第217話 親友美波ちゃん、お家へ呼ぶ
美術部同好会の藍沢美波ちゃんと出会って数日。
私たちはいろいろなことで盛り上がった結果、かなりの仲になっていた。
こんなに短い期間で仲良くなるなんて、自分でもびっくりだ。
そういえば美術部同好会と勝手に呼んでいるけど、本当の名前は何なんだろう。
覚えていたら聞いてみよう。
まあ、近いうちに我々の同好会に合体して自然消滅するだろうけどね。
ふははははは。
「なずなさん、すごい顔になっていますよ?」
「おっといけない」
いつの間にか目の前には苦笑いの珊瑚ちゃんがいた。
どうやら心の声が表情に出ていたようだ。
気を付けよう。
「そんなことより、ばっちり噂になっていますよ」
「噂?」
「はい。白河さんがあの美術部部長を落としたと」
「なぜそんなことに……」
確かに仲良くはなったけど、落としただなんて。
美波ちゃんの耳に入ったら大変だ。
と、そこにタイミングがいいのか悪いのか、噂の美波ちゃんがうちのクラスにやって来た。
「なずちゃ~ん! 来たよ~」
「いらっしゃい、美波ちゃん」
私は立ちあがり、飛び込んでくる美波ちゃんを受け止めてクルクル回った。
ちっちゃいので軽いのである。
「なずなさん、そういうのですよ」
「え?」
今のが噂になってるってこと?
そうか。
ならなるべく人目のつかないところでやるか。
「呼び方も変わってますし」
「それはまあ……」
私はだいたいの子をこんな感じで呼んでるしなぁ。
美波ちゃんの方は気付いたら変わってたし。
「あ、そういえば美波ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なになに?」
「ちょっと会って欲しい人がいるんだ」
週末。
私は美波ちゃんを家に呼んだ。
「ここがなずちゃんの部屋か……」
「自分の部屋だと思ってくつろいでいいからね」
「え、住んでもいいってこと?」
「そこまでは言ってない」
まあ、妹感あるし、住んでても困らないけどさ。
「それで、会って欲しい人っていうのは?」
「うん、もうすぐ来ると思うんだけどね」
と、タイミング良くインターホンがなる。
「来たかな」
私は玄関にむかい、お客人を家に入れる。
「お姉ちゃん、来ましたよ」
「いらっしゃいかおりちゃん」
「おじゃまします」
「さくらさんもありがとうございます」
私が招いたのはかおりちゃんだ。
付き添いでさくらさんにも来てもらった。
さくらさんはリビングでお母さんとおしゃべりするそうだ。
後で紅葉さんも来るらしい。
マザーズが揃うわけだから、その内アニメショップにでも繰り出しそうだ。
私はかおりちゃんを連れて自室へとむかう。
「お待たせ~」
部屋に戻ると、なぜか美波ちゃんは正座して待っていた。
初めての部屋にひとりぼっちで緊張したのかもしれないね。
「その子が言ってた子?」
「うん、かおりちゃん。私の未来の花嫁だよ」
「え、どういうこと?」
「私が将来結婚できなかったら、その時はかおりちゃんが結婚してくれるんだ」
「え、どういうこと!?」
まあ、ちょっと簡単には理解できない関係かもしれないね。
そんなことよりもだ。
今は大事な用事があるのさ。
私は美波ちゃんの耳元に顔を寄せて囁く。
「あの子に妄想現実を」
「なっ」
言ってすぐにものすごく驚いた表情をする美波ちゃん。
「ま、まずいですってアネキ!」
「大丈夫だって。バレたらこう言えばいいんだよ」
「なんて?」
「美波ちゃんが勝手にやりました。私は止めたんですけどね」
「最悪じゃん」
「冗談だよ。刑務所でも一緒だよ」
「やだ~」
「まあまあ。それも冗談として。……見たいでしょ? 美波ちゃんも」
「ななな、何を……」
「かおりちゃんの桃姫様」
「君はいったい何を言ってるんだい!?」
くぅ~、さすがに無理か。
まあヤバいことを強制するわけにも……。
「ま、まあ? ボクも美術部として新しい題材に挑戦しないといけないと思ってたところだしね」
「同好会だけどね」
「ではいきます」
いつも通り妙なポーズを決める美波ちゃん。
「[妄想現実]!!」
案外ノリノリで絵を描き始めていた。
あと、今日は液晶ペンタブレットを使用しデジタルで描いている。
これも新しい挑戦というやつだ。
「よし完成!」
「早い!」
かおりちゃんに見えないように、私が回り込んでその絵を確認する。
そして私の目に飛び込んできたものは。
かおりちゃんくらいの体格で描かれた、全裸の私だった。
「ふぅ……。最高の作品が出来上がったね」
「よし没収だ」
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