第14話
一四、スカウトの眼
高校三年生の明美は、キャビンアテンダントを目指して専門学校に決めた。
専門学校は家から通える距離なので、陸も
安心した。
いくら、友達が出来たと言っても、一番、信頼出来る人は、明美だ。
部活が終わって、逢えない時は携帯から長電話。
義男は始めて真剣に怒った。
「携帯代、いくらかかってると思ってるんだ!」
おそらく、私に良い親の姿を見せたかったと思うが、これが一歩前進のキッカケになればと思った。
陸は「契約金、入れば倍にして返すよ!」
義男の気持ちが陸に届くには、まだまだ時間がかかりそうだ…
春の選抜高校野球、地方予選が始まった。その中に龍馬の姿はいない。
夏の県大会の疲労で右肩に違和感を感じていた。
青柳監督はピッチャーを二人は作って龍馬に負担をかけない作戦に出た。
結局、三回戦予選で敗退したが、どうにか試合を作れるピッチャー(岡山努二年生)が誕生した。
陸は、相変わらず、マネージャーで勉強中だ…。
青柳監督は始めから夏の大会にかけていた。
二〇〇二年 四月、陸達は三年生になり新一年生を迎えた。
今年も特待生で有望な選手が入って来た。
中でも、稲生一正だ。
全国中学で準優勝投手だ。
グランドにプロ野球の各球団のスカウトが数名、大明グラウンドに来ていた。
「福田龍馬は終わったか?」
「肩を壊したそうだぞ。」
「せっかく、ドラ一候補だったのに…」
いろいろな声が渦巻いた。
部室の裏で、龍馬と陸がキャッチボールをしていた。
他のスカウトは見向きもしなかったが、一人の男が龍馬達を観ていた。
四国ゴージャス(毎年、お荷物最下位球団)
菊池又三スカウト本部長(五六歳)見る目は有るが、原石ばかりを追い求めて、ほとんど戦力にはならない。
確かに球団名はゴージャスだか、貧乏球団だから仕方がない。
安物買いの銭失いで、球団も菊池には、呆れ果ている。
菊池スカウトが龍馬は終わっていない。
肩も、もう大丈夫だ。
しっかり腕が振れているぞ…
それより、一緒にキャッチボールしている奴は誰だ。
柔らかい、腕の振り方。コントロールは、バラツキがあるが龍馬より、エンジンがでっかいかもしれない。
菊池は球団事務所に戻り、球団に報告した。
「凄い原石を発見した。
キャッチボールだけだけど。」
「キャッチボールだけだと?ふざけるな!」
陸は、朝の通学ランニング、素振り一日千回、欠かさず行っていた。
左投げの練習は辞め右投げに集中した。
私は陸に、
「自分、本来の投げ方で練習しなさいと…」
陸の身体は、次第にがっしりとしてきた。
陸達にとって高校野球、最後の予選メンバー発表がされた。
エースナンバー 一番は福田龍馬、次々と名前が呼ばれた。
一年生では、随一、稲生一正が一一番、そして陸の名前も…背番号一五番、そしてマネージャーは卒業出来た。
私は思った。
陸はチームに貢献出来るのか?
陸より実力がある子は沢山いるのに…
そして、青柳監督から、
「新キャプテンは、福田龍馬」
私は陸と龍馬の成長を監督も認めてると感じた。
最後の夏に向け学校での合宿が始まった。
大明学園は、立花山のふもとにある高校だ。
立花山は標高、三六七.一メートルで初心者向けで片道五キロの割と楽な登山コースである。
しかし、青柳監督は、一日三回の登山ダッシュを義務付けた。
地獄の合宿だったが、後半は、体が慣れ、立花山から見える、福岡市や博多湾、玄界灘の大パノラマを感じる余裕まで出てきた。
「頂上は、気持ちいいなぁ!」
「本当、最高!」
そして合宿の中盤を迎え、陸に捕手の練習をさせていた。
キャッチングは、さすがだった。
龍馬が全力で投げた球も平然と取り、磨きが掛かったフォークボールも難無く取る。
しかし、問題はスローイングだ。
取ってからが遅いし慌ててボールを投げるので悪送球ばかり…
捕手はすぐに出来るポジションではない。
後、一年あれば、陸なら出来ると私は思ったが、もう時間がない。
龍馬は昨年以上にフォークのキレが良くなり、ワンバウンドした球は正捕手(青井岳三年生)でも、なかなか取れずにはじいてしまう。
だから龍馬は、思い切り、腕を振って投げる事は出来なかった。
キャッチングだけなら陸の方が上手い。
きつい練習に耐えてナインの体は一回り大きく感じた。
そして地獄の合宿は終了した。
チームメイトの吉井、早田、田中、中山を含む八人は県外からの野球留学生だ。
周りでは地元の主力メンバーは半分くらいしかいないと批判はあるが、青柳監督は暇さえあれば、全国を車で回り中学生の試合や練習を観て大明学園に似合う生徒をスカウトするのが青柳監督の趣味かも知れない。
上手い選手を集めて勝とうとは思っていない。
才能があって伸び代のある子を探すのが好きなだけだ。
大明学園に入ってくれたら、後は自分が育てる。
野球留学生は寮で生活していて青柳夫婦が世話をしてくれている。
早田、
「俺達、最後の大会だね!
青柳監督が誘ってくれたから大明を選んだけど、俺、中学の時は、そんなに目立った成績を残してないのに…拾ってくれたのは大明だけ。
だから、青柳監督に恩返しがしたい!」
吉井、
「俺も同じだ!
だから、俺は陸を応援したいんだ!
素人だけど才能のある奴を俺もこの目で観てみたい。」
中山、
「俺は、未だにプレッシャーに弱いで大事な試合は下痢、中学は全国大会に行ったんだけど、二回戦で試合前に下痢でトイレに二時間こもって…結局は試合には出れなくて試合は負け…
でも、青柳監督は、ちゃんと、前の試合から自分を見てくれてた。」
田中、
「青柳監督て、そんな人なんだよ…
だから皆んな付いてくるし、いつの間にかチームが一つになるんだよ。」
亀井、
「そうそう、最初の龍馬の態度は許せなかったけどね!今は一番チームの事を考えててくれてる。」
星、
「皆んなも最初は好き勝手だったよ。
こんなチームで三年間も一緒に生活するのかと思ったら、地獄が始まると思っていた。」
「お前達!いつまで起きてるか! 早く寝なさい!」
階段の下で青柳監督の怒鳴り声が聞こえた。
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