第218話 それは嫉妬から始まる物語
ある休日の朝。
リビングで朝食を食べていると、柑奈ちゃんがなにやらこちらをチラチラと見てくる。
お母さんは早くから出かけていて、柑奈ちゃんとはふたりきりだ。
気になるので柑奈ちゃんと目を合わせてみると、ついに口を開く。
「姉さん 最近家に来たあの子、誰なの?」
美波ちゃんのことかな?
「新しいお友達だけど?」
「どこで拾ってきたの? 私と同じ学校じゃないでしょ」
「え? ああ、美波ちゃんは私と同じ年だよ?」
「そ、そうなの!? あんなロリっ子なのに?」
ロリっ子って……。
「まあ、確かに見た目は幼いけどね。でも美術部の部長さんなんだよ」
同好会だけど。
「へえ、そうだったんだ」
「安心した?」
「え? べ、別に何も心配とかしてないからね!」
「ふふふ」
嫉妬しちゃって、かわええのぉ。
朝食の後、今日は朝から柑奈ちゃんと遊びに出かける。
ひまわりちゃん、愛花ちゃんと一緒だ。
「え? 紅葉さんも出かけてるの?」
「はい。早くに出ていきました」
ひまわりちゃんも私たちと同じ状況か。
「これはお母さんと一緒にいった可能性大だね」
なら、行き先くらい教えてくれてもいいのにと思う。
私たちもひまわりちゃんも置いていくとは。
いったいナニをしているんだい、お母さん。
「まあ、私たちは私たちで楽しむとしましょうか」
「そうだね」
柑奈ちゃんはあまり気にした様子はない。
強がらなくても大丈夫だよ。
私からの愛をたくさん受け取ってね。
「それじゃあ何する? 走る? 泳ぐ? 山登る?」
「なんでそんなマッスルなの?」
「マッスルとは?」
しょうがない。
普通に遊ぶか。
そう思っていたら愛花ちゃんが私の隣でつぶやいた。
「海行きたいです」
「お? 愛花ちゃん、泳ぎたいの?」
自分で言っておいてなんだけど、泳げる季節じゃないんだよね……。
「海を見たいだけです」
「いいね~」
私も海を見るのは好きだからね。
よくひとりで電車に乗って海を眺めに行くものさ。
ついでに大きな橋があるとなおよい。
「さてさて、どこの海にどうやって行くかだよね」
一人旅なら電車で橋のあるところまで行くんだけど、さすがに付き合わせるわけにもいかない。
前にみんなで行ったところとかいいんだけどね。
急に行きたくなると、行けるところが限られてくる。
「話は聞かせていただきました」
「うわっ」
私が悩んでいると、いきなり隣から声が聞こえてびっくりした。
声の主は珊瑚ちゃん。
まったく気配を感じさせずに私の隣に来れるなんて……。
珊瑚ちゃん、成長したね。
「よくここにいるってわかったね」
「ふふふ、どこにいても耳を澄ませばなずなさんの声が聞こえてくるんです」
「え……。どうして?」
「24時間365日、なずなさんのことを考えているからかもしれません」
「私たち、出会ってからそんなに経ってないけどね。あと夜はちゃんと寝てね」
そうじゃないと心配になっちゃうよ。
「ご心配なく。夜は夢の中で会ってますので」
「そ、そうなんだ……」
これは愛されていると思ってよいのだろうか。
だとしたら嬉しいのだが。
「それではみなさん、あちらにお乗り下さい」
「おお~」
珊瑚ちゃんに視線を誘導された先には、いつもの大きな車と黒服のお姉さんがいた。
みんなが先に車へ乗り、私は黒服お姉さんに挨拶をする。
「本当にいつもすみません。ありがとうございます」
「いえ、私もファンクラブの一員として、なずな様に喜んで頂きたいだけですので」
「ファンクラブ?」
「……いえ、なんでもありません」
お姉さんは、一瞬「しまった」みたいな表情を見せて、何事もなかったかのように運転席へとむかった。
私も車に乗ると、珊瑚ちゃんがぴたっと隣に座ってくる。
車の中は余裕があるので、隣だったとしてもくっつくほどではないんだけどね。
せっかくなのでちょっと抱きしめる。
「ひゃわ」
う~ん。
体は柔らかいし、髪の毛はさらさらだし。
抱きしめているだけで幸せになれるよね本当。
しばらく珊瑚ちゃんの体をもてあそんでいると、するっと珊瑚ちゃんが離れてしまった。
さすがにやりすぎたか。
「そういえばなずなさん」
「はい、なんでしょう」
なんだか嫌な予感がする。
その予感は的中し、くるっと振り返った珊瑚ちゃんの目は、完全に光を失っていた。
「最近、藍沢さんに『なずちゃん』と呼ばれて鼻の下を伸ばしてるそうですね」
「呼ばれてはいますけど、伸ばしてはいないですね~」
あ、これだ。
今日の本題これだわ。
これ、柑奈ちゃんと結託してるでしょ。
「というか、さっきから雷の音聞こえるんだけど、何?」
外は晴れてるように見えるんだけどなぁ。
すると運転席のお姉さんが口を開く。
「あ、すみません。私の作業用BGMです」
「なぜ今」
タイミング良すぎですよ、本当に。
「えっと、じゃあ珊瑚ちゃんも『なずちゃん』って呼ぶ?」
とりあえず事態の収拾をはからないと。
そう思ったけど、なにか違ったらしい。
「そういうんじゃないんですぅ。私はなずなさんって呼びたいんですぅ~。む~」
どういうことだってばよ……。
まあ、頬を膨らませる珊瑚ちゃんがめちゃくちゃかわいいので、何もかもどうでもよいが。
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