第195話 天使の叫び

 ある日の放課後の事。

 私は今、公園のベンチで両側から知らない女の子にはさまれている。

 ふたりとも眠っていて、こちらにもたれかかっている状態だ。


 私がベンチでボーっとして、いつの間にか眠って起きたらこうなっていた。

 なんだこれ……。

 天国か?


 ちょっと肩を抱いて足を組んでみようか。

 女王様の気分だ。

 フフフフフ。


 おっといけない。

 手がすべって胸を触ってしまった。


 いや本当にすべっただけなんだ。

 フフフ。


「な、なにしているんですか、なずなちゃん……」

「ギャッ!?」


 急に声をかけられて天国から地獄に落とされた。

 み、見られたか?


 焦って声のした方を見ると、そこには紅葉さんが立っていた。

 なんとも微妙な表情をしていらっしゃる。


 しかしまあ、いつ見てもかわいらしい方だ。

 めくりたい、そのミニスカート。


「いや~、なんか寝て起きたらこんなことに」

「そんなバカな……」

「ですよね~」


 ありのまま起こったことを話したが、あまり信じてもらえてない感じだ。

 私だってびっくりしてるからね。

 まあ、この格好は自分でやったんだけど。


 そんなことよりなんでこんなところに紅葉さんがいるのだろうか。

 ひまわりちゃんでもむかえに来たとか?


「紅葉さんはなぜここに?」

「ああ、私はお散歩です」


「お散歩?」

「まあ……、私にもいろいろあるんですよ……」


 そう言って紅葉さんは空を見上げる。

 その目からは光が失われていた。

 詮索はしない方がいいのかもしれない。


「ところで、いつまでそうしてるんですか?」

「おっと」


 言われて私は女王モードを解除。

 しかし、女の子たちは目を覚ましてくれないので動けない。


 眠ったままの少女を置いていくわけにもいかないし、困ったなぁ。

 フフフ。


「嬉しそうですね、なずなちゃん」

「いやいや、困ってますよ? 本当に」

「そうは見えないですけど」


 とりあえず起こしてしまおうか。


「お~い、起きて~」


 声をかけながら揺すってみる。

 しかし起きる様子はない。

 とりあえず脱出だけしておくか。


 私はふたりの間から抜けだす。

 そしてふたりをそのまま近づけて支え合うようにする。


 うむ、良い。

 素晴らしい光景である。

 見ていると心が躍る。


 写真におさめようじゃないか。

 カシャッとね。


「なずなちゃん……」

「はっ!? 私は今何を……」


「写真撮ってましたよ? まずくないですか?」

「……大丈夫です! 私は女の子を撮っていたわけじゃありません。芸術作品を完成させたんです!」


「……」


 やめて、そんな目で私を見ないで!

 興奮しちゃう!


「私の写真を撮ればいいのに……」

「いや、私は小さな女の子の写真が欲しいんですよ」


 私はそんなことを言いながらカシャッと紅葉さんの写真を撮る。


「結局撮るんですね」

「だって紅葉さんもかわいいし」

「やだ~、照れますね~」


 だって本当のことだ。

 嘘は言ってない。


 そんな感じで私と紅葉さんがイチャイチャしていると、そこにとある女の子が走ってやってきた。


「あ~! ママ、何してるの~!?」


 女の子はひまわりちゃんだった。

 こちらも相変わらずの天使だ。


「お散歩ですよ」

「家にいないとダメでしょ」


「外に出た方が元気になれるんですよ」

「嘘だ~」

「嘘じゃないですよ。運動が一番の薬です」


 確かにそんな話を聞いたことがある。

 たしか精神的なものだった気がするけど……。


「それになずなちゃんにも出会えましたし」


 紅葉さんはこちらを見てニコッと笑う。

 かわいい。

 お持ち帰りしたい。


「では私は帰りますね」

「あ、はい。お大事に」


 しばらくここにいるのかと思ったら、意外とあっさり帰っていってしまった。

 実は体調不良だったのかもしれない。


 今度家に行ってみようかな。

 逆に迷惑になるだろうか。

 ちょっと心配だ。


「というわけで、私と遊びましょう!」


 代わりに残ったひまわりちゃんから遊びに誘われる。

 一緒に帰らないということは大丈夫なのかもしれない。


「それはいいんだけど、このふたりが……」


 さきほど私がくっつけておいたふたりを見る。

 するとひまわりちゃんが「私に任せてください」とふたりに近づく。


「起きろ~!!」


 ……めちゃくちゃ力づくで起こしにかかっていた。

 片方の子の肩を思いっきり前後に揺すっている。

 なんだか見ていてかわいそうだ。


 そしてさすがにここまでされると女の子は目を覚ました。

 なぜかもうひとりの子も一緒に。

 もしかしたらベンチごと揺れていたのかもしれない。


「あ、ひまわりちゃんだ」


 どうやらお知り合いだったようだ。


「おはよ~」

「おはよ~じゃないよ。さあ、こんなところで寝てないで帰って帰って」


「仕方ないな~。今度遊んでね~」

「バイバイ」


 ふたりの女の子は、そのまま大人しく帰っていった。

 いったい何の目的でここにいたのだろうか。


「それじゃあなずなさん、今から遊びましょう~」

「うん、そうだね……って、ごめん、ちょっとメッセージが……」


 スマホを見ると柑奈ちゃんからメッセージが届いていた。

 こ、これは!?


「ごめんね、ひまわりちゃん。柑奈ちゃんが帰ってきてって言ってるから帰るね」

「え?」


 事態は一刻を争う。


「それじゃ!」

「もおおおおおおおお!!」


 私は愛する天使の叫びに後ろ髪を引かれながら、愛する妹の元へむかうのだった。

 本当にごめんよ、ひまわりちゃん。

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