第15話


 

 

 

   一五、最後の夏

  

 最後の夏、地区予選が始まり、高校野球の熱い戦いが幕を明けた。

   地方大会一回戦

  櫛田高校✖️大明学園   

 一回戦の先発は龍馬ではなく二年生の岡山だった。

 球場には一回戦だと言うのに龍馬、観たさに多くの人が集まった。

 もちろん、スカウト陣もだ。

「今回も福田の出番は無しか…」

 試合前、円陣を組み、福田キャプテンが

「試合、楽しんで行きましょう!」

「オゥ!」

 試合は大明学園の楽勝ムードで試合は進んだ。

 スカウト陣は龍馬の登板がないので足早に球場を後にしたが菊池スカウトだけは陸の出番を待っていた。

 試合は一五対三で五回大明学園がリード。

 青柳監督が陸を呼び、この回、代打で行くぞ!しっかり、バットを振っとけよ!」

「は…いっ」

 私も胸が踊った。

 孫が、やっと打席に立てる。

 努力が実ったな…でも、これからが始まりだよ。陸…

 スタンドには、義男と小百合の姿が…

 アナウンスが流れた。

「選手交代のお知らせを行います。

 吉田剛君に代わりまして代打、高橋陸君が入ります。」

 陸がバッターボックスに入った。

 小百合は、

「陸が打席に立ってる…信じられない。」

 義男も、

「これだけでも、陸を育てた甲斐があったな!」

 しかし、陸は未だかって練習でも、生きた球を打った事がない。

 バッティングセンターくらいなものだ。

 初球、一球目、大きく外れた球を陸は、思わず振った。

 スタンドはざわめいた。

「アイツ、素人じゃない?」

「あんなの大明学園に居た?ほとんどが特待生なのに…?」

 菊池スカウトは、ますます陸に興味が出てきた。

 二球目、甘く入った球を空振り…

 三球目、ピッチャーは余裕を持って投げた。

球を陸はフルスイング!

 

 ボールはスタンドを超え球場の外に消えていった…

 審判、「ファール、ファール」

 レフトのポールをわずかに外れた。

 菊池は唖然とした。

「何だ!あの桁外れのパワーは…」

 そして、四球目もフルスイング…空振り三振に倒れた。

 試合は五回コールドで大明学園が圧勝した。

 大明は順調に勝ち進み、ベスト4まで龍馬は投げず岡山と一年生の稲生で勝ち進んだ。

 陸は、代打で出場するが三振の山で貢献度0だった。

 ベスト4の相手は昨年、決勝で負けた相手、高校通算本塁打八五本の新井がいる優勝候補の小倉学園である。

 

  大明学園×小倉学園

 アナウンスよりスターティングメンバーが発表された。

「…九番ピッチャー、福田龍馬」

 球場が沸いた。

 スカウト陣はそろって、

「新井と福田のドラ一勝負が見られるぞ!」

「福田の肩は大丈夫か?」

 龍馬は初球、うなるような球を投げ込んだ。

 スカウトが、持って来てたスピードガンは158キロを測定した。

 進化している…しかも化け物に…

 小倉学園も昨年のエース、吉永が引退しても、技巧派で変化球が多彩な葛西秀樹(二年生)が先発し、昨年同様、八回まで0が続いた。

 龍馬は昨年と違い夏の暑さでもバテる事なく九回を迎えたが、唯一、気掛かりなのが、相手もストレートに慣れてきている。

 フォークボールを投げたいがキャッチャーを気にして腕が振れない。

 仲間を信頼してないんじゃない。

 龍馬のフォークボールは化け物級なのだ。

 どうにか、ストレート、カーブ、チェンジアップで押さえてきた。

 しかし、龍馬のストレートを狙われてセンター前ヒット、続くバッターは味方のエラーを誘い、ノーアウト一、三塁…

 続くバッターは、今日、一安打している、超高校級バッター新井。

 青柳監督は満塁策は考えなかった。

 審判に交代を告げた。

 アナウンス、

「キャッチャー青井に代わりまして、高橋陸。」

 菊池スカウトは興奮した。

 「最高の場面、そしてキャッチャーは高橋…こいつは面白くなってきた。」

 龍馬は、もう一段、ギアーをあげた。

 初球ストレート。

 新井は強振し空振り。

 スピードガン155キロ測定。

 スカウト陣も、龍馬に熱い視線が集中していた。

 続く二球目、陸はフォークのサインを出した。

 龍馬はうなずき、微笑んだ。

 腕を強く振り抜き、ボールはベースの地面に落ちた。

 新井は空振り、「ボールが消えた。」

 陸はワンバウンドしたボールを平然とキャッチした。

 続く三球目、陸はまたしてもフォークを要求した。

 龍馬は振りかぶりた時、一塁ランナーがスタート…ボールは新井のバットを通り過ぎた。空振り三振!

 陸は二塁には、送球しなかった。

 私は思った。正解である。

 必ず、悪送球になってたと…

 続くバッターもストレートとフォークで連続三振…

 九回裏、大明学園の攻撃もツーアウト。

 そして、バッターは陸。

 私は、陸に助言をした。

「脇を締めて、しっかり最後まで球をみれ

 葛西のカウントを稼ぐ球は何だ?」

「おじいちゃん、確か、スライダーだった。」

「じゃ、スライダーを狙え!」

「うん!」

 初球、ストレート、二球、カーブでボール、その後もスライダーが来ない…カウントは2ストライク3ボール。

 葛西も渾身の力で投げ込んだ。

 スライダーだ!

 陸は、私の助言通りに脇を締めて、しっかりボールを見て、フルスイングをした!

 ボールはセンターバックスクリーンに入った。

 サヨナラホームラン!

 ゲームセット!

 初ヒットが…

「陸!すげー」「陸、ありがとう」

 大明ナインから熱い祝福を浴びた。

 私も熱くなった。

 あれだけの孤独な練習して諦めない姿は、一年前の陸には考えられない。

 スタンドにいた、小百合は義男に、

「初めて、陸から最高のプレゼント貰ったね。」

 「子供の成長て、いいな!…こんな、感動ずいぶん忘れていた。」

 陸は、人から喜ばれ、感動を与えた。

 この胸の高鳴り、こんな気持ちは初めてだ。

「じいちゃん、ありがとう!」

「陸のスタートは始まったばかりだよ。」


 陸は、一年前、夢も希望もない、人生だったが、一つの目標を決め自分の思う道を突き進んでいた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る