第12話



一二、 県大会決勝

 

 順調に勝ち進み、大明学園は決勝へと駒を進めた。

 決勝戦

  大明学園✖️小倉学園

 全試合、連投している龍馬は疲労が目に見えて解る。

 この日はプロ注目の小倉学園、吉永と龍馬そして打者として今年一番の注目打者、二年生の新井が、出ている事でスカウト陣が、この一戦に注目をしている。

 夏の日差しが龍馬を襲って見えた。  

「龍馬、ちゃんと、水分取ったか?

 無理なら、青ボス(青柳監督、野球部の中では皆、陰で言っる)に言えよ。」

「ありがとう。陸、俺は先輩の為に投げきる。」

 暑さの中、龍馬と小倉学園の吉永の息詰まる、投手戦となった。

 二人は三振の山を築き、一球、一打にスタンドはゆれた。

 三年生にとっては最後の大会。悔いを残さない最高のプレーをした。

 チームが一つになっている。

「龍馬、落ち着け!もう、お前しかいない。俺達を甲子園に連れていってくれ!」

「はい。解りました。」

 龍馬は、自分勝手にしていた自分を思い出し、涙を袖で拭いた。

 八回裏、小倉学園は二アウト一、二塁、初めて、得点圏にランナーを進めた。

 続くは四番、こちらもプロ注目の新井、監督は敬遠も頭に入れたが、龍馬と同じ二年生、勝負をさせてやりたかった、満塁策は避けた。

 陸はストレートが甘くなったのに気付き監督に告げた。

 監督は、タイムをかけ、陸にマウンドに行かせた。

「ストレートが甘くなり始めた。

 この新井だけは、フォーク中心で行こう。四球でも構わないから!甘く入らないで」

 カーブでカウントを稼ぎ新井を追い込んだ。

 決め球はフォーク…しかし、フォークは甘く入ったら打たれる。


 ストライクからボールになるコースにいけば、カウントは2ストライク3ボール。

 もう、ボールは許されない。しかし、甘く入れば…

 新井は、もうフォークは来ないと読んだ。

 龍馬は、満塁覚悟で腕を強く振った。

 ストライクからボールになる最高の球だ。新井のバットは宙を切った。

 三振!バッターアウト!

 

 九回表、すでにツーアウト…

 バッター、佐々木。

「陸、狙い球は?」

「もちろん、ストレート!待ち。」

 佐々木は、追い込まれた。

 ストレートが来ない。

 陸に、また、やられたか?

 いや、ストレートを待つ!

 吉永の投げたボールはストレート!佐々木はフルスイング。白球は、スタンドに吸い込まれた。

 後続は倒れたが大明学園が先制した。

 九回裏、1対0

 小倉学園の攻撃

 龍馬は疲れからか、球威も落ちコントロールもバラツキ始めた。

 先頭打者に四球を出してしまった。

 青柳監督は、交代も考えたが、龍馬に代わってこの場面をしのげる、ピッチャーはいなかった。

 龍馬は一呼吸、おいてキャッチャーのサインを覗きこみ渾身の力で打ち取った。ショートゴロ、ゲッツーと思った時、ショートがエラー…

 ノーアウト一、三塁になった。

 龍馬は、

「ドンマイ!ドンマイ!元気出して行きましょう!」

 龍馬は笑顔でセンター方向を向き野手に両手を上げ手を振った。

 陸は、

「じいちゃん、龍馬変わったね!」

「ほんと、変わったな!」

 龍馬は続けて二人を三振にした。

 2アウト一、三塁、

 続くバッターは四番、新井

 青柳監督は敬遠のサインを出した。

 マウンドにナインが集まり、監督がタイムをかけ陸に龍馬の体調を聞きに行かせた。

 陸は、「龍馬、大丈夫か?」

 

 ナインは集まり、「すまない!新井との勝負を見たかったけど」

 

 陸は最大の嘘を言った。

「監督は勝負だってよ。思い切り行けって」

 私は、びっくりした。

 「陸…それはまずいぞ!」

「いいの、いいの!」

 青柳監督は、ベンチに戻って来た陸に、

 「陸…俺の指示を無視して、龍馬に勝負と言っただろう…明日から素振り五〇〇回を追加して一五〇〇回だからな!」

「はい…」

 龍馬は、残された力で新井との勝負にでた。

 先程のストレートではない。魂がボールに伝わっている。

 新井も必死についてくる。

 龍馬は追い込んだ。

 最後は決め球のフォークと思ったが、キャッチャーの本田(三年生)はあえて、龍馬の最高の球、ストレートを要求した。

 龍馬は渾身の力で新井の胸元に最高の球が来た。

 新井は退け取らず脇をしめフルスイングし白球はセンターバックスクリーンに消えた。


  ゲームセット!

 その夜、残念会が行われ、監督から、

 「私は最後の最後で迷ってしまった。

 勝負に勝ちたいばかりに、敬遠を送った。

 もしかしたら、この試合、勝っていたかも知れないが、勝負に勝っても、成長出来ない試合は、負け試合だ。

 一人で投げ抜いていたら龍馬は甲子園で、おそらく故障してただろう。

 それを陸から教わった。

 勝負は白か黒、迷ったら負け。

 監督としてまだまだだ。

 三年生、甲子園に連れて行けなかったけど、この三年間、みんな成長出来たと思う。付き合ってくれてありがとう。」

 

 続いて、主将の橋本が、

 「監督、三年間、ありがとうございました。そして、一人で投げ抜いた龍馬にはほんとうに感謝です。

 そして、陰で支えてくれたマネージャー四人、ありがとうございました。」

 周りで拍手が起きた。

 

 

   

  

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