第186話 小路ちゃんと油もの
「じゃ、ちょっと茜ちゃんとお出かけするから」
「え、ああ、うん」
たまたま玄関の前を通った私にそれだけ告げて家を出る柑奈ちゃん。
せっかく今日は柑奈ちゃんと遊ぼうと思ってたのになぁ。
仲いいんだよね~、柑奈ちゃんと茜ちゃんは。
「うぐっ」
柑奈ちゃんを取られた時の発作が……。
なんて、そんなものはないけれども。
「別にいいもんね~」
予定がなくなった私は、それならととある女の子に連絡を取る。
「それで私ですか」
「うん、ごめんね。嫌だった?」
私は小路ちゃんにメッセージを送り、駅前で待ち合わせをして合流した。
なんで小路ちゃんなのかは自分でもよくわからない。
「いえ、嬉しいです。私、なずなさんのためなら地獄へだってついていきますよ」
「あは、それは光栄だね」
でも私は天国へ行けない前提なんだね……。
もっとみんなのためになることをしないといけないなぁ。
それよりも、私たちが集まったらやっぱり行き先は神社だよね~。
ということで、珍しくバスに乗って移動することにした。
神社は探すとたくさん出てくるから、行き先としては困ることがない。
あまり小さいところだとすぐ用事が終わってしまうから、そこそこ大きいところにはするけどね。
バスの中はそこそこ人が多かったので、それを利用して私は小路ちゃんに密着して時間を過ごす。
約20分ほど、そんな感じで小路ちゃんの体温とやわらかい感触を楽しむ。
目的のバス停についてバスから降りると、小路ちゃんは何度か深呼吸をしていた。
「大丈夫?」
「大丈夫です、ちょっと苦しかっただけですから」
うっ、もしかしなくても私がくっつき過ぎてたから?
「ご、ごめんね。私のせいだよね」
「え? いえ、そんなことは。むしろ幸せなくらいですよ」
「うん?」
苦しかったのに幸せ?
ま、まさか、小路ちゃんはそっちの人?
「そっか……。私、小路ちゃんとそういうことになった時は頑張るね!」
「はい?」
さて、バス停からさらに10分ほど歩いて、目的の神社へとたどり着いた。
別に名物とかではないけど、ひとつの特徴としてこの長い階段がある。
この階段の下から見上げる上の鳥居はなかなか好きだ。
「小路ちゃん、つらくなったら言ってね」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」
そうだね。
何度も忘れそうになるけど、小路ちゃんも野球少女だしね。
これくらいの階段でどうにかなるほどやわじゃないか。
いざとなればおんぶしてあげようと思ったけど、そんなことにはならなさそう。
残念だ。
あっさりと階段を登りきると、意外と上は開けていて、後ろを振り返ると街が見下せるようになっていた。
そこから、街中に目立つ鳥居があるのを見つける。
「あんなところにも神社があるみたいだね」
「本当ですね」
「今度行ってみようね」
「はいっ!」
別に今日行ってしまってもいいのだが、こうやって次のお出かけに繋げておいた方が誘いやすいからね。
私って策士!
しばらく参道を歩いていくと、入り口とは違ってけっこうな人がいた。
そして屋台もある。
いつもやっているのだろうか。
「からあげに和牛ステーキの串まであるね。なにか食べる?」
「すみません。最近油ものを体が受け付けなくなってきて……」
「小路ちゃん、いったい何歳!?」
小路ちゃんの悲しい現実を知ってしまったので、屋台は素通りして本殿へとむかう。
少しだけ人が並んでいて、その後ろで待っていると、前の人がスマホを出して何かしている。
私たちの番が来て、その理由がわかった。
「あ、ここ、お賽銭にQRコード決済が使えるんだ」
「本当ですね」
神社もいろいろ変わってきているんだなぁ。
「記念に両方やってみよう」
「私は小銭で」
「あ、神様からのメッセージがダウンロードできるみたい」
「なんて書いてあるんですか?」
「ちょっと待ってね……。『ありがと~』だって」
「軽い……」
お賽銭にありがとうというのも変な話だ。
まあ私はそんなに気にしないけど。
「イラストまで付いてる。かわいい~」
「私もやります」
「うんうん、記念にね」
その後は神社のまわりの庭園をぐるっと回ることにした。
正直有料級のきれいな庭園だ。
お散歩しながら、行きとは別の参道に出る。
後はもう帰るだけか。
「小路ちゃん、どこかでご飯でも食べる?」
「そうですね~……」
と言ってもあまり食欲がないのかもしれない。
それなら家に連れ込んでそうめんでもごちそうするのもいいか。
そしてそして、時間も遅いしとお泊りの流れに持ち込むのもありだね。
なんて思っていた時だった。
小路ちゃんがふと屋台を指差して、興奮気味に私を見る。
「見てくださいなずなさん! すごいですよ! クリームマシマシあんドーナツ串ですよ! 行きましょ~!」
突然元気になり駆け出す小路ちゃん。
「めちゃくちゃ油もののカロリーマシマシ爆弾だけど大丈夫なの!?」
若いなぁ、小路ちゃん。
私はさすがにそれは見ているだけで……。
「うっぷ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます