第23話



 

   二三、ドラフト会議

   

 ドラフト会議前日、義男はドラフトに関する情報誌を全て買い漁った。

 龍馬は、文句無しの一番人気の◎

 陸は、ほとんどの新聞、雑誌でも獲得微妙か、名前すら載ってない情報誌さえある。

 それも、そのはずである。

 実績がほとんど無く印象やインパクトだけが一人歩きして評価する記者が少な過ぎるからだ。

「小百合、陸は四国ゴージャスに本当に入れるかな?」

「大丈夫と思うよ…でも、菊池スカウトて何となく人が良すぎて言うか、球団に押しが弱そうな感じ…大丈夫かしら…」

 龍馬と陸は、夕陽が傾くグランドで陸は、

「いよいよ明日だな!龍馬は何処の球団に行きたいの?」

「俺は地元のダイエーホークスかな?友人や家族も近いから直ぐに来れるし。

 行きたくないのは、四国ゴージャスかな?お金も無いし、一軍に上がった若手は、球団営業の手伝いがあるみたいだよ。」

「何それ…」

「陸も何球団か指名挨拶に来てるそうじゃないか。おめでとう。」

「俺は一球団だけ…それでも指名されるかも分からない、四国ゴージャス…」

 

 龍馬、「ごめん…」

 

 ドラフト会議当日

 二〇〇二年一一月一九日、グランドプリンスホテル新高輪で開催されるドラフト会議に四国ゴージャスから荒川球団社長、三嶋監督、そして菊池スカウト本部長がテーブルに着いた。

 三嶋監督は、

「もちろん、一位は福田龍馬ですよね。」

 荒川球団社長は、

「競合するが仕方ない!人気、実力は福田しかいない!決まりだ。」

 荒川球団社長の一言で、ほとんどが決まる。

 

 大明学園には、体育館を報道陣が集まり慌ただしくなり、壇上に迫田校長と青柳監督そして龍馬がテーブルに着いた。

 陸と牟田は指名が微妙なため、教室で待機していた。

「いよいよね!あの高橋君がプロに指名されるかも知れないなんて!」

「俺達のクラスで二人がプロだせ!そして隣のクラスは牟田だし、俺、他校の友達に自慢出来るし、今のうちにサイン貰っておかないと。」

「高橋陸君、今の心境は?」

「まだ、指名された訳じゃないし、でも、ドキドキだよ…」

 龍馬には多くの報道陣でドラフトの開催を待っていた。

 体育館にドラフト会議の中継が映された。

 

 司会者のアナウンスが流れ、

「これより二〇〇二年ドラフト会議を行います。」

 各球団が一位指名選手を提出した。

 一四球団のうち、福田龍馬を指名したのは九球団、残り五球団は大学、社会人だけ認められる、自由獲得制度(ドラフト上位候補選手が希望した球団に入団出来る制度)で決定権を獲得した。

 透明のガラスの箱の前に九球団の抽選を引く人が集まった。

 四国ゴージャスは、荒川球団社長は三嶋監督に抽選をさせた。

 おそらく、責任を押し付けている。

「解ってるな!外したら…」

 次々に抽選箱に手を入れ、抽選券を取り始めた。

 三嶋監督は、震えながら抽選券を取った。

「それでは抽選券を開けて下さい。」

 三嶋監督は震えて開ける事すら出来ない。

 見かねた女性スタッフが手伝い抽選券を開けた。

「当たった!当たった!当たりました。」

 龍馬を引き当てたより、荒川球団社長の脅しのプレッシャーから脱出した開放感に満ち溢れた表情だ。

 場内から響めきが起きた。

「四国ゴージャスかぁ…育てられるの?」

 大明学園の体育館では、龍馬は椅子からズレ落ちそうになった。

 そして、多くのフラッシュが焚かれ、龍馬に報道陣から質問された。

「おめでとうございます。今の心境は?」

「頑張るだけです…」

 第一回選択希望選手が出揃った。

 小倉学園の新井は地元の福岡ダイエーホークスに指名された。

 二巡目、三巡目も陸と牟田の名前は挙がらなかった。

 そして四巡目、読売巨人から牟田の名前が挙がった。

 牟田は、直ぐに体育館に呼ばれた。

「人気球団からの指名にビビってます。

 自分は一年生の時、野球部を辞めました。

 そこで励ましてくれたのは、福田君でありこれから指名される高橋でした。

 自分が復帰してもチームの皆や青柳監督が普通通りに接してくれました。

 今の自分があるのは皆様のお陰です。皆んなに恩返して、巨人の主砲になりたいです。」

 龍馬は牟田と目を合わし微笑んだ。

 

 そして、龍馬と牟田は、陸の名前を待つだけだった。

 頼む!陸、一緒にプロに行こう!

