第13話
一三、過去を求めて
三年生も去り、二年生、主体の新チームが正式ではないが、練習試合に合わせて主力十六人の発表がされた。
しかし陸は引き続き、背番号一六番のマネージャーだった。
どうにか投げ方、取り方、打ち方は素人に毛が生えてきた位にはなってはきたが、素質だけでは周りの特待生と実力の差はかなり有りレギュラーナンバーを貰うなんて失礼だ。
このまま、最後までマネージャーなのか?
他校は夏休みなく練習に明け暮れるが大明学園は三日間の休みがあった。
寮に入っている子は親元に帰ったりとリラックス出来る三日間だ。
陸は、おじいちゃんの生まれ育った長崎に行きたいと親に言った。
二泊三日の始めての旅行が始まった。
義男が車を運転し車内で、私は幼児期の話や思い出話をした。
「長崎の田舎で生活していた私達、家族は家で取れる野菜や海で取れる魚で贅沢じゃなかったが普通の生活をして国民学校に行かして貰った。そこで、野球を始め甲子園に出場して職業野球、今のプロ野球に声がかかったんだよ。
親は反対だったけど…畑を継いで貰いたかったと思う。
卒業を期に大阪に行った。
甲子園で投げていたんだぞ!まぁ、そこそこは活躍したけどね。
遠征で列車に乗り込んだ時、隣に座っていた人が春江だった」
「じいちゃん、ナンパしたの?」
「ナンパ?」
小百合が横から、
「声を掛けたて事ですよ。おじいちゃん。」
私は、「そう、そうナンパした。」
車内は爆笑になった。
長崎に着き、私の住んでいた家は無く小さなビルが建っていた。
近くに私の先祖が眠る墓に行った。
私の両親も入っている。
「ごめんな!親より先に死んで」
陸や家族は不思議な感じだった。
続いて、長崎の原爆資料館や平和公園に行った。
私が死んだ翌年、広島と長崎に原爆が…日本の勝利を確信していた国民は、こんな悲惨な事に…私達は騙されていたのか?
ホテルに着き豪華な夕食がテーブルに並んだ。
「こんな食事、戦時中じゃ考えられない!幸せな世の中だ。」
しかし、家族に言えない事があった。
「お酒が呑みたい!」
陸、早く成人になれ!
義男が
「そう言えば、お父さん、言い忘れてた事があった。
おふくろが亡くなって四年前にお父さんとおふくろが入る墓を建てたんだよ。
のちのちは自分達も入る予定だけどね!」家の近くだから帰る前に行きませんか?」
「義男、小百合さん、ありがとう。墓まで建ててくれて…」
しかし、言うの遅すぎるんじゃないかな?
もう、半年以上経ってるよ…。とは言えなかった。
旅行の帰りに、自分と春江が眠る墓参りに行った。
不思議な気分だったが、涙が溢れてきた。
「春江、すまなかっね…良い息子に育ててくれて、俺は早く死んだ分、今を生きてるよ。…」
私は知っている。
義男も小百合も、毎朝、仏壇で、お供えを
し、手を合わせ、朝の線香の香りが私を落ち着かせてくれる。
陸も時々、春江に話し掛けてる。
いい家族だ。
夏休み最後の一日は診察日だ。
いつもの検査と診断テストが行われ、文章を書いたりした。
私の文章の中に、ゑ、ゐ、など昔のひらがなが書かれていた。
鬼塚先生は、考えて言葉に出るだけじゃなく体でも、動ける事に気付いた。
だから左で投げた方が無理なく投げられるのか…。
しかし、脳の大きさは陸が六〇%私の脳は四〇%と確実に小さくなっている。
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