第194話 みこさんとカップケーキ

 とある放課後。

 今日はひとりで下校していると、偶然にも柑奈ちゃんとひまわりちゃんを見かけた。

 愛花ちゃんとはもう別れた後のようだ。


「姉さん、今日は早いんだね」

「うん、同好会とかなかったから」


 まあ、家でのんびりするか部室でのんびりするかの差しかない気もするけどね。


「この後遊びに行ってもいいですか?」


 それならとひまわりちゃんからのお願い。

 もちろん断る理由はない。


「いいよ~」

「やった~!」


 天使を確保した。


「私もいいですか?」

「うわっ!?」


 そんな浮かれている私の背後からにゅっと顔を出してくる女性が現れた。

 相変わらず清楚な女性にしか見えないみこさんだ。


 今日は巫女服を着ていない。

 ちょっとレアな姿だ。


「みこさん、なんでこんなところに……」

「偶然ですよ」


「……」

「偶然です」


「家行きましょうか」

「はい♪」


 笑顔がかわいい。

 惚れてしまうよ。




 家に帰り、リビングへ。


「これどうぞ。生チョコの入ったカップケーキです」

「洋菓子だ! ありがとうございます」


 みこさんには珍しく、和菓子ではなく洋菓子。

 いつもおいしいお菓子をくれるみこさんのことだ。

 きっとこれはとてつもなくおいしいのだろう。


 よし、ココアを用意しよう。

 4人で楽しいおやつタイム。


 ふわふわのカップケーキをフォークで切ると、中からとろとろのチョコレートが流れてきた。

 いい感じにとけたチョコレートに期待が高まる。


 口に含む。

 おお……、なんだこの幸せカップケーキは……。

 おいしすぎて涙がでそうだ。


「いつも本当にありがとうございます」

「いいんですよ。いつもいろいろ頂いておりますので」


「え? いつももらっているのは私たちの方ですよ」

「ふふふ」


「なんで笑うんですか?」

「いえ、なんでもありません」


「ところで今日の用事は?」

「本当に偶然ですよ?」


「いや、カップケーキ持ってきてるじゃないですか」

「……失敗しましたね」


「ドジっ子みこさん、かわいいです」


 みこさんは持っていたかばんの中からとある物を取り出し、テーブルの上に置いた。

 こ、これは!?


「実はこのような物を頂きまして」

「どこかで見たことあるフィギュアだ!」


 それは以前果南ちゃんが作ったものとそっくりだった。

 あの時よりもクオリティが上がっている。

 そしてこのモデルはほぼ間違いなく私だ。


「あの、これはどこから……」

「それは秘密です」


 くっ、まさかこのフィギュアが取引されるほど、どこかでつながっていたのか。

 出所が果南ちゃんであることは間違いないだろう。


 メイドイン果南ちゃんだ。

 ……今度ちゃんとお話ししないとね。


「姉さん、大人気だね」

「他人事だと思って……」


 私だって柑奈ちゃんのフィギュアがあれば喜ぶだけだろうなぁ。


「実はもうひとつあるんです」

「ぎゃ~!!」


 みこさんがもう一体フィギュアをテーブルに置く。

 そして柑奈ちゃんが悲鳴をあげる。


 そのフィギュアはどう見ても柑奈ちゃんの姿をしていたからだ。

 ふっふっふ。

 私の気持ち、少しは理解してくれただろうか。


「ちらっと」

「ちょっと何してるの姉さん!」


 私は柑奈ちゃんのフィギュアを持ち上げてスカートの中を覗く。

 うむ、普通のパンツ。

 ここは無難に済ませたというところだろうか。


「いや~、どうなってるのか気になって」

「気になったからってそんなことしないで!」


「まあまあ、柑奈ちゃん自身じゃないんだし」

「うぐぐ……」


 さっきまで私にとっていた態度を考えると、これ以上何も言えないだろう。

 ふふふ。


「それより、なぜこれを?」


 なぜわざわざこのフィギュアを家まで持ってきたのか。

 黙って持っておいてもいいのに。


 ……いらないのか。

 それはそれで悲しい。


「実はおふたりにプレゼントしようと思いまして」

「え、自分のフィギュアを部屋に飾れと?」

「いえ、そうではなくて」


 みこさんは私の前に柑奈ちゃんのフィギュアを。

 そして柑奈ちゃんの前に私のフィギュアを置いた。


「こういうことです」

「ありがとうございます!」


 私はありがたく柑奈ちゃんのフィギュアを手に取り、頬にすりすりした。


「まあ、仕方ないね。もらえるというならもらっておく」


 柑奈ちゃんも私のフィギュアをつき返すことなく受け取った。

 ありがとう、みこさん。

 あなたは天使だ。


「それでは私はそろそろ失礼します」

「え、もう帰っちゃうんですか?」


「それを渡しに来ただけですので」

「もうちょっとゆっくりしていってもいいのに」


「それはまた別の機会に」


 ということで、玄関までみこさんをお見送りする。


「今度何かお礼をしますね」

「ふふふ、それでは何かお願いでも聞いてもらいましょうか」


「え?」

「それでは」


 みこさんは小さく手を振って、笑顔で去っていった。

 とてもかわいいのに、最後の言葉がとても怖かった。

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