 陸もクラスで、次々と呼ばれる名前に不安を感じていた。

 なんなの?菊池スカウトさん…信じていいですよね…

 ドラフト会場では、菊池スカウトは、

「もう高橋陸に行っていいですか?」

「本当に行くの?やっぱり福田取れたし、契約金一億円は払わないといけないでしょ。お金がないのよ。」

 えっ…この場に及んで…「絶対、福田と合わせてグッズで儲かりますて!」

「じゃ…取っても良いけど、副業して貰うし契約金二〇〇万でいい?」

 

「副業?」

 

 他球団は指名を辞めて最終指名。

 四国ゴージャス第六回選択希望選手

 大明学園、ピッチャー高橋陸。

 場内は、

「あの夏の甲子園で決勝ホームランを打った高橋か。

 しかも、バッターじゃなくピッチャーかよ。」

「確か福田の後、投げたよな!しかし、ファーボールばかりで0点には抑えたが、球も早くなかったし、印象に残ってないけど…」

 

 大明学園では、陸も呼ばれた。

 体育館の壇上に上がり、龍馬と牟田が陸を見て微笑んだ。

「じいちゃん、俺、あんな多くの報道陣の前で喋れないよ…今回だけ助けて!」

「仕方ないな!」

 報道陣から、

「福田君と同じ四国ゴージャスの指名おめでとうございます。今の気持ちは?」

「んっ…最後の最後でしたが嬉しいです。

 福田君とは一緒の立場とは思ってません。 

 何倍も練習して、早く福田君と一緒の土俵に立ちたいです。」

「ピッチャーでの指名でしたけど…」

「ピッチャーで評価してくれた事、感謝してます。」

 完璧な受け答えで報道陣からも拍手が起きた。

「じいちゃん、ありがとう。」

「陸、おめでとう。勝負はこれからだぞ。」

「分かってるよ!おじいちゃん。」

 

 本当に分かってるんだろうか?

 プロは厳しいところだぞ…

 

「三人の祝杯を兼ねて、牧野うどんに行かないか!

 二年前のホットドッグの借りもあるし、今日は、おごらせてくれよ。

 龍馬の契約金には、遠く及ばないけど、うどんなら、ご馳走できるしな!」

「祝杯場所が牧野うどん?」陸は笑ったが、龍馬は、「牧野うどんって、麺にコシが無くって麺にスープが染み込んで、食べても、なかなか減らない魔法のうどんなんだよね!

 俺、大好きだよ!」

「よっしゃ!牧野うどんに行こう!」

 

 その日は、知らない遠い親戚やらメールや電話で義男も小百合も、大忙しだった。

 翌日、義男は陸のアルバムに貼るスポーツ新聞を買い漁った。

 しかし、大きく載っているのは九球団指名の龍馬と地元、ダイエーホークス一位指名の新井がトップ記事で陸は片隅に最後の最後で指名の大明学園の甲子園のスター高橋陸を四国ゴージャスが獲得と書かれた記事だけだった。

 加藤明美宅、

「明美、お前の彼氏は四国ゴージャスにドラフトされた、あの子か?

 つい二年前、家に連れて来て、挨拶一つ出来なかった、あの子がね…

 昨日の指名後の受け答えは、しっかりしていたぞ!

 でも、ワシはまだ、認めてないがね。

 付き合う相手は公務員に限る。

 ワシを見てみろ!公務員生活三〇年、何不自由なく来れただろう。」

「何、言ってるの?お父さん!

 決めるのは明美ですよ。

 それに、まだ、付き合ってるだけで結婚話もしてないのに。」

 明美も確かに、あの陸の受け答えに疑問を持った。

 陸て、結構、ちゃんとした事言えるようになったんだぁ…私のおかげ?

 まぁ、何処の家庭にでもある普通の家族だが、いささか頑固な父親みたいだ。

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