第193話 なずな流、ソフトクリームの楽しみ方

 農業公園ならではのおいしいソフトクリームを堪能した私たち。

 その後はぶらぶらと園内をお散歩していた。


 あちらこちらにいる動物たちを眺めながら、いつもよりゆっくりに感じる時間を過ごす。

 都会はやはり人が多い。


 だからだろうか、時間の流れも早く感じる。

 みんな生き急いでいる感じがしてしまう。

 たまにはこうやってのんびり過ごしてみるといいと思うんだよね。


「姉さんどうしたの? ぼーっとして」


 そんな考え事をしていた私に柑奈ちゃんが話しかけてきた。

 ただ動物を見ていただけなんだけどなぁ。

 そこまで死んだような目でもしていたのだろうか。


「いや~、この世の闇と戦っていたんだよ」

「どういうこと?」


「柑奈ちゃんも大人になればわかるよ」

「別にわかりたくない」


 それはそうだ。

 大人になることが不幸なことであってほしくない。

 だっていつかは私たちも大人になるのだから。


「それよりむこうでひまわりちゃんが待ってるよ」

「おっと、それはいけない。すぐ行くよ」


 その後、一通り園内を回ってから広場に戻ってくる。


「そろそろお昼ご飯にしましょうか」


 お母さんがそう言って、私はけっこうな時間が過ぎていることに気付く。

 ゆっくりに感じても時間は止まってはくれないのだね。


「あそこのレストランにでも入る?」


 私はなんとなく近くにあったお店を指さす。

 しかし、紅葉さんが「ふっふっふ」と腰に手を当てて笑っていた。


「なんと、バーベキューの予約をしておきました~!!」

「おお~!」


 こんなところでバーベキューができるのか。

 動物を見て楽しんだ後にお肉を食べるのは、なんとも言えない気持ちになるけど。


「10人前ありますよ~」

「なぜ!?」


「いっぱい食べるかなぁって思いまして」

「いくらなんでも多すぎですよ~」


 我々5人しかおりませんが?

 しかも小学生込みで。

 まあ、だいたいこういうところの1人前って量少ないけどね。


 さっそくバーベキューのコーナーへと移動し食材を受け取る。

 お肉、ウインナー、海鮮系、コーンなどの野菜も盛りだくさん。

 さらには追加でピザまで出てくる。


 さすがに10人分あるとは言わないけど、思っていたよりずっと多い。

 そしてこのメンバー。

 なんとなく私が1番食べないといけない感じがするのですが?


「さあさあなずなちゃん、私が焼いてあげますよ~」

「いや、別に自分で焼きますけど……」


「そんなこと言わずに~。はい、どうぞ!」

「ちょっとそれ、生焼けですよ!」


 なんともハイテンションな紅葉さんをかわしつつ、私は自分のペースでお肉を育てる。

 しかし、勝手に放り込まれていくさまざまな食べ物たち。

 やはり私が頑張るしかないようだ。




 お腹いっぱい食べてちょっと休憩。

 丸太のベンチに座りながら馬を眺める。

 あの背中に乗ってみたいなぁ。


 私の手にはソフトクリーム、本日二本目です。

 あのお昼ご飯の後によく食べる気になったなぁ、私。

 甘いものは別腹だと実感する。


 あ、馬がこっち来た。

 柵越しに見つめ合う。


 なんかこう、動物からこちらへの反応があると嬉しいよね。

 ちゃんと認識されてるんだもんね。


 私が手を振ると、なぜかむこうに行ってしまった。

 残念。

 ふぅ。


 風が心地いい。

 幸せだ~。


「あ、こんなところにいたんですか」

「ひまわりちゃん」


 ぼーっとしている私のところに今度はひまわりちゃんがやってきた。


「馬さんかわいいですね」

「そうだね」


「ソフトクリーム食べてるんですか?」

「うん、やっぱりデザートは欲しいなぁって思って」


「私も食べたいけど、ちょっと入らないですね」

「ひとくちだけ食べる?」


「いいんですか?」

「うん、どうぞ」


 私は少しだけとけかかったソフトクリームを差し出す。


「いただきます」


 ひまわりちゃんの小さな口が、私の食べていたソフトクリームに触れる。

 ふふふ、作戦成功だ。


「おいしいですね」

「だね」


 私はいたって冷静に振る舞い、再び馬を眺める。


「ひまわりちゃ~ん、あっちの動物見に行こ~」

「うん、わかった~」


 後ろからひまわりちゃんを呼ぶ柑奈ちゃんの声が聞こえる。

 ナイス柑奈ちゃん。


 ひまわりちゃんが行ったことを確認し、私はソフトクリームを嘗め回す。

 ベロベロベロベロ!


 ふぅ、なんて幸せな時間なんだ。


 今日は来て良かった~。

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