第188話 ノーパン健康法

 今日の私は柑奈ちゃんとひまわりちゃんを連れて河川敷の公園へと来ていた。

 久しぶりにキャッチボールをしている。

 そんな時、ふと最近気になっていたことを口にした。


「なんだか茜ちゃんの様子が変なんだよね~」

「そうですか? いつも通りの変だと思いますけど」

「ひまわりちゃん辛辣~」


 まあ、ひまわりちゃんの言う通り、普段の茜ちゃんは常識人に見えてちょっと変なことが多い。


 しかしだ。

 今はちょっと違うのである。


「逆なんだよね~。なんだか変じゃないんだよ」

「変じゃない?」


「うん、きれいな茜ちゃんなんだよ。たまに出てくるんだけどさ」

「良いことじゃないですか」


「いやまあ、そうなんだけどさ」


 ほら、ゲージが溜まるといろいろ爆発しそうじゃない?

 後で大変な目に遭うくらいなら、普段から発散しておいてほしいところ。


 茜ちゃんの大暴走は過去に何回か見たような気がするし。

 そして大体の場合、私がひどい目に遭うんだからね。


「茜ちゃん、鬱なんじゃない?」

「え……」


 柑奈ちゃんから突然飛び出した予想外の言葉に私は固まってしまった。

 鬱?


「なんかよくわからないけど、元気なかったり、上の空になったりするんじゃないの?」

「う~ん」


 確かにおとなしい感じではあるけど、そこまで元気がないって感じではないよね。


「なんか違う気がする」

「そっか」


 キャッチボールを続けながら、なんとなく茜ちゃんのことを考える。

 そんなところに、お噂の茜ちゃんがやってきた。


「やっはろ~、みんな~」

「茜ちゃん」


 私たちに近づいてくる茜ちゃんはいつも通りに見える。

 しかし、やはりどこか1段階おとなしいようにも感じた。


 何かあったのだろうか。

 それともまさか、私を差し置いて大和撫子への道を歩んでいるのか。


 だとしたらまずい。

 真剣にライバルになったら勝てる気がしないぞ。


 今のうちに芽は摘んでおきたいところだ。


「キャッチボールしてるの?」

「うん、茜ちゃんもやる?」

「今はいいかな~」


 うむむ?

 普段なら乗ってくると思うんだけどな。

 やはり大和撫子を?


「じゃあ茜ちゃん、走ろうよ!」

「え、走る?」


「ジョギングにする? シャトルランでもいいよ?」

「いや~、そもそも走らないかな~」


 苦笑いする茜ちゃんの様子を見て、私は愕然としてしまった。

 おかしい。


 茜ちゃんなら海まで走り出してもおかしくないはずなのに。

 走ることさえしないなんて。

 残念なことだけど、これは認めざるを得ない。


「茜ちゃん、もしかして、鬱なの?」

「へ? 鬱?」

「だって、見事に隠してるけど、やっぱり元気ないよ。なんか変だよ」


 私がそう言うと、茜ちゃんは顔を伏せる。

 そしてもう一度顔を上げて私に言った。


「なずな、鬱ってこんなものじゃないよ?」

「え?」


「鬱になったら、こんな外に出たりとかできないから。笑顔なんて嘘でも作れないから!」

「あ、茜ちゃん?」


「なずなは鬱を甘く見すぎだよ。謝罪が必要なレベルだよ!」

「ご、ごめんなさい」


 突然火が付いたように鬱について語りだす茜ちゃん。

 まるで経験者のような詳しさだ。


「じゃあ、なんでそんなおとなしいの?」

「え?」


「なんか最近動き回ってる茜ちゃんを見てないような気がするんだよね」

「ああ~……」


「何かあったの?」

「そ、それはね~」


 何か自分でも心当たりがあるようだ。

 これは親友として聞きださねばなるまい。


「茜ちゃん、何か困ってるなら相談して。話すだけでも楽になるかもしれないよ?」

「あ~、や~、なんと言いますか」


「何?」

「う~ん」


 何か言いづらい事なのだろうか。

 それなら無理に聞きだす方がよろしくない気もする。

 そう思った時だった。


「実はさ~、ノーパン健康法なるものを試しててさ」

「は? ノーパン健康法?」


 何を言ってるんだこの子は。

 あれは寝る時にパンツを履かないだけのはず。

 ズボンは履くし、ましてやミニスカ女子高生が外でやるようなものではない。


「じゃあ今、茜ちゃんはノーパンなの?」

「うん、まあ……」


「ちょっと見せて」

「いやいやいや、パンツは履いてないけどスパッツは履いてるから!」


「それ意味あるの!?」

「わかんない。でもさ、そわそわしちゃって」

「だろうね」


 茜ちゃんって、こんなアホな子だったっけ?

 そんなはずはないのだが。


「でももうやめようかなって」

「そうだね。やるなら寝る時だけにしようね」

「明日からはこのパンツを履くよ」


 そう言って茜ちゃんは、なぜかかばんの中からパンツを取り出した。

 持ち歩いてるのか……。

 って、それは!?


「それ! 私の部屋から先週無くなったやつだ!」

「そそそ、そんなはずないでしょ! たまたま一緒のやつなんじゃないの!?」


「じゃあちょっと見せて! 私、最近パンツに名前書いてるから」

「ダメでしょ! そんなことしたら!!」


「なんで怒られてるの私!?」

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