第4話
「くそ――嘘、だろうッ!?」
「退きなさい! 押しつぶされるわよッ! みんなッ!」
激しく暴れ回る土人形。そこから少し下がった位置で、静馬は歯噛みをする。
その頂上では、フェンたちが堪えているが、いつ振り落とされるか分からない。
アウレリアーナは騎士たちに指示を飛ばしながら、静馬の腕を引っ張る。
「シズマ、貴方も下がりなさい!」
「くっ――どういうことだ……!」
「――多分、血を吸い過ぎて、力が強大化したのよ……!」
アウレリアーナは静馬を引っ張るように後ろへ下がりながら告げる。
「ウェルネスとカグヤの激突の舞台が、この土地だった……そのとき、流した血があまりにも多すぎたの!」
(なるほど、道理で――!)
その言葉で、全ての納得がいく。
何故、ミアが力を小さいとはいえ、封印を掛け直すことができなかったのか。それは、この地に流れた血のせいで、怪物の力が強大になり過ぎたのだ。
まさに、ウェルネスの業――人を犠牲にし続けたツケがここで回ったのだ。
「――シズマッ!」
瞬間、アウレリアーナが叫んだ。その視線の先を見て、静馬も目を見開く。
上空で放物線を描いて飛んでいく――小さな、白い髪の少女。それは間違いなく、ミアだ。さすがの激震に耐え切れず、投げ出されてしまったのか。
「行きなさいッ! シズマッ!」
アウレリアーナの声――反射的に、静馬は駆け出していた。
指笛を吹き、馬を呼び戻す。全力疾走のまま、その馬に飛び乗り、肚を蹴った。
ミアは身を捩って体勢を立て直しながら、両手を広げる――下から吹き上げる気流で、なんとか落下速度を殺している。
ミアと静馬の視線が交錯する――静馬は、さらに馬を駆り――。
不意に、馬が横っ飛びに進路を変えた。
「――ッ!」
直後、彼が走っていた場所に巨大な土の塊が落下し、轟音を立てた。気が付けば、周囲には土人形たちが集まりつつある。
(いや、違う……! あいつらは、ミアを狙っていやがる!)
それに気づいた瞬間、肚の底から血潮が猛った。激情のまま、雄叫びを上げる。
「退けええええええええええ!」
気合いと共に刃を大きく振るう。
気迫を伴った大きな真空の斬撃が、土巨人たちを吹き飛ばす――だが、次々に土人形たちは行く手を阻むように動く。
息が切れる。視界が霞んでくる――静馬は己を叱咤して太刀を構える。
だが、それでも――。
(追いつけ、ない……!)
ミアは風に揉まれるようにして、遠くへ遠くへと流されていく。
直線で突っ切れば間に合うはず、だが、馬が迂回路を選択しているのだ。主の限界を、すでに感じ取っているのだろう――。
「ふざ、けるな……ッ!」
気迫を四肢に叩き込む。気合いで肺に空気を叩き込む。
目尻が裂けんばかりに目を見開き、太刀を構えて馬の弱気を叱り飛ばす。そのまま、加速しようとして――その前に、ずん、と立ちふさがる影――。
「おおおおおおおおおお!」
すれ違いざま、刃を振り抜いた。したたかな手応えと共に、爆散する土人形。
だが、その一瞬が、致命的だった。
その瞬間で――静馬に、分かってしまった。
(届かない……絶対に)
無理だと分かってしまった。ミアの行先に――魔人たちが待ち構えている。
両手を突き出し、押しつぶそうとしているのだ。
そこに、静馬はどんなに急いでも、間に合わない。
掌から零れ落ちるように――命が、失われてしまう。
(そんな……ここで、終わるのか……)
思わず絶望しかけたその瞬間――その視界に、あり得ないものが映った。
「――え」
目を疑う。あまりの酷使に、幻覚を見ているのか、と疑うほどだった。
何故なら、彼はここに来るはずがない。
ここは戦場――騎士たちが戦う独壇場だ。
彼は隠れているしかないはずの人間、そのはずなのに――。
その馬を駆り、必死に駆けている、その男の姿がそこにあった。
ゲイリー・ルードマンの姿が。
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