第22話


 

   

   二二、将来の夢

   

 下級生達が練習しているグランドの片隅に龍馬と陸は座って話をしていた。

「龍馬、お前、プロに行くのか?

 プロ表明したら、何球団が指名するんだろう。

 契約金だって一億円を超えるて噂だし。

 俺も龍馬の契約金、夢見て野球を始めたのに、全然、叶わなかった。

 お前は、凄すぎる、俺のヒーローだよ。」

「うん…来月、志望届出するつもり…

 俺、プロを目指していたからね!どうせ行くなら早くプロになりたいし、活躍出来るまで何年かかるか分からないけど…陸は、これから先、どうするんだ?」

「俺も何年かかっても構わないからプロに行きたい。

 行きたいて言うより龍馬に追いつきたい!

 でも、今の実力じゃ、何処の球団も相手にしてくれないし、勉強は嫌いだから大学じゃなく社会人野球に進もうかな?

 これも社会人野球から話が来たら、だけどね!」

「そうか…まぁ、追いつけないと思うけど…

 陸、ちょっと、変な事、聞いていいか?

 前から思ってたんだけど、陸て、多重人格かと思った。

 初めて、誰からも相手してくれなかった俺に話をしてくれた時、凄く嬉しかった。

 でも、陸も人見知りで友達なんか要らないて感じだっただろ…

 そのくせ、最初は、お互い会話無し。

 お前の性格が分からなかった。

 行動派なのか、臆病なのか、でも今は、お前は強いけど」

  陸は龍馬に言い出せなかった…

「龍馬とクラスの仲間達と野球部のみんながいたから強くなれたんだよ。」

 

 そして、スカウト合戦も解禁された。

 菊池スカウトが大明学園を訪ね両親(義男 小百合)が呼ばれた。

 進路室では担任、西田と青柳監督がいた。

 菊池スカウトは、

「私は高橋君を甲子園に出る前から追い続けていました。

 彼には抜群の素質とセンスがあります。

 たった二年で、これだけの活躍が出来る事を私は確信してました。

 将来、球界を代表する選手になる存在です。

 今度のドラフトで必ず指名します。

 何位指名かは確約できませんが…」

 

 そして翌日、神戸クラッシャーズからもスカウト部長、(林田誠)が大明学園に訪れた。

 大明学園の担任、西田と青柳監督がいる、進路室に家族と陸が呼ばれた。

 林田から、

「高橋君、我が神戸クラッシャーズの球団職員にならないですか?

 君の甲子園でのバッティングは凄かった。

 球団職員をしながら、定時制高校に通い、我がクラッシャーズの選手と同じ練習をし、そして来年のドラフトで隠し球として高橋君をドラフト一位で指名します。

 契約金一億円も夢じゃないです。」

 青柳監督は呆れた。

 我が大明学園を中退させ定時制高校?

 それも、高橋は打者?何も解っていない…

 しかし、決めるのは本人…

 陸は迷った。

 直ぐにプロに行くか、一年待って期待されてプロに行くか…

 今、プロに行っても、期待されず契約金も少ない貧乏球団、四国ゴージャス…

 一年待てば一億円!しかし、実力が付いての話である。

「おじいちゃん、俺、どうしたらいい?」

「お前の人生だよ。自分で決めなさい。

 お金なんか活躍して貰ったら良いじゃないか。」

「俺、…おじいちゃんが居るうちに、プロで活躍して、おじいちゃんに観て貰いたい。」

 そして夜、義男と小百合を呼び家族会議をした。

「お父さん、お母さん、俺は四国ゴージャスに行く。

 まだ、力不足だけど、おじいちゃんにプロのユニホーム見て貰いたいし…活躍出来るように頑張ってみる。」

 義男は、

 「そうか…解った。頑張れ!陸。」

 小百合も、

「お父さん、これからも陸を宜しくお願いします。」

 翌日、陸は青柳監督に話し神戸クラッシャーズに断りの電話を入れた。

 そして、龍馬、陸、牟田がプロ志望届出を出した。

 新聞報道で知った話だが、華川学園の猿渡は、甲子園での投げ過ぎで肘を壊しプロ志望届出を出さず手術に踏み切るそうだ。

 万全の状態ならドラフトで龍馬と人気を二分する有望選手なのに…

 その他に小倉学園の新井も志望届出を出した。

 

    ー福田家ー

    

「龍馬、今日、お母さん、仕事で遅くなるから、冷蔵庫の中の食材で何か作るか、テーブルに千円を置いてあるから弁当でも買って真美と食べて!」

 

 龍馬の家は母(福田久美)一人の母子家庭で龍馬と中学三年生の真美の三人家族。

 五年前から父親と離婚し母はパートで生活を切り盛りしている。

 決して生活は楽では無いはずだ。

 確かに龍馬のグローブはボロボロになっている。

「中学、全国制覇した時に母からプレゼントして貰ったんだ。俺の宝物!」

 それから、四年、一つのグローブを使い続けていた。

 高校は特待生で授業料免除だから、家から近くの大明学園を選んだろう。

 龍馬は頭も良いし有名進学校や県外の学校推薦だって来ていたはずだ。

 交通費も節約して陸とランニングして学校に通っていたのも理解出来る。

 両親の離婚で龍馬も心の動揺があり、親友を作らず、野球でもワンマンになっていたのかも知れない。

 これ以上、お母さんに苦労をかけたくない龍馬は、家族を守るため、早くからプロ野球を目指していたのだろう。


 

   

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