第200話 焼きそばとお鍋

 休日のお昼前。

 私は彩香ちゃんと街中をぶらぶらと歩いていた。

 目的はない。


「何をしているんでしょうね、私たち」

「何もしない時間って幸せだよ」


「そんな何か悟りを開いた大人の人みたいなことを……」

「社畜さんのマネ」


「どこの社畜さんよ……」

「アニメとかかな」


 何の中身もないような話をしながら、本当にただぶらぶらと歩いていた。

 そこで偶然にも知り合いを発見。


 いつもと服装は違うが、あれは小路ちゃんだろう。

 ここはもう声をかけるしかない。


「小路ちゃ~ん」

「あ、なずなさん」


 こちらを見てふわっと笑顔を見せてくれる天使。


「今日は和服じゃないんだね」

「お母さんに着せられました」


「似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


 照れたような表情を見せる小路ちゃんもかわいい。

 今日の小路ちゃんは薄めのパーカーに膝下くらいのスカートだ。


 うん、おとなしい小路ちゃんらしい服装だと思う。

 ママさんナイスです!


「今日はどこかへおでかけ?」


 彩香ちゃんが尋ねると、小路ちゃんは「お買い物です」と答えた。


「もしかしておつかい?」

「いえ、自分の分です」


「そっか。私も一緒に行っていい?」

「え? いいですけど、何も面白いところじゃないですよ?」


「うん。私が小路ちゃんと過ごしたいだけだから」

「うっ」


「あれ、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


 レアな私服小路ちゃんだからね。

 もっとこの目に焼き付けておかないと。


 そろっと手を差し出すと、ちゃんと握り返してくれた。

 うへへへ。


「思ったんだけど、白河さんって小路ちゃんには特にやさしいわよね」

「え、そうかな?」


「そんな気がする」

「やっぱりおとなしいからかな」


「そうかもしれないわね」


 まあ、本人の前でする話ではないかもしれないが。




 私たちは近所のよく行くスーパーに入った。


「何買うの?」

「今日のご飯とお菓子ですね」


「ご飯? お家の人いないの?」

「今日は用事で朝から出かけてます」


「お休みの日なのに?」


 まさかブラックじゃないよね……。


「私が何か作ろうか? というか家に来なよ。一緒にご飯食べよ」

「え、いいんですか?」


「うん。みんなで食べた方が楽しいよ」

「ありがとうございます」


「よし、じゃあお買い物するか~」




 いろいろ買って家に戻る。

 途中で彩香ちゃんとはバイバイした。


 午後からは用事があったらしい。

 リビングに入るとそこでは柑奈ちゃんがいてゲームをしていた。


「お帰り、姉さん」

「ただいま~」


「あれ? 小路ちゃん?」

「たまたま出会ってね。今日はお家の人いないらしいから、ここでご飯食べてもらおうと思って」


「そっか。いらっしゃい小路ちゃん」


 柑奈ちゃんはゲーム機を置いて小路ちゃんのもとにやってくる。


「私はお昼ご飯作るから、ふたりは遊んでて」

「何作るの?」


「お昼は焼きそばにしようと思って」

「おお~」


「夜はお鍋にするから」

「おお~!!」


 冬じゃなくてもお鍋はおいしいからね。


「焼きそば好き」

「私もあんまり食べないけど好きです」


 柑奈ちゃんも小路ちゃんも焼きそばは好きっと。

 まあ嫌いな人あんまりいないと思うけどね。


 だからこそお祭りの屋台の定番なんだろうし。

 健康のために避けてる人はいるだろうけど。


「焼きそばいいよね~。ソースでも塩でもおいしいし」

「どっち作るの?」


「どっちがいい?」

「う~ん、どっちでも」


「どっちでもか~」


 まあ、私としては同じ焼きそばでもソースと塩ではもはや別物だけどね。

 私の中ではカレーとシチューくらい違う食べ物だ。

 ……それはさすがに言いすぎか。


「よし、じゃあ両方作ろう」

「おお~。姉さんやる気満々だ」

「ふふふ、小路ちゃんもいるからね」


 胃袋掴んでいきますよっと。

 そして大量の焼きそばを作る私。


 お皿をふたつ用意し、山盛り乗せる。

 それをテーブルへ運ぶ。


「さあ、好きなだけ食べてくれたまえ~」

「す、すごい……」


「まあ、4人分だからね」

「4人?」


「うん4人」

「あとひとり誰?」


「え、あれ? そういえばお母さんどこ?」

「出かけたよ。お昼いらないって」


「なんてこった……」

「夜には帰ってくるよ」


「まあ、そうだろうけど……」


 まずいな、このふたりはそこまでたくさん食べないだろうし。

 私がふたり分いくしかないか。


 まあ残ったら夜にお鍋と一緒に食べればいいか。

 そう思っていたら、意外と3人で食べれてしまった。


 やっぱりみんなで食べるご飯はおいしいし、いっぱい食べれちゃうってことかな?

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