第219話 海と少女とおしゃれなカフェ
「海だ~!!」
車で海にやってきた私たちは、とりあえず定番をやっておく。
泳ぐわけではないので、ただ叫んだだけだけど。
人はほぼいないので恥ずかしくもない。
私たちとは別に小学生の女の子数人のグループがいるので、後で声をかけておこう。
ふふふ。
水遊びできるわけではなくても、やはり海に来ると気分がいい。
人は海に還るべきなのだ。
なんてことを考えながら、目を閉じて海の風を感じる。
この時期だと確かに遊ぶことはできないけど、暑すぎることもないので気温は良い。
海を楽しむことは、春も秋も冬もできるのだ。
女子高生でこの領域に達した者はどれほどいるのだろうか。
私はちょっと先に大人になってしまったのかもしれない。
すまんな。
そして目を開くと、さきほど見かけた小学生の女の子のうちひとりが目の前にいた。
「うわっ」
「……」
なぜだろう、じっと見上げられているのだが……。
何かを期待されている?
ならば応えなければなるまい。
「お嬢さんかわいいね。一緒に写真撮らない?」
「通報しました」
「いやあああああああ!!!」
「冗談です、ふふ」
女の子はいたずらっ子のような笑みを浮かべて去っていった。
くっ、私としたことが小学生におちょくられるとは。
これはもう、後でお返しをしなくてはなるまい。
ケーキでも差し入れて、わざとひっくり返し、クリームだらけになったあの子を舐めてきれいにしてあげるんだ。
ふふふ。
私が邪悪な笑みを浮かべていると、そこにひまわりちゃんが通りかかる。
「うわっ、なずなさんが久しぶりにひどい顔してる!」
「ふふふ、ひまわりちゃんにはチョコレートコーティングかな?」
「え、何の話ですか?」
「ふふふふ」
今は知らなくてもいいんだよ。
いずれふたりきりになった時にね。
あ、そういえば愛花ちゃんはどこにいるんだろうか。
海に来たいと言っていたのは愛花ちゃんだからね。
楽しめているだろうか。
見回して探してみると、近くの建物の前のベンチに座っていた。
気配を消して移動し、そっと隣に座る。
「どう? 楽しんでる?」
「ひっ」
どうやら驚かせてしまったようだ。
「あ、はい。楽しいです」
「それはよかった。急展開だったからちょっと心配だったんだ」
「いえ、嬉しいです、本当に来れると思わなかったので」
「だよね~」
本当に珊瑚ちゃん様様だよ。
これはもう愛しまくって返していくしかないよね!
「……」
「……」
ふたり並んでベンチに座っているだけ。
しばらくそうやって海を眺めていると、愛花ちゃんがこてんと私の膝に頭を乗せてきた。
愛花ちゃんを膝枕する私。
そういえば前にもこんなことあったような。
愛花ちゃんの頭を撫でながら、こんなところ誰かに見られたらまたなにか言われるんだろうななんて思う。
その時、ふと視線を感じた気がして後ろを振り返った。
後ろにあった建物のガラスのそのむこう。
そこでニヤニヤとした表情でこちらを見ている我が母。
隣には紅葉さんとさくらさんもいる。
どうやら我らがマザーズは、海の見えるお洒落なカフェでお茶会をしていたようだ。
……どんな偶然なのこれ。
さては珊瑚ちゃんと結託しているな?
それともお母さんたちがここにいることもサーチ済みで連れてこられたのだろうか。
なんかそっちの方がしっくりくるから怖いな。
苦笑いしている紅葉さんと、柔らかい笑顔で手を振ってくれるさくらさん。
ふたりもとてもかわいい。
おいしそうなケーキを食べるお母さんもとてもかわいい。
とりあえず私の分と、さっきの小学生に塗りたくる用のケーキを注文してもらおうか。
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