第7話


 

 

  七.お父さん?

  

「おじいちゃん、戦争って、怖くなかった?

 国の為に命を落として…どうかしてるよ!国が何かしてくれたの?

 奪う物だけ奪って家族まで…」

 私は陸の問いかけに返す言葉が無かった。

 この住みやすい世の中、贅沢で疑問があったが、ここには自由がある。

 誰にも、邪魔されずに、自分の道を進んでいける。

 私は義男と話したい。

 我が息子と…

「おじいちゃんが話したいなら構わないよ。

 お父さんに、話してみたら? お父さんだって、最初は信じないと思うけど…。」

 

 今日は、病院の通院日、両親と一緒に大倉病院に行った。

 再度、CT検査とレントゲン撮影が行われ、鬼塚先生の診断を待っていた。

 先生も陸の来る日を待ち望んでいた。

 何故なら、その後の陸の経過が早く知りたかったのと、やはり、両親に、はっきり伝えないといけない義務があると感じた為だ。

 順番待ちしてる時、私も陸も先生から、どんな事を言われるか不安はあったが現実を詳しく理解したい気持ちでいっぱいだった。

 陸が呼ばれた。

 鬼塚先生は、「すみません。報告が遅れました。

 実は…陸君には二つの脳が存在してます。

 信じがたい事です。

 この様な事例は全くありません。

 報告が遅れたのは、陸君の事が世間に知れて話題になるのと…それも有りますが、私の勝手で陸君の、これから先の状況を学会に発表したかった為です。

 申し訳ございません。

 これが陸君のMRの脳の断面図です。右が二カ月前、意識が戻った時の断面図です。

 見てもわかる通り、陸君の脳の中に二つの脳が有ります。

 陸君は、本来の脳は約四0%新たな脳は六0%でした。

 しかし、今日、撮影した、左の断面図は多少、陸君の脳が四五%で新しい脳が五五%

 すなわち、陸君の脳が元に戻るかも知れません。

 今後の観察が必要です。

 もし、宜しければ、内密で陸君を任せてくれませんか?

 勝手ですが、学会の発表は絶対、名前を出しません。お願いします。」

 

  鬼塚先生は一方的に話し続けた。

 話を聞いた私と陸は、何となく理解出来たが、義男と小百合は何が何だか理解不能だった。

 唖然とするばかりで先生の話しを聞くだけだった。

 先生は陸君に質問をした。

「意識が戻って、変化は有る?」

 

「僕の中におじいちゃんがいるんです。」

  陸は、全てを先生と親に話した。

 

 そして、私は話し出した。

 私が特攻隊でぶつかる瞬間から今までの事を洗いざらい話した。

 義男と小百合は、お互いの目を合わせ、呆然としている。

 確かに先生の言う通り、六割方、私は陸より話してたと思った。

 その日の夜、私は義男の部屋に行き、義男と話した。

 小百合にも隣に来て貰った。

「すみません。

 義男さん、小百合さん、私は、あなたの父、和則です。少し、話しをさせて下さい。」

 何とも不思議な感じだ。

 体は陸で、喋っているのは、私、和則で声は陸。

 そして、私は二四歳、義男は五六歳、小百合は五〇歳だ。

 自然と息子でも敬語で話してしまう。

 何だか訳が解らない。

「私が、生まれたばかりの義男と妻、春江を残し戦場に行った。

 毎日、家族の写真を見て忘れる事は無かった。

 もう、つかまり立ちは出来ただろうか?

 もう、おしゃべりしてるだろうか?

 遅れて届く妻からの手紙が待ち遠しいかった。

 特攻隊に任命された時、義男との会話が出来ないまま、私は死んでしまうんだ。

 涙が止まらなかった。

 本当に迷惑を掛けましたね。義男さん…

 父親らしい事すら出来ないで申し訳無かったです。

 春江にも迷惑掛けたて…一人で義男さんを立派に育ってあげて…お母さんは優しかったですか?生活は苦しく無かったですか?

 兄弟が欲しかっただろうに…

 何も教えてあげれなくて申し訳有りません。」

 義男は、目をつむり

 「お父さん、敬語はやめて下さい。

 お母さんは優しかったですよ。

 でも生活は苦しかったけど… よく、言われました。自分は、父親にそっくりだって。顔も覚えてないけど、凄く誇りに思ってました。」

 陸の目から涙が溢れて落ちた。

 私の感情から出た涙だか、陸の感情も私は感じた。

 義男は引き続き話し続けた。

「あれから、母の田舎、ここ福岡県、久山町で暮らしました。

 贅沢じゃなかったけど、田んぼと畑があるからどうにか生活出来てね。周りにも助けて貰いました。

 そして、高校卒業後は近くの工場と田んぼを守って小百合と結婚したんだ。

 結婚が遅かったのもあるけど、陸は四〇過ぎての子で、どう接したらいいか解らないでね…。」

 小百合も続いて話しだした。

「初めまして、お父さん。

 小百合と申します。

 お母さんには、大変、お世話になりました。

 陸の面倒から全て助けて貰って…共働きで家の事は、お母さんがやってくれてました。私よりも、お母さんの方が陸に詳しくて、本当に恥ずかしい限りです。」

 私は、感じた。

 義男や小百合さんは陸の内気な性格は自分達に有ると…

「二人共、自信を持って下さい。

 陸は優しい子です。

 今はまだ青いけど、必ず、解ってくれます。

 絶対に弱さを見せないで下さい。陸が見てますよ…」

 陸は黙って、下をうつむいているだけだった。

 私はこれから先、陸の体に私が居る事を忘れて今まで通り、陸として接して下さい。とお願いした。

 

 

  

 

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