第209話 空港旅行

 私は今、柑奈ちゃんとともにモノレールに乗っている。

 この人の多さに対して車両の少なさ。

 なぜなのだろう。


 モノレールとはそういうものなのか。

 地下鉄もそうだけど、この本数でよく毎回のように混むものだ。


 帰りは歩こう。

 大した距離じゃないし。


 そんなわけでどこにむかっているかと言うと、なんと空港である。

 と言っても、別に飛行機に乗ってどこかへ行くわけじゃない。

 ただ空港に遊びに行くだけだ。


「私、空港って飛行機に乗る人しか来ちゃいけないんだと思ってた」

「ね~、私もそう思ってたよ」


 なんかたまたま空港のサイト見てたら、お散歩がてらみたいに書いてあったからびっくりした。

 まあ空港も電車の駅と同じように考えると不思議ではないか。


 駅なんて、大きいところはもはやショッピングモールとの複合施設みたいなところあるし。

 ただ、やはり空港は大きいだけあって、なかなか気軽に行けるような場所ではない。


 電車の乗り継ぎも発生してけっこうな時間がかかる。

 今日も1時間以上かかっての移動だ。


 モノレールが空港の駅まで着くと、そこからは直結しているのでそのまま歩いて行く。


 広すぎてよくわからないので、とりあえず外から1階へ降りてみよう。

 そして一番近いところの入り口から中に入ってみる。


 とにかく広い。

 どこが何なのかまったくわからないが、ここに用はなさそうだ。


 お目当ては展望デッキやショップなのでそれっぽいところに行ってみよう。

 確か上の方だったはずなので、まずはエスカレーターで上にむかうことにする。


「飛行機乗るのってチェックとか厳しそうだし、ふらふら歩いてたら捕まりそう」

「なんかわかる」


 しかし何もやましいことはないので大丈夫。

 2階に着き、少し進むとお土産のショップや飲食店が並ぶ通りを見つけた。

 今のところ用はないけど、ちょっと覗きながら進んでみるか。


「へぇ、いろんなお店があるんだね」

「なんか高い気がする」

「それは気にしちゃだめだよ」


 でも美味しそうなものがいっぱいある。

 空港に行って、お土産だけ買って帰るというレアな体験をしてみるのも悪くないか。


「いつか何も気にせずに、ここの飲食店をはしっこから全部攻略したい」

「ビッグになるんだね、姉さん」

「任せてよ」


 具体的なプランは何も無いが、とりあえず宣言だけしておく。

 夢を見なくなったら終わりだと思うので。


 一通り見て端の方まで行くと、展望デッキへ行けそうな階段を見つけた。

 エスカレーターまで戻るのも遠いのでここから上ってしまおう。


 空港らしさを感じない階段を上り、ついに展望デッキへとたどり着く。

 今日は天気も良く、青空が広がっている。


 飛行機の滑走路が展望デッキから見える。

 この距離で飛行機を見るのは初めてだ。


「おっきい~」


 なんだか柑奈ちゃんの小学生らしい表情を久しぶりに見た気がする。


「飛ぶ瞬間が見たいなぁ」

「あ、一個飛んでったよ」


「むむむ、どれがこれから飛ぶのかなぁ」

「あれは戻って来たっぽいよね」


「じゃあ、あのゆっくり走ってるやつかな」

「しばらく見てようか」


 飛行機が車みたいに車輪で走ってる姿って、普通なはずなのに変な感じがするなぁ。


「あれ、止まった?」

「あ、動き出した」


 もしかして来るのか?

 来るのか?


「「行ったぁ~!!」」


 機体が浮いたと思ったら、すぐに空へと消えていった。


「一瞬だね~」


 あんな大きいものが空を飛んでいくなんて、目の前で見るとさらに不思議に思う。

 乘るの怖いなぁ。


 だがしかし。

 世界中の美少女を愛でるためには飛行機は避けられないのである。


 いつかは私もあれに乗ることになるだろう。

 まあ、自分の意志で乗るより先に、珊瑚ちゃんに乗せられてそうな気がするけど。


 目を覚ましたらお空にいましたみたいなね。

 ……怖すぎるな。


 しばらく飛行機を眺めたり、写真を撮ったり、動画を撮ったりして過ごす。

 その後、なるべく入りやすそうな喫茶店を探し、そこでココアとケーキを堪能。


 私たちの空港旅行という珍しい体験は終わった。

 なんとなく、何してたんだ感はあるものの、一応楽しかったとは思う。


 帰りはモノレールの混雑を回避し、歩いて駅まで戻る。

 そこから電車に乗って、いつもの街に戻ると、なんだか旅行に行っていた気分になった。


 家に着き、自室のベッドの上に寝っ転がる。

 ふぅ。


 ……あれ?

 今日はなんだか平和だったなぁ。

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