もうすぐ席替えだな」
黒板に書かれた日付をぼんやりと眺めながら、彼は言った。
気付いていた。幸せな日々には終わりは来ること。隣の席になれたことがすごくすごくうれしくて、1ヶ月後が来なければいいと強く願った。でも、誰にでも同じように時は流れる。もうすぐ、彼が隣にいるのが当たり前じゃなくなってしまう。
「──さ」
淋しいね。言おうとして口をつぐんだ。そう思ってるのが私だけだったら、嫌だ。
「何か言った?」
「……ううん、何も」
そう言って私は笑った。今度のは、作り笑い。
「──なぁ」
「うん?」
「今度も近くだといいな」
彼は照れ臭そうに、目をそらした。
──あぁ。やっぱり私は幸せだ。
「……うん!」
自然に笑みがこぼれた。たぶん、今までで一番の笑顔で。
幸せ。
君が笑ってくれるから。
君が嬉しい言葉をくれるから。
君が傍にいてくれるから。
*ゼラニウムの花言葉:「君ありて幸福」
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