第8話


 

 

  八、自分の道は?

  

 あの日以来、家族は冷静さを演じ両親も、ぎこちなさを感じたが、陸には強い気持ちで積極的に接している。

 明美には、どうしても、この事は言えなかった。

 何故なら二人でデートしていても私が居ると思えば、二人は気を使うだろうし…

 明美と会う時は私は寝た。

 陸は私のイビキを確認し明美との楽しい時間を過ごしていた。

 今日も明美と会った。

「何か最近、陸、明るくなった気がする。学校の友達、龍馬て子、有名だよね!プロ野球に行くかなぁ〜

 プロに行ったら契約金、一億て噂だよ。凄いね!」

「一億?? あいつ、そんな凄い奴?

 俺と龍馬、何処が違うんだろう。

 全てにアイツに勝ってるんだけど…』

「馬鹿じゃない?努力の差だよ!陸は遊んでばかりだし努力、全然してないし!笑える〜」

「なるほど!納得」

 翌日、学校の教室で陸は龍馬に話し掛けた。

「龍馬、飯時間にキャッチボールしないか?」

 龍馬は唖然としながら、

「いいよ!でも、俺の球取れる?」

「馬鹿にするな!」

 昼時間、龍馬はグローブを陸に渡した。

 私はワクワクした。

 最初は龍馬が軽く投げてくれた。

 陸もぎこちない捕り方だか、何なく取れたが、投げ方が変。

 全くの素人投法だ。

 私は陸に伝えた。しっかり腕を振って相手の顔を見れ!

 指先にボールを引っ掛けろ!

 私は久しぶりに熱くなった。

 しかし、陸は体と考えてる事が、なかなか上手くいかない。

 キャッチボールでも暴投ばかりだが、私も龍馬も気付いた。球質が違う。この球の回転は…それとキャッチングだ。

 龍馬はだんだん、スピードを上げて来たが陸はなんなく取った。

 龍馬は面白がってフォークボールも投げてみた。

 陸は、最初は驚いたが平然とキャッチした。

 龍馬は唖然とした。

 チームのキャッチャーでも俺のフォークボールを取るのに時間が掛かったのに…しかも、サインなしに投げて楽に取るなんて…

 陸としたキャッチボールは凄く楽しかったが龍馬は、あえて陸を野球部には誘わなかった。

 何故なら、陸の意思を尊重して待つ事にした。

 「陸と一緒に野球がしたい。」

 

 陸もよっぽど、楽しかったんだろう。

 陸は、私に

「じいちゃん、近くにバッティングセンターが有るんだけど行かない?俺にバッティング教えてよ。」

「バッティングセンター?何だそれ?」

「機械がボールを投げてくれるんだよ。

 凄い早いボールも投げる見たいだし…自分は行った事は無いけど。」

「へぇーっ、凄いな、じいちゃんが教えてあげるよ。」

 私は初めて、自分で、じいちゃんと言った。

 何故だろう。

 おそらく、私は陸に強い愛情を感じたから出た言葉だろう。

「脇をしめろ!最後まで球を見れ!当たる時だけ力をいれろ!」

 私は野球の血が騒ぎ、熱くなった。

 陸も私の指導に答えたが、なかなかバットにボールが当たらない。

 陸は悔しがってる。

 だいたいの競技は直ぐに体が反応出来るはずだったが、陸はイラ立っていた。

 私は、陸に笑いながら言った。

「なかなか、上手く行かないから野球は楽しいんだよ。

 じいちゃんだって、結局、上手くなれなかった。

 打てる時もあるし、打てなくてエラーしたり、じいちゃんはピッチャーだったけど、よく打たれたよ。」

「でも、おじいちゃんはプロ野球に入ったんだよね。」

 「でも、じいちゃんは背が小さかったから、いくら努力しても限界があったのかなぁ… でも、陸には、じいちゃんには無い、高い身体能力がある。背も高いし…身長はどれ位ある?

「187㎝」

「立派な身体だ。」

 帰り道、よっぽど悔しかったのか、二人の会話はその後、無かった。

 

 翌日、義男が新聞を見てると、広告に福岡大丸にて、【プロ野球の歴史展】の開催が載っていた。

 義男達、家族は、日曜日、福岡大丸に出掛けた。

 私は、戦前、戦後のプロ野球の歴史に何故か懐かしさと未来の歴史に目を奪われた。

 沢村栄治や歴史に名を連ねた名選手の写真が飾られていた。

 その中で、私が目に付いたのは、メジャーで活躍していた野茂英雄の写真だった。

 義男、今、アメリカとは上手くやっているのか?

「戦争後、アメリカとの関係は良好ですよ。

 自分は野球、あまり詳しくないですが、大魔神て呼ばれてる佐々木とかメジャーで活躍してるし、今年はイチローもメジャーに行くみたいですよ。」

 

 そうか、日本人もアメリカで活躍出来る時代が来たのか…

 その中に、大阪野球クラブの選手達の写真があった。

「おじいちゃん、この中に写ってる?」

 

 あぁ、写ってるよ、

 あっ…。これが、俺だ。

 と陸の手を借り指さした。

「おじいちゃん、本当に野球選手だったんだね!

 でも、背は高くないね…」

 皆んなも、そんなに高くないけど、私は、どちらかと言うと小さい方だったなぁ…。

 

「お父さんって結構、男前ですね。

 あなたとあまり似てないわ!」と小百合は義男の顔と見比べた。

「……。」

 

 義男は、家の棚にあったアルバムの写真を思い出した。

「そう言えば、これと一緒の写真、見覚えがあるぞ!

 他にも、二、三枚、お父さんが写った写真があった気がする…。」

 

 義男、今ごろ、思い出すのか…

 

 陸は、野球をしていた、おじいちゃんの姿に憧れを感じた。

 

 翌日、明美と逢って聞いてみた。

「明美、一億円欲しい??」

「何言ってるの?欲しいに決まってるでしょ!

 でも、ちゃんと働かないと、お金は貰えないんだよ。馬鹿じゃない!」

 

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