第187話 映画とモノマネ

 さてさて、今日は映画を観に行っちゃうぞ?

 楽しみに待ってたんだよね~。


 そうだ、柑奈ちゃんも誘ってみようか。

 ちょうど姉妹ものの映画だし、もしかしたらいい雰囲気になっちゃったりするんじゃない?


 よし、決まりだ。

 私は柑奈ちゃんを連れていくためリビングにむかう。


「あれ?」


 いない……。

 部屋にはいなかったからこっちだと思ったのにな。


 もしかしていつの間にかお出かけ中?

 うう、お姉ちゃん悲しい……。


「って、あれ?」


 誰もいないリビングのテーブルの上に、見たことのあるキャラクターのグッズが置いてある。


 それは私が今日観ようとしている映画のキャラクターだった。

 もしかして柑奈ちゃん、もうこの映画観ちゃったのか。


「うぐぐ……、誘って欲しかったよ柑奈ちゃん」


 仕方ない、ひとりで観に行くとしますか。




 というわけで、私はお馴染みのショッピングモールにやってきた。

 ここのシアターはこの辺りで一番音質がいいんだよね。

 それに気付いて以来、選べるならばここで映画を観ている。


 さっそくトイレだけ済ませて、寄り道もせずシアターへむかう。

 今日はいつもより少し人が多いかもしれない。


 なにか大型作品でも上映されているのだろうか。

 券売機の列もなかなか長いものになっている。


 私は事前に予約して決済も済ませているので、QRコードだけで入場できるのだ。

 どんどん便利になるのは良いことだよね。


 とはいえ、並ばなくていいのでちょっと早く着き過ぎてしまっている。

 まだ入場ができないようだ。


 本屋でも行こうかな。

 でもそうするにはちょっと余裕がない。

 適当に電子書籍でも読んでようか。


 そう思って壁の方にむかって移動する。

 そしてその先でまさかの知り合いと遭遇した。


「彩香ちゃん!?」

「あら、白河さんじゃない」


「彩香ちゃんも映画? 何観るの?」

「それはもう、これに決まってるでしょ」


 彩香ちゃんは私にスマホの画面を見せてくる。

 予約している情報が表示されていて、それは見事に私と同じ作品だった。

 さすがシスコン、姉妹作品はばっちり追ってるんだね。


「予約までしちゃって」

「だって、いつの間にか映画って2000円になってるし」


「ああ~、確かに」

「でも前売り券だったら1400円だったし」


「2000円は痛いよね」

「前売り券もネットで買えるし、それなら座席も予約しちゃった方が楽だし」


「だね~」

「でも事前に予約しちゃうと、こうやってたまたま会っても席が離れちゃうわね」


「たまたま会うなんて想定してないしね。それは仕方ないよ」

「白河さんの好きそうな作品だし、声をかければよかったわ」


「今度良さそうな作品見つけたら誘うね」

「私もそうするわ」


 映画が楽しみでふわふわしているのか、今日の彩香ちゃんはやわらかい感じがする。


 しばらくおしゃべりをしていると、ついに入場開始のアナウンスがあった。

 入り口でQRコードをかざし、特典を受け取り、シアターへ移動する。


「それじゃあまた後で」

「帰りは一緒に帰ろうね」


 なんて話をしながら自分の予約した席へとむかう。

 そして私と彩香ちゃんは隣通しの席に座った。


「嘘でしょ……」

「そんなことある!?」


 すごい偶然に驚きつつ、この奇跡を喜ぶ。

 私たちは運命の赤い糸で結ばれているのだろう。

 そしてさらにすごい偶然が重なる。


「前通ります~」

「どうぞ……、って柑奈ちゃん!?」

「ね、姉さん!?」


 前を通り過ぎた少女は、なんと我が妹柑奈ちゃんだった。

 どおりでかわいくていい香りがすると思ったよ。


 しかも隣の席みたいだ。

 これはもう結ばれるしかあるまい。


 それにしても姉妹ものの映画を妹と隣同士でみるというこの状況。

 ……いいね!


 元々誘うつもりだったからね~。

 あれ?

 そういえば一回観てるんじゃないのかな?


 いろいろと話したいけど、館内なので今はやめておこう。

 しばらくして館内の照明が暗くなり映画が始まった。


 この作品は原作のないオリジナル映画で、私もほとんど内容を知らない。

 PV観たくらいなんだけど、それがまたいい感じだったんだ~。


 物語が進み、私が思っていたよりも、なんというかベタベタしている。

 家族愛的な物語かと思っていたけど、恋人一歩手前くらいのイチャイチャ度。


 正直、隣に柑奈ちゃんがいる状態で観るのはちょっと恥ずかしくなるレべル。

 ちらっと柑奈ちゃんの方を見る。


 と、そのタイミングで柑奈ちゃんがこちらにもたれかかってきた。

 え?

 寝てる?


 ここからいいシーンが始まりそうなのに。

 まあ、1回は観てるんだろうしいいのか。

 そして物語は盛り上がるシーンへ。


『好きでちゅっ』


 あ、妹ちゃん、噛んだ。

 かわいいなぁ。

 まあ映画だし、狙ってやってるんだろうけど。




 上映も終わり、私たちは映画館のロビーに戻ってきていた。


「いい映画だった……」


 彩香ちゃんはうっとりした表情でそうつぶやいた。

 半分別世界に意識を置いてきているようだ。


 そして対照的に、さっきまで寝ていたとは思えないほどシャキッとしている柑奈ちゃん。

 とりあえず気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば柑奈ちゃん、この映画1回観てるんじゃないの?」

「え? 観てないよ?」


「でも、リビングにグッズ置いてあったよ? 柑奈ちゃんのじゃ……」

「あれはひまわりちゃんからもらったの。観た方がいいよって」


「そうだったんだ」


 私よりも先に観ているなんて、やるじゃないかひまわりちゃん。

 本気の姉妹恋愛もの。

 良い映画でした。


「ああ、良かったわよね~。特にあの『好きでちゅっ』って噛むところ! かわいすぎたわ~」


 彩香ちゃんが興奮冷めやらぬ感じで語る。

 まさかのモノマネまで披露して、後で冷静になってから恥ずかしいやつだ。


「あはは、似てますね」


 柑奈ちゃんも楽しそうに小さく手を叩いている。


 ……。

 ……あれ?


 そのシーンの時、柑奈ちゃん寝てたんじゃ……?

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