第19話


 

 

 

   一九、決勝戦

   

 決勝当日。

「夜行バスで来たから、腰が痛いし、疲れたー!

 陸、応援に来たよ。しかし、暑いね!

 ちゃんと水分を摂りなよ!忘れ物はない?」

 明美だった。

 明美からしてみたら、陸は、今だに子供扱いだ。

「俺、スタメンに入ってないから大丈夫。」

「えっ…出ないの?…」

 

 一塁側のアルプススタンドは大明学園の応援で埋まった。

 しかし、球場全体は地元、大阪代表の華川学園の応援一色に染まっていた。

「猿渡!頼むぞ!」

 もちろん、義男と小百合も大明学園の名前が入った赤いTシャツを着て陸の応援に来ていた。

「明美ちゃん、陸、試合に出ないんだって?せっかく決勝なのに…」

「いやいや、出てエラーでもしたら…心臓に悪いぞ。良かった!」

 

 陸は華川学園のベンチを覗いて龍馬に話しかけた。

「みんな、デカいぞ…プロ注目選手が四人はいるんだってよ。そしてピッチャーは猿渡」

 

「監督、下痢でトイレ行っていいですか?」 

 プレッシャーに弱い中山だった。

「早く行ってこい!」

 みんなが初めての決勝、緊張と、これから起こる死闘を待っていた。

   決勝戦

  大明学園✖︎華川学園

   

 龍馬が真っさらなマウンドに立って、青井が近づく。

「岳、フォーク思い切り投げるから絶対、後ろに逸らすなよ!」

 と龍馬は笑いながら話した。

「任せとけ!」

  開始のサイレンが鳴った。

  「プレーボール」

 一回の表、華川学園の攻撃。

 一番らしからぬ背は高く体格もごっつい北条。

 一番から九番まで、そんな選手が並ぶ。

 龍馬は、腕を振り上げ、第一球を投げ込んだ。

 155キロをスピードガンで計測。

 球場全体がどよめいた。

「前回は、抑えて投げてたけど、今回は本気の福田だ!」

 スカウト陣は、これから始まる福田と猿渡劇場を目の当たりにする。

 龍馬は、力強いストレートとフォークを武器に三振の山を築く。

 青井も龍馬のフォークを体でしっかりと受け止めていた。

 しかし、華川打線も、ひるむ事無くフルスイングをしてくる。

 一回の表、龍馬は華川打線を0に抑えて順調な立ち上がりを見せた。

 続いて、一回の裏、マウンドに猿渡が上がった。

 スタンドは猿渡フィーバーだ。

 投球練習するたびに球場から黄色い声援が飛んでくる。

 猿渡は第一球を投げた。

 龍馬を上回る156キロを測定。

 大明打線は当てるだけで必死で前には飛ばない。

「早すぎる!こんなピッチャー初めてだ。」

 練習で龍馬の球を打ってるが、猿渡の球は龍馬とまた、球質が違っていた。

 スカウト陣は二人のピッチャーの投球に驚きを感じた。

「二人共、即プロに行っても一軍で活躍するぞ!」

「福田も猿渡も高校生じゃ打てないよ。」

「華川学園はパワーバッターが揃ってるから出合頭の一発に福田は気をつけないとな!」

「華川には役者が揃ってるからな!」


 青柳監督から、「しっかり球を当てていけ。」

 と指示がありバットを短く持ち、コンパクトに振って行った。

 しかし、大明打線も凡打の嵐。

 五回を終わって両者パーフェクトの試合。

 六回の表、華川学園の攻撃は七番、桐生からの攻撃。

 下位からの攻撃で油断をしたのか、甘い球が真ん中高めに入った。

 桐生は迷わず、フルスイング…

 桐生の打球はレフトスタンドに消えた。

 龍馬が甲子園で初めて打たれたヒットがホームランだった。

 マウンドに野手が揃った。

「龍馬、大丈夫!俺達が打って絶対に逆転するから!」

 後続は抑えたが1対0で大明リードを許す。

 迎える六回の裏、これまで大明打線は凡打の山を築いているが猿渡の球数は、すでに百球を超えていた。

 さらに決勝に進むまで猿渡は一人で投げ抜いている。

 疲れてないはずは無い。さすがの猿渡でも。

 青柳監督は、バント攻撃で猿渡に揺さぶりを掛けようと思ったが、龍馬と同じ将来を期待されてる選手。

 潰す訳にはいかない。これが青柳監督の思う、高校野球道。

 自分達はいつも通りの野球をするだけ。

 六回の裏、一番、田中からの攻撃。

 初球、猿渡が投げた球を打ち損じてサードゴロ。

 しかし、サードがエラー…

 猿渡もパーフェクトは崩れた。

 猿渡は、グローブを投げ捨て、サードに何かを言っている。

 少し前の龍馬を観ているようだ。

 スタンドからも猿渡の態度に騒ついた。

「なんか、態度悪いね…」「スポーツマンらしくない!」 

 しかし、続くバッターは中山、バントで送りたいが、試合前の下痢と緊張でポップフライ、ゲッツー最悪だ。

 早田も倒れ、この回も0点。

 そして八回の表、龍馬も一〇〇球を超えて肩で息をしている。

 青柳監督から陸に、

「ブルペンで投球練習を始めろ。」

 と指示が出た。

 陸はファールゾーンにあるブルペンへと向かった。

 明美が、

「あれっ…陸がいる。陸〜!」

 大明学園のアルプススタンドからは、

「あれは、誰だ?背番号一五?」

「予選でホームランを打った奴だ!」

「でも、大明にはピッチャー三人しかいないはずでは…それも、福田の後に投げるの?」

 華川打線は七回の時点で一五個の三振で相変わらず龍馬に手こずっていたが八回に四番、プロ注目の柏崎からフルスイングでライトスタンドに一発を食らった。

 

   

 

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