第2話

「――白炎の、魔剣姫……ッ!」

 その後方に駆けるアッシュは、アウレリアーナの刃に思わず魅入った。

 彼女の抜いた刃は、青白い炎を宿し、まるで太陽のように眩い輝きを放っている。なるほど、その異名に相応しい剣がそこにはある。

 それに並び立つように、静馬も刃を振るう。その刃は、妖しい紫紺の光。その刃の切れ味はますます冴え渡っていく。

 至高の刃が、互いに補い合うように猛然と道を斬り拓く。

 まるで、二刃一対の境地――その刃金の翼に導かれ、アッシュは馬を駆った。

「フェン、ミア――いけそうかッ!」

「は、はい……っ!」

「もちろん……っ!」

 アッシュの問いに、フェンとミアは頷く。後ろに乗ったフェンが、腰に腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる――その感触を確かめながら、アッシュは馬の肚を蹴る。

 隣には、ユーラが馬を駆り、その後ろにはミアが乗っている。

 彼女たちは馬を気にせず、必死に意識を集中させ、巫女としての力を蓄えている。その周りには、淡い光が宿りつつある。

 そのまま馬の脚を緩めず、一気に斜面を駆け上がり――抜けた。

 あの封印の祠があった丘の跡地――大きな、陥没地帯。

 その中央に、その巨人はいる。土と岩が入り交じった、巨大な怪物。

 少し前までは、顔しか出ていなかったが、今はその身体の上半身が露わになっている。少しずつ暴れて、抜け出そうとしているのだ。

 あれに比べたら、他の巨人などちっぽけなもの――まるで数倍の巨躯なのだ。

 思わずアッシュは舌打ちし、馬を静馬たちに並べながら叫ぶ。

「あの頭まで、登らないといけないのか!」

「そうするしかないでしょう! 肚を括りなさい!」

 アウレリアーナが叫び返す。深紅の瞳が灼熱の眼光を放ち、馬をさらに駆る。

 それに駆り立てるように、全員がそれに続く――瞬間、巨大な土巨人の首が、ぐりん、と勢いよく回った。虚ろな眼窩が、アッシュたちを見る。

 瞬間、口を大きく開いた。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 凄まじい大音声が放たれ、鼓膜が揺れる。馬たちも驚き、棹立ちになるのを必死に手綱を捌く。落ち着かせたのも束の間――小刻みな地鳴りが響く。

 静馬は何かに気づいたように振り返り、舌打ちをした。

「あいつ――呼んだのか!」

 アッシュも振り返り――思わず、息を呑む。

 つい先ほど、一行が越えた斜面を登り――無数の、土巨人たちが姿を現していた。猛然とした勢いで、こちらに向かってくる。

 判断は一瞬だった。全員と目配せを交わし合い、馬の肚を蹴る。

 もはや、進むも退くも地獄――なら、もはや行くしかない。

 一気に距離を詰めていくアッシュたち。だが、それよりも、背後からの土巨人たちの方が早い。ユーラは舌打ち交じりに振り返り、何かを後ろに放った。

 無数の、竹筒――それが、地面に落ちた瞬間、凄まじい破裂音が響き渡った。

 爆炎が立ち上り、直撃を受けた土人形がひっくり返る。

「いいぞッ! ユーラ!」

「ですが、少ししか、保ちませんッ!」

「その一瞬があれば、十分だ――アウラッ!」

「分かったわ!」

 以心伝心とはまさにこのこと。その言葉と同時に、アウラは自分の剣を静馬に向かって投げ渡す。彼は中空でそれを掴むと、最上段に構えた。

 瞬間、凄まじい勢いで気迫が吹き荒れる。燃え盛る白炎の刃が、妖しく輝きを放つ。

 気迫と魔剣が重なり合う――それが一体となり、業火が螺旋を描く。

 その圧力に、思わずアッシュは目を背ける。息が詰まるほどの、濃厚な気迫が場を支配し、それを余すことなく、彼は刃に注ぎ込みながら力を込める。

「絶技――ッ!」

 彼は裂帛の気合と共に、二人の刃を引き絞り――満身の力で一気に振り下ろす。


「――〈竜花旋風りゅうかせんぷう〉ッ!」


 瞬間、灼熱の業炎が、宙を駆け抜けた。

 全てを焼き尽くす炎が、眩い光となって世界を白に染め上げ、奔流となって全てを呑み込んだ。白熱した大気が引き裂け、大地は赤く煮えたぎる。

 まさに、竜の息吹――気迫の力によって最大限引き出された、魔剣の真髄。

 その直撃を受けた土巨人は、ぐらりと体勢を崩す――肩口は、灼熱に焼け焦げ、真っ赤に染まり――ぐらり、とその腕が大きく崩れて地に落ちた。

 馬の手綱を引く。瞬間、崩れた土巨人の腕が目の前に降り注ぎ、凄まじい轟音を響かせる。

 激しく揺れる大地、土煙の中でアッシュは迷わずに行動した。

「行くぞ、フェンッ!」

「ええ、行きましょう。殿下ッ!」

 馬から降り、目の前の土巨人にめがけて駆けた――皆の協力に背を押されながら。

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