第181話 清楚ななずなと幸せな時間

 今日はいいお天気なのでお散歩に出かけることにした。

 誰かに会うというわけではないけど、なんとなく今日はかわいくてお洒落な服を着てみる。


 これはちょっと薄くて涼しいのだ。

 普段短めなスカートを履いていることが多いけど、ちゃんとワンピースだって持っているんだよ?


 さすがに激しい運動はできないけど、ただお散歩するだけなので大丈夫だろう。

 ついでに帽子も被って行こうか。


 鏡の前で自分の姿を確認。

 うん、かわいい。

 あ、服のことだからね?


 自分で言うのもなんだけど、ばっちり清楚なお姉さんみたいだ。

 こんな格好をしたお姉さんがいたら、私なら惚れてしまうなぁ。

 よし、行きますか。


 そして玄関へむかうと、たまたま部屋から出てきた柑奈ちゃんと遭遇する。

 柑奈ちゃんは私を見るなり、びっくりして固まった。


「ちょっと出かけてくるね」

「あ、うん。気を付けてね」


 うまく言葉が出てこない様子の柑奈ちゃんに手を振って、私はまず近くにある大き目の公園へとむかった。

 家族連れも多く訪れる、のんびりするのにぴったりの公園だ。


 みんなレジャーシートなどを敷いてくつろいでいる。

 ひとりでやるとぼっち感が出てしまいそうなので、私はベンチに腰掛けることにした。


「ふぅ……」


 のんびりと過ごす時間は最高だ。

 時間に追われない日々。


 何も考えずに時間を使える日々と言うのが幸せであると、私はこの歳にして思うのである。

 お母さんたちもちゃんと自分の時間を使えていればいいんだけどね。


 公園内を吹き抜ける心地よい風。

 目を閉じて、運ばれてくる花の甘い香りに意識をむける。

 幸せだ。


 目を開き、ふと隣を見ると、いつの間にか小さな女の子が座っていた。

 ほほう、やるではないか。

 私に気配を悟らせないとは。


 まあ、きっと今日の私は心が綺麗だから幼女センサーが弱まっているのだろう。

 そうに違いない。


 さて、そろそろ別のところをお散歩しようかな。

 私は立ちあがり、公園内の別の場所へむかって移動する。


 ついでに何か飲み物でも買ってこようかな。

 そう思って歩いていると、後ろから足音がついてくるのが聞こえた。


 振り返ってみると、そこにはさきほどの少女が立っていて、こちらを見上げている。

 かわいい……。


 しかし声をかけてこないということは、別に私に用事があるわけではないのか。

 私は再び歩き、なんとなくアイスを売っているお店に入った。

 食べたことのない、たくさんの味が並んでいる。


 こんな珍しい味とか、選ぶ人そんなにいるのだろうか。

 そんなことを思いながらアイスを眺めていると、隣にさきほどの少女が同じようにしていた。


 そしてこちらを見上げてくる。

 だが残念だ。


 今日の私はきれいな私。

 誘惑されたりなどしないのだ。


 私は飲み物を買える場所にむかって移動しようとする。

 その瞬間、私の足にガシッと何かが巻き付いてきた。

 さっきの少女だった。


 なにこのかわいい生き物。

 無理~。

 おかしくなっちゃう~。


「……アイス食べる?」


 私が聞くと、少女はコクコクと頷いた。

 いやもう、かわいすぎて無理~。

 おとなしそうなところがもう最高です!


 私もアイスを買って、ふたりで元いたベンチに戻る。

 特に何か話すこともなくアイスを食べた。


 食べながら、ぼ~っと公園内を眺める。

 なんという贅沢な時間なのだろうか。

 こういうのもやっぱりいいものだ。


 ゆっくりとアイスを食べていると、太ももの上に何か感触があった。

 視線を落とすと、女の子がそこで眠っている。


 アイスを食べてお昼寝。

 この子もずいぶんと幸せな時間を過ごしているじゃないか。

 仕方ない、起きるまで待つとしますか。


 私も残りのアイスを食べ終え、その後はスマホで百合小説を堪能する。

 そんなことをしていると、私もだんだん眠くなってきてしまった。


 あ~ダメだ。

 抗えないよ。

 私は目を閉じ、ベンチの背もたれに体を預けた。


 ……。

 ……。

 ……。


「……ずなさん! なずなさん!」

「うん……? あれ?」


「なずなさん! こんなところで寝てるなんて、無防備すぎますよ!」

「ひまわりちゃん?」


 私はなんとか重いまぶたを開く。

 目の前にいたのはなんとひまわりちゃんだった。

 そして私の胸を鷲掴みして揺らしていらっしゃる。


「もう、なずなさん、襲われたりしたらどうするんですか」

「今まさに襲われている気がするけどね」

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