第17話


 

 

   一七、戦略

 

 翌朝、新聞を見たら、陸の記事が載っていた。

 チームを救った謎のライト、高橋陸。

 野球経験二年で名門、大明学園のレギュラーに成長。チームに新しい風を吹き込んでいる。

 

 何処で調べて来たのだろうか?

 義男は、新聞を切って、作ったばかりの陸のアルバムに貼った。

 現在、県大会のサヨナラホームランと今回の記事、二ページしかないが両親にとって楽しみが増えた。

「陸ー、元気。陸の活躍観たよ!凄いね!前の陸とは想像がつかない。

 ちょっと寂しい気がするけどね!」

 明美からの電話だった。

「俺、明美を思う気持ちは変わらないよ。今は野球に集中してるけど、明美や皆んなが支えてくれてるから頑張れる。」

「なかなか甲子園まで応援に行けないけど、決勝に進出したら必ず、観に行くね!」

 

 二回戦は稲生が先発し相手から先制されるも、稲生の粘り強いピッチングと打線の援護で逆転し終わってみれば、8対4で勝利した。

 陸はライトで出場し四打数0安打、ライトフライを落とすなど良いところは無く終わった。

 

 三回戦、前日、青柳監督から先発予告があった。

 ピッチャーは福田龍馬。そして、キャッチャーら高橋陸。

 相手は初出場ね滋賀代表、琵琶湖学園だ。

 初出場でデーターは少ないが勢いで甲子園まで這い上がって来たチーム。

 油断は出来ない。

  三回戦

  琵琶湖学園×大明学園

 アナウンスより、

「ピッチャー、福田龍馬。」

 が呼ばれると球場が沸いた。

「やっと福田が観られる!」

「高校野球なのに、ローテーションを守るて監督の考えも凄いよな!」

 そして、キャッチャー陸も、一部の観客から、

「前の試合でライト守っていた奴じゃないか?今度はキャッチャーか?」

 青柳監督は、龍馬に、

「観客に、のまれるな。コントロール重視だ!」

「はい!監督。陸、サイン任せたぞ!」

「了解!」

 

 審判の「プレーボール」 と同時に甲子園にサイレンが鳴り響いた。

 真っさらなマウンドに龍馬は立った。

「おじいちゃん、まず、初球はストレートだよね!胸元に!」

「そうだな!」

 龍馬は陸のサインに任せて投げこんだ。

 スピードガンは138キロ。

 観衆は、

「スピード抑えてるの?」

「もっと出るんじゃない?」

 しかし、龍馬の球はスピード以上にスピンが効き球がうねりをあげた。

「決め球はフォークだよね。」

 陸は私と配球を考え楽しんだ。

 まるで二人で将棋をしているみたいだ。

 龍馬は陸のミットをめがけ数センチの誤差もなく投げ分けた。

 龍馬も陸も、そして私も胸が踊った。

 スタンドにいた菊池スカウトは、

「さすがだ!大人のピッチングでまず高校生には打たれんな!

 それに、この完璧な配球…キャッチャーがサインを出してるのか?

 高橋陸…不思議な子だ…」

 試合は大明がリードし、 陸もサードゴロを自慢の足で甲子園初ヒットで三盗塁。

 その後も牟田のホームランなどで追加し、

龍馬は一人のランナーも許さず、甲子園でのパーフェクト試合を達成した。

 試合は7対0で圧勝。

 観客は龍馬のピッチングに酔いしれた。

 スカウト陣も、

「140キロ前後で軽く抑えたぜ…」

「たいしたもんだ!今年のドラフトの目玉は間違いないね!華川学園の猿渡との勝負も観たいもんだ。」

 華川学園も順調に大差で勝ち進んでいる。

 

 宿舎ではミーティングが開かれていた。

 青柳監督から、

「ピッチャーはローテーションで回すが、相手が、華川学園だったら、福田で行く。抽選次第だ。」

 私は青柳監督の考えに迷いがあると感じた。

 確かに華川学園を抑えきれるのは龍馬しかいないが連投になる可能性がある。

 龍馬を壊したくない…

  青柳監督は、苦渋の決断をした。

 準決勝の抽選で相手は華川学園では無かったが強力打線の福島水産高校だった。

 

 夜、食事が終わり私と陸は散歩に出た。

 暗闇の中、一人の部員が稲生を連れ人目を避けてワンバウンドの練習をしていた。

 青井岳だ。

 龍馬以外は常にキャッチャーだが、龍馬が投げる時は、陸に代わるのが、よほど悔しかったみたいだ。

 それは、陸より劣っていると本人が解っているから必死に練習する。

 だから、このチームは進歩しチーム一丸となって闘っている。

 いいチームだ…

 陸は、今、何を感じただろう…

 

 準々決勝

   大明学園✖︎福島水産

 先発は岡本、陸はベンチスタートで試合は始まった。

 岡本の打たせて取るピッチングで序盤は、お互い0が並んだ。

 福島水産打線が岡本に慣れ始め、六回に捕まった。

 ヒットと四球で続くバッター三番、井上に痛恨のホームランを浴びた。

 その後、後続を抑えベンチに戻った。

「ドンマイ ドンマイ!」

「俺達が必ず点を返すから、お前は自分のピッチングをしてくれ!」

 ナインの声で岡本は冷静さを取り戻した。

 チームが一つになっているから監督の采配は楽だ。

 青柳監督は、うなずくだけだった。

 しかし、焦りからか、ヒットは出るが続かない…

 七回の裏、大明の攻撃、田中が際どい球をカットしてカウントは、2ストライク3ボール。田中だけで一八球は投げている。

 加藤が投げた球は大きく外れた。

 ファーボール!

 炎天下の中、加藤は、この試合で百二十球は投げていて肩で息をしている。

 青柳監督は、すまんな。加藤君、いかせてもらいよ。…

 ランナーに出た田中はリードを広くとり加藤を揺さぶる。

 続く中山にも粘られたが最後は空振りの三振。

 三番、早田も粘り、甘く入った球をセンター前に落とした。

 ランナー二、三塁。

 福島水産の安藤監督は、タイムをかけ伝令をマウンドに向かわせた。

「大丈夫か?球威も落ちてるぞ!」

「大丈夫!と監督に伝えて!」

  加藤に代わるピッチャーはいないと判断し続投を命じた。

 しかし、四番、牟田が球威の落ちたストレートをレフトスタンドに大会二号ホームラン。頼れる四番だ。

 その後、加藤は打ち込まれ、終わってみれば8対4で大明が勝利した。

 

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