第21話
二一、反響
わたしは陸が打った後、何も覚えていない。
何日、経ったのだろう。
福岡県長知事に大明ナインは呼ばれていた。
県知事は、
「本当にご苦労様、福岡県に優勝旗を持ってこれたのは大明学園のチームワークと監督の愛情溢れる采配で福岡県民に感動と元気を貰いました。」
えっ…優勝?
陸に、さっそく聞きたいが、なかなか一人になれない。
県知事の話は続き、
「福田君、ナイスピッチングでしたね。
疲れはありませんか?
それに、岡本君に稲生君達、三人が高校野球では珍しくローテーションを守っての勝利は、これからの高校野球を変えるかも知れません。
それに打つ方では、牟田君の甲子園、四ホームラン頼れる四番バッターでした。
そして、高橋君、最後に、でっかい仕事しましたね!
福田君の後を継いでピンチは背負いましたが、0点に抑えて、バットでは、ライトに高く上がった打球がスタンドに入った時は、ここ、県職員、仕事忘れて総立ちで拍手の嵐でしたよ。一躍、スターですね!」
あの打球…スタンドに入ったのか?
陸、おめでとう。
福岡県庁を出る時、職員から大きな拍手と、
「福田君!牟田君!」そして「高橋君!」の声援まであった。
そして、久山役場にも優勝報告を行い、テレビ出演などで忙しい一日が終了したが、今、大明ナインの中で一番、注目を浴びているのは、陸だった。
サヨナラホームランの強烈なインパクトは福岡県民のハートを掴んでいた。
それも、野球経験二年で話題性十分で、マスコミの報道や福岡の地方テレビは翌日も義男と小百合までインタビューされる始末。
「高橋陸君の育て方を教えて下さい。」
「自由にのびのびと育ってただけです。」
わたしも陸も笑った。
義男が作った陸のアルバムも決勝ホームランの新聞の切り抜きと自分のインタビューされた記事まで貼っていた。
菊池スカウトは陸の活躍を喜べないでいた。
他のスカウト達も陸の存在能力に気付き始めて、地元、ダイエーホークスも陸の調査に出始めた。
しかし、高校通算二本の選手。話題性だけで獲得は球団が許さない。
菊池スカウトも同じである。
四国ゴージャス球団も菊池スカウトの報告を何度も受けているが、貧乏球団。首を縦に振らない。
荒川球団社長は、
「訳の分からん奴を取ったら、今いる選手が戦力外になるんだぞ!
お前はそいつに責任取れるんだろうな!」
「そ、それは…しかし、福田と高橋を両取りしたら話題性は十分ですよ!
福田は競合は免れないですが、高橋は他球団も指名は無いと思います。
現在、神戸クラッシャーズの動きが気になりますが。
野球経験、高校一年まで無かった少年が二年で名門、大明のレギュラーになり甲子園で大活躍。
そして、プロ野球の門を叩く。
顔も悪くないし、マスコミ、テレビに出演させて高橋のグッズ売ったら、それだけで元は取れると思いますよ」
「んっ…客寄せパンダかぁ…まぁ、悪くないな」
菊池スカウトは、こうでも言わないと荒川球団社長を納得しないと思い、とっさに儲け話を出したが、陸の存在能力でこれから先、想像するだけで胸が高ぶり、毎日、夢で三年後の陸の姿を見ていた。
二〇〇一年九月 健診日
鬼塚先生から、
「陸君、甲子園の活動、観てましたよ。
もし、この事が世間に知れたら大変な騒ぎになるでしょう。
私は必ず、陸君を守るんで安心して下さい。
今日のCT検査では、陸君、七五%おじいちゃんは二五%です。
おじいちゃんに質問です。
陸君が生活してる時は、どの様な状態なんですか?」
「んっ…ぼっーとなって、睡魔がさし意識が無くなるんです。何日も。
しかし、大事な時は意識もしっかりしてます。
陸の決勝のホームランを打つまでは、その後は疲れからか二〜三日は寝てる状態でした。」
「おじいちゃん、これから先は眠くなる時間が増えてくると思います。
起きてる時は、陸君を二人三脚で助けてあげて下さい。
私も高橋陸君のファンとしてお願いします。」
家に明美がやって来た。
「なんか、私だけの陸じゃない感じ…。
前は、駄目な陸を育てていた感じなのに
今の私はアイドル目線で陸を見てる。不思議…。
でも、これから先も主導権は私が握るんだからね!そこら辺、解ってるでしょ。」
「育ててるて俺、明美のペットみたいだね…」
「解ったらいいわ!今からバイクでツーリングに行くわよ!」
「大丈夫…?フォーカスされないかなぁ…」
陸と龍馬は部活引退後も自宅から学校まで走りと青柳監督の指示通りさ毎日、素振り一五〇回を欠かさず行っていた。
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