第9話


 

 

   九、恩師との出会い

 

 陸は野球部の門を叩いて、部室には厳つい人物がいた。

 

 その人物こそ、陸の人生を左右する事になる青柳監督だった。

 

 大明学園は、青柳監督、就任以来、全国大会の常連校になっていた。

 しかし、全国大会では、優勝経験がなく二回戦突破がやっとの状態が続いていた。

 

「監督ですか?自分を野球部に入れて下さい。」

 私はホッとした。ちゃんと敬語で話せたと。

 青柳は陸に聞いた。

「何処の中学で野球をやっていた?」

「中学で野球なんてしてないですよ。

 プレステなら高校から、」

 青柳監督は目が点になった。

 野球部員は、ほとんどが特待生、まして、野球経験がプレステとは大笑いした。

 私は終わったと思った。

 青柳監督は、来る物、拒まず!誰でも何か良い物を持っている!

 これが青柳監督のモットーだ。

「今日からおいで!」

 龍馬が近づいて来た。

「待ってたぞ、陸!」

 

 二〇〇一年三月、陸の野球人生のスタートが始まった。

 まだまだ龍馬も二年生から相手にされていない。

 イジメではないが完全なる無視だ。

 秋季地区大会では、一人のエラーで龍馬がペースを乱し甲子園の道は無くなった。

 陸と友達になり龍馬は距離を縮めてるけど、先輩からは受け入れて貰えない。

 私は思った。

 まぁ〜仕方ない事だ。スポーツは上下関係の世界。崩れた関係は、難しいが野球は一つになれる。きっと大丈夫!

 監督が来て、陸の自己紹介をしてくれた。

「高橋陸君、野球経験はプレステだ!」

 笑いを取ってくれたつもりが、やたら周りは冷めていた。

 きっと、素人の遊びに付き合っていられないと思ってる。

 キャッチボールの相手を龍馬がしてくれた。

 暴投連発、

 「あいつ、本当の素人やん!」

 しかし、監督も直ぐに見抜いた。ただ者じゃない!

「陸を呼び、明日から電車通学は禁止!家から学校まで、何キロだ!」

「エ〜ッ…一〇キロです。」

「行き帰り走りだ!」

 陸は練習をやめて早々、退部を決めた。

「じいちゃん、今の聞いた?、アイツ、鬼だよ!」

 私は、陸に効く怒り方を一瞬考えた。

「お前は一億円欲しくないのか?」

「欲しい!解ったよ。走る。」

 翌日から龍馬も一緒に走って学校に行った。龍馬は陸より二つ先の駅からだから一五キロはあった。

 馬鹿だな!あいつ…

 そして、陸には特別メニューが追加された。

 部室の裏で島崎副部長とのシャドウピッチングと徹底的に素振り千回。

 もちろん、皆んなとは別メニュー…

 周りからは、いろんな、言葉が飛んでいた。

「あいつ、邪魔になるから特別メニューだっってさ!」

 「キャッチボールも出来ないから投げ方の練習だってさ!笑える〜」

 私は、監督の考えを解っていた。

 先ずは、走りこんで身体作り。

 ボールを投げる正しいフォーム

 ボールを確実に捕らえるバッティングフォーム。

 副部長と、そして私の二人で徹底的にに野球の体に作りあげた。

 副部長は、ある動作で何かを感じた。

「陸、左で腕を振ってみろ!」

 だいたい陸は右投げ、そして私は左投げ、ついつい陸に教える時、左手で投げる癖で教えた。陸は、その動きに合わせて左手の腕を振っていたのだ。

 陸は左手で腕を振った。

 右も左も、アンバランスだが左の方が体が馴染んでいる。

 私は思った。そりゃそうだ。

 左の方が投げ方が頭に残ってる!

 陸は嫌気がさしていた。

「早く、ボールに触りたい!何で俺だけ?」

 私は、ダダをこねる孫を、

 「頑張れ!頑張れ!」しか言えなかった。

 桜の花が校庭にも咲き始め、新入部員が一〇〇人近く入って来た。ほとんどが特待生だ。

 新入部員にとって龍馬は、憧れのスターだ。

 龍馬が投げる。ブルペンで食い入るように見ている。

 その隣、部室の裏には陸の姿…

 「何、あの人?変な投げ方してる。

 あははっ…」

 

 今日は二カ月ぶりの通院日、レントゲンとCT検査の後、鬼塚先生の診断だ。

 両親と共に、大倉病院に行った。

 結果は2つの脳の大きさが、五〇%.五〇%になっていた。

 陸は思った。

 いずれ、自分の脳が大きくなり、おじいちゃんが居なくなる事を…

 おばあちゃんとの別れ、今度は、おじいちゃん?

 まだ、俺、おじいちゃんから、いろいろ教えて貰っているけど、自分は何一つ出来ていない。

 鬼塚先生は、私に話しだした。

「お爺さん、いや、和則さん、何か変化は?これから先、おそらく、和則さんの脳は消滅するでしょう。残念ですが…でも、それが、陸君にとって本来の姿であり、陸君が完全に健康な身体に戻る事なんです。

 早くて二年…

 前例が無いから何とも言えませんが…」

 私は答えた。

「私は怖くはありません。一度は死んだ身、しかし、最後まで見届けたい事があるんです。

 陸が自分の力で自信を持って生きて行けるまで…それと、義男さん、小百合さんも…」

 両親は下を向き、うなずいた。

 

 学校では友達も出来、笑顔が溢れるようになった。

 龍馬はだいたい学校じゃ有名人でイケメン!性格が良かったらモテないはずがない。

 龍馬のファンクラブなるものが発足たれた。

 しかし、龍馬は浮かれる事なく陸、そして友達に囲まれて楽しい学園生活が送れる様になった。

 明美とも、ぼちぼち逢ったり携帯電話で話したり字を送ったりしている。

 明美は陸の変化に、いかさか疑問を感じた。

 何か変?事故後、陸は少しずつ変わってる。私と居る時も、時々、一人言を言ってるし、さては、女?

 新しい、陸の調教師が出来たのか?

 不安で一杯になった。

 尾行だ!

 朝から明美は学校を休み、陸の家の前で隠れてた。

 陸が玄関から出て来ると向こうから龍馬が、走ってやって来た。

 「行こうかぁ!」

 明美は、唖然とした。

 男??

 陸に、そんな趣味があるなんて!

 陸に問い詰め、誤解は直ぐに溶けたが、陸の変化には疑問が残っていた。

 

